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回復のグリーンサラダ

その日の私は、グリーンサラダをつくるために、とにかくレタスをちぎった。きゅうりを薄切りにした。

冷蔵庫にドレッシングがなかったから、代わりにマヨネーズとふりかけを使った。

サラダをつくっているときは、無心だった。


私はつい最近まで、サラダすらもつくることができなかった。

お腹が空いたら、家にある乾きものや、スーパーから買ってきたお惣菜を、パックのまま食べていた。

そして、お酒だけは飲んでいた。というか、飲まなきゃやってられなかった。

世間では、今年に入ってからコロナ禍が落ち着いて業績が回復してきた会社が多く、明るいニュースが飛び交っている。

けれども私には、不安しかなかった。

対面で取材をして原稿を書く仕事をしている私は、コロナ禍になってから仕事が激減した。そして、今年に入ってからも仕事は戻ってきていない。

コロナ感染症は今年5月からインフルエンザと同じ5類になっているから、国の補助などもない。

私には、不安しかなかった。

元々はおいしいものを食べること、食べに行くことが大好きなのに、仕事が減り、収入が減り、好きなお店に食べに行くこともできなくなった。お店の人や常連さんたちとしゃべることもできなくなり、私の不安は募る一方になった。

けれども、お腹は空く。

だから家にある乾きものや、スーパーから買ってきたお惣菜を、パックのまま食べていた。そして、お酒だけは飲んでいた。

栄養状態が悪くなって、ますますアタマが回らなくなり、悪循環に陥っていたのだった。

今になって思う。心を病んでいたときには、料理がつくれなかったのだと。


最近になって、ようやく新たな仕事の依頼が来た。

依頼された新たな仕事を終えると、なぜか自然に「なにかつくろう」と思った。

それで、グリーンサラダをつくった。

無心になって、とにかくレタスをちぎった。きゅうりを薄切りにした。

グリーンサラダができあがったときには「よし!できた!」という達成感があった。

そういえば、病んでいたときにはそれを感じられなかった。

「なにかをつくろう」という気持ちが湧いてこなくなるときは、自分の中でなにかが異常になっているときだ。

なにかをやり遂げる。小さなことでもいいから。

その積み重ねが、心を回復させてくれるのかもしれない。

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