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エクステリアの園

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私の小説、エクステリアの園をまとめています。 若き日に出会った老夫婦と、園芸を絡めたお話になっています。 ジャンルとしては、恋愛に分類されると思います。 若い人も出てきます。
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記事一覧

小説「エクステリアの園」⑥【最終話】

小説「エクステリアの園」⑥【最終話】

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早川勤が亡くなった。65歳。まだ寿命というには早過ぎる年齢だった。

彼の友人である磯山進は葬儀に出席した後、ひどく荒れた様子だった。

原因は彼自身の内側にあった。友人の死に際して、「ざあまぁみろ」と思ってしまったからだった。

理由は、恐らくはっきりしている。磯山進は高校時代、沢北秋が好きだった。本当に初々しい気持ちで、彼女のことを愛していた。

しかし、友人である早川勤に彼

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小説「エクステリアの園」⑤

小説「エクステリアの園」⑤

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早川勤は無事病院を退院した後、一層庭作りに精を出した。

構想を練り、基本計画を立て、プロの手を借りて設計を行った。

中でも、簡易型の滝を作ることにはこだわった。きちんと水道を引き、水が流れていくように排水工事も行った。

どんどんと華やかになっていく庭を見て、早川秋は感嘆の声を漏らした。

「すごいわ。本当にすごい。庭の緑がこんなに映え映えしているなんて」

庭が見える和室に

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小説「エクステリアの園」④

小説「エクステリアの園」④

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ハヤカワアキラは仕事終わりの夜の時間帯を、夜景を見下ろせる自分の部屋で過ごしていた。

ふと、スマホのけたたましい呼び出し音が鳴った。

画面を見ると「早川秋」と書かれている。

早川明は眉をひそめ、一体何の用だと訝る。

「もしもし」

「明?お父さんが大変なの。今日、庭で突然倒れて。近々様子を見に帰って来られない?」

早川明は早川勤、早川秋の息子だった。とはいえ、22歳で大

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小説「エクステリアの園」③

小説「エクステリアの園」③

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女子高生のマツオカチスズは、近所の市立図書館で椅子に座りながら、今日見つけたばかりの純文学を読んでいた。

自分の場所から見える位置に、熱心に本を探しているおじさんがいる。松岡千鈴はそう思い、ふと、そのおじさんの手元に目をやった。

「日本の庭園について」そんなタイトルの本ばかりが、5冊ほど重ねられていた。

造園に興味があるのかな。そう思い、更に興味をそそられ、おじさんをなんと

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小説「エクステリアの園」②

小説「エクステリアの園」②

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早川勤は、中学時代の同級生であるイソヤマススムの家を訪れた。

「おう、勤」

「やあ、久しぶりだね」

磯山進の家は、早川家の近所にある。しかし、高くて見晴らしが良いので、景観は大分違う。

「どうしたんだ、またこんなところまで」

「いやいや、そう遠くないだろ。やぁね、今度庭づくりを始めようと思ってさ」

「あぁ、園芸かい。まぁ中に入りなよ」

磯山進は、早川勤を中に招き入れ

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小説「エクステリアの園」①

小説「エクステリアの園」①

時は今から48年前。

岡山・博多間に山陽新幹線が開通し、大阪にはローソンの1号店が設立された。

そんな、1975年の日本。2人の高校生が、1つの書道作品を見ながら話をしている。

「君の作品、素晴らしいな。線が柔らかくて…、どこか、明るい感じがする」

「本当?ありがとう。私、結構頑張って書いたのよ」

白のワイシャツに黒いズボンを履いたハヤカワツトムは、作品の目録を手に持ちながら、作品を鋭い

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