たたみいわしと水菜のサラダと、魚のシート
暑い。
こうも暑いと、食欲もなくなるというものだ、と思いながら、今夜もなじみの居酒屋へ。
「とりあえず、冷たい夏酒をお願いします~」
スタッフにそう言ったはいいが、おつまみは何にしよう…。ふと隣席を見ると、常連さんが涼やかなガラスの器に入った料理を食べていた。
「それ、何ですか?」
「ああ、これ?たたみいわしと水菜のサラダ」
「涼しそうでいいですねぇ。私もそれにしようっと」
そのサラダの主役は、たたみいわしである。通常は、ちぎったものをそのまま、または軽くあぶってから食べる。
カウンター越しに店主が料理するのを見ると、サラダに使うたたみいわしを、軽くあぶっている。グリルから香ばしい匂いがした。思わず、鼻が犬のようにクンクンと動いた。さっきまで食欲がないと思っていたのに。
「はいよ~。お待たせ」
あぶったたたみいわしが乗った、水菜のサラダ。口に入れると、たたみいわしのパリパリと、水菜のシャキシャキという食感が楽しくて、たたみいわしの塩気が、淡白な水菜と日本酒に合う。
「ん~、たたみいわし、サイコー!」
たたみいわしは、シラスを紙のように漉いてから天日干ししたもので、見た目は白っぽい海苔のように見える。
「いわしは、英語でサーディンなんですよね…」
「へぇ~。そうなんですか」
このところ、日本の食材を見る度にググっている私は、なんとなくつぶやいた。隣席の常連さんに話しかけたつもりはなかったが、同じメニューを食べているだけに、反応してくれたようである。
「この前、ここでちりめんじゃこを使ったメニューを食べた時に、調べたんです。考えてみれば、ちりめんじゃことたたみいわしって、どちらもいわしの稚魚ですよね」
「あ、言われてみれば、そうかもしれませんね」
と、いうことは…。私は早速、スマホを取り出した。「たたみいわし 英語」でググる。
「たたみいわしは、ドライド サーディン シート(dried sardine sheet)ですって」
「シート?!シートって、なんとかシートとかに使う、あのシート?」
「そうみたいですよ。シートって、複数形ならシーツ。紙みたいに薄いものを表す時に使うんですって」
「へぇ~。たたみいわしは、いわしのシートか。言われてみれば、そのままですね」
「ま、たしかにそうですね。それにしても、こんな小さな魚をシートにするなんて、誰が考えたんでしょうねぇ」
私は再び、たたみいわしのパリパリした食感を楽しみながら、夏酒をグビリと飲んだ。この食感は、シートになっていなければ楽しめないなぁ、と思いながら。
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