ドイツの体育授業の様子を見て感じたこと

大学院修士課程在学中に、体育科教育関係の授業を受講したことがあります。
そこで、日本の体育授業とドイツの体育授業との違いに関するビデオ学習があり、その内容をもとにお話を進めていこうと思います。

ビデオ学習の内容は、ドイツの体育授業の様子について紹介するものでしたが、その中ではいろいろな驚きがありました。
気になったのは以下のような点です。

●みんなが同時進行で様々な種目を行っているため、順番待ちで待機している生徒が少ない。
●決まりが少なく、生徒の自由度が高い。
●生徒に対して教師の人数が多い。
●ただ体を動かして運動するだけではなく、感覚を育成するアクティビティがある。
●決められた課題ができるかどうかということを重視していない。
●指導要領を州ごとに自由に決めている。
●あえて危険なアクティビティも経験させている。

日本における体育では、画一的なプログラムの中で、決められた判断基準を基に運動技能の到達度を要求するのに対し、ドイツでは子どもたちが様々な運動を自由に経験することによって、子ども自身が様々な気づきを持ち、幅広い学びを得ることができるような授業を展開しています。

もし仮に日本の学校で、ドイツで行われているような体育授業を行ったとしたら、見方によっては”体育の授業をしないで子どもを遊ばせている”と受け取れてしまうかもしれません。

しかし、このドイツの体育授業は子どものスポーツ競技への参画や健康的な運動習慣の継続のために、非常に良い仕組みとなっているのではないかと思います。

まず、”決まりが少なく、生徒の自由度が高い”ことで、運動中に子ども達の中で独自にルールを作ってみたりするといった創意工夫が生まれやすくなります。
創造性の発達だけでなく、目の前の課題をどのようにクリアすれば良いか予測して実行するといった計画性も養われるかもしれません。
何より、能動的に取り組みやすくなるため、スポーツに対する主体的な関わりに意欲を持ちやすくなるでしょう。

次に、”生徒に対して教師の人数が多い”ことです。
日本の場合では、一人の教師が体育授業を受け持つことがスタンダードですが、ドイツの場合は複数の教師が体育授業に携わっています。
そのため、一人一人の子どもに個別で対応することができ、運動能力の習熟度に合わせた指導を行いやすくなります。
また、安全面においても、教師の目が子ども達に届きやすくなるため、運動中による事故や怪我の予防も行いやすいでしょう。

”ただ体を動かして運動するだけではなく、感覚を育成するアクティビティがある”という点では、子ども達の多様な運動感覚の習得に貢献するものと思われます。
バランス感覚を養ったり、目隠しして歩くといったアクティビティなどが行われていましたが、こうした刺激のあるアクティビティを運動に取り込むことは大切です。
近年、ゴールデンエイジという言葉が聞かれるようになっていますが、この時期に様々な競技や、様々な運動感覚を養うアクティビティを多く取り組んでおくことは、ハイパフォーマンス・アスリートの育成の観点においても重要なことです。

そして、”決められた課題ができるかどうかということを重視していない”という点も非常に重要だと思います。
日本の体育の場合、測定を行なってその結果をもとに評価が行われます。
運動技能があるかどうかが問われる評価法ですので、自分自身の運動能力に対して肯定的に捉えられないといった生徒をつくってしまいます。
しかし、決められた課題ができるかどうかを重要視しないことで、単純に運動を楽しんだり、評価基準をもとにした評価ではなく、自分の運動技能がどのくらい今までより向上したのかに焦点を当てることで、継続した運動への動機や、運動そのものの楽しさを得やすくなるのではないでしょうか。

ドイツの体育授業についての短い時間のビデオでしたが、色々と考えさせられることがたくさんありました。
多少なりと危険なこともやらせているという点もありました。
近年野山で駆け回って、その中で怪我をしながら習得していた運動技能も、今ではそのような様子はあまり見られなくなりました。
バランス感覚を養い、日常生活において必要最低限の身体運動や、経験そのものを得ていくために、多少なりと危険なことにも取り組んでみて、その経験を持って学ぶといったことも必要ではないかと思います。

決して日本における体育授業が劣っているというわけではありませんが、他国の体育授業の取り組みも参照しながら、全員の子ども達にとって効果的なスポーツ・運動ができる仕組みを作っていくことが大事だと思いました。

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