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【連載小説】「雨の牢獄」問題篇(後篇)

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【注意】
本投稿は、犯人当て小説「雨の牢獄」の一部です。
問題篇(前篇)を未読のかたは、そちらからお読みください。

※「雨の牢獄」についての説明はこちら

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 七章 ~再演~


 目を開けると制服姿の警官が身体を揺すっていた。
 頭が重い。喉が渇く。軽く、吐き気がした。

 ――深夜に始まった警察の事情聴取は、早朝に及んだ。

***

 午後一〇時過ぎ、道路が復旧。
 ようやく月島邸に到着した救急隊員と警察官は、リビングで横たわる黎司たちを発見した。目を覚ました黎司たちは月島太郎の不審死を伝え、警察官によって離れから遺体が発見された。
 さらに、事件現場一帯を撮影した瀬奈のデジタルカメラから抜かれたデータカードが粉々に破壊されていること、月島太郎が所持していたはずの新作の構想メモが別荘内から紛失していることが判明した。

 現場検証の結果、月島太郎は『刺殺』であると判明。遺体が被っていた毛布を鑑識が捲ると、遺体の腹部に銀色の物体が突き刺さっていたのだ。兇器はペーパーナイフ。離れの机に置いてあったものだった。遺体頭部の外傷は現場で発見された金槌によるもので、生活反応が一切ないことから死後につけられたものだと鑑識によって断定された。
 事情聴取の最中また降雨があり、別荘周辺の地面の現場検証はかろうじてそれに間に合ったが、それによると『裏口と離れのあいだに一筋だけ残されていた足跡は、離れで発見されたサンダルによって裏口から離れに向かって歩いてつけられたものだ』というのが鑑識の結論とのことだった。
 ――つまり〈足跡の密室〉問題が再度浮上したことになる。

 全員のコーヒーカップとキッチンの電気ポットからは、黎司の予想通り、大量の睡眠薬が検出された。入眠障害に悩まされていた月島太郎が日常的に睡眠薬を服用していたこと、それがキッチンの定位置に常備されていたことは、別荘に出入りする者には周知の事実だった。月島邸にいた誰がそれを混入したのかはコーヒーを淹れた時の人の動きからは断定することはできなかった……つまり全員に可能性があった。
 動機面については月島太郎と枝野麗乃が不貞関係にあり、これらは劇団関係者には公然の秘密だった。能登亜良多は他の劇団への移籍を申し出たが、月島太郎はそれを認めず、佐藤寅男は脚本のアイディアを月島太郎に流用されたと過去に騒動を起こしたことがある……つまり全員に殺害の動機があった。

 そして……
 二階の寝室では、月島蘭の死体が発見された。
 死因は太郎と同様『刺殺』で、キッチンで用いられていた包丁が遺体腹部に刺さっていた。体内からは睡眠薬が検出され、犯人はこれによって昏睡させた上で犯行に及んだらしい。頭部にはこれも太郎と同様に殴られた痕があり、リビングで用いられていた大理石製の灰皿が寝室の床に転がっていた。殴打痕はこの灰皿によるもので、これまた夫の太郎と同様、生活反応がないことから死後につけられたものだと鑑識に断定された。
 ――つまり不可解なことに『月島夫妻はどちらも刺殺された後に頭部を殴られた』ということになる。

***

 事情聴取で言葉巧みに訊き出したそれらの捜査情報を、黎司は反芻した。
 ――そう、殺人犯はただ一人しかいない。




 読者への挑戦 

 本格ミステリの古典的作法に倣ってここで物語を一旦中断し、本篇がフェアプレイの流儀に則っていることを宣言する。
 一連の事件の真相を特定するための充分なデータは、すべて出揃った。
 本篇の主人公である綾川黎司と同じ見聞に基づき――憶測ではなく推理によって――以下の設問に解答することが読者には可能となった。

 ――『足跡の密室』はどのようにして作成されたか?
 ――刺殺された死体の頭部はなぜ殴打されたか?
 ――月島夫妻はなぜ同一方法で殺害されたか?
 ――そして……殺人犯は誰か?

 多忙な現代社会において時間を浪費させられることほど不毛なことはない。
 だから私は約束する――貴方が諸々の労力を割くに値するだけの推理の蓋然性と真相の強度を本篇が有していることを。

 曖昧な解答を跳ね除け、作者が嗤うか?
 完全解答を突きつけ、読者が微笑うか?
 それとも、誤謬を指摘され、作者が苦汁を嘗めるか?

 果敢なる挑戦者諸君の健闘を祈る。


※【解答篇(一)】に続く


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