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今年印象に残った本の一文(2023年)

2023年は50冊ちょっとの本を読みました。
多いか少ないかは別として、とにかくそれだけの本を読みました。

その中で特に印象に残った一文、フレーズを4冊紹介します!!

何でそれが気になったのか、少し考えたことも書こうかなと。

では。


詩に対する向き合い方が変わった一冊:『月に吠える』

詩は神秘でも象徴でも鬼でもない。詩はただ、病める魂の所有者と孤独者との寂しいなぐさめである。

『月に吠える』:萩原朔太郎

正直、この作品は序文とはじめの方の詩しか読んでいません笑

しかし序文のこの一文で、私が今まで苦手としていた詩歌に対する向き合い方が変わった気がするのです。

極めて単純であると同時に極めて複雑で捉えようのない人間の感情を完全に表現しようとするためには、音楽と詩を用いるしかない。

詩を寂しいなぐさめと表現することで、落ち込んだときにこそ詩に助けてもらおうと思えるようになりました。

↓青空文庫で無料で読むことができるので、ぜひ読んでみてください。


まさか塾の教材で出会うとは…:『ミラクル』

お前は好きな方を選べばよい。誰も強制はしないよ。サンタクロースは存在する、と信じ続けている大人だっているんだ。ほとんどの人間がそれは作り話だと思っているこの世の中でね

『ミラクル』:辻仁成

これは塾で中学生に国語を教えていたときに出会った文章です。
先生の予習の時間にこの一文に出会い、惹かれ、家に帰ってすぐに本を探し読みました。

母を知らない少年のアルが、父との旅の中で大人になるという内容の本作。

これを中学生に読ませるなら、問題文にしないでほしかった笑

大人になるということは、現実の世界に徐々に足を踏み入れるということ。
かつて自分の頭の中にいた空想の友達も、いつか自分の知らないうちにいなくなる。

それでも、感動したことを絶対忘れないように生きていくなら、純粋なまま大人になれるかもしれない。
サンタクロースは存在すると信じて続けている大人のように…

ひたすらに、素敵な表現だなぁと思いました。まさか塾の教材から出会うとは…


書き出しの大切さを知った:『すべて真夜中の恋人たち』

真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。

『すべて真夜中の恋人たち』:川上未映子

なんて綺麗な書き出しなのでしょう。

物語全体の文体も、詩的な風景描写や心理描写がとても美しく透き通っているように感じました。
ただひたすらに、読みやすいです。

また、登場人物のどこか幼い感じを目で見てわかるようになっているのも面白いです。

この本に出会って、書き出しの大切さを強く感じるようになりました。
以降、noteを始めてからは、毎回始めの一文で惹き込むことができるように試行錯誤してます。

文章の書き方に一つの形を与えてくれた作品でした。

この本を読むとショパンの子守唄を聞きながら乾いた風の吹く涼しい夜の道を散歩したくなるような気分になります。


今年一番面白い例え:『マチネの終わりに』

例えば今、自宅でジョン・ケージの《4分33秒》を演奏するならば、その楽器編成は一年前とはまるで違ったものとなっていた。

『マチネの終わりに』:平野啓一郎

赤ちゃんが生まれて賑やかになった様子を表現した一文です。

これは、とても面白い例えだと思いました。

ジョン・ケージの《4分33秒》という曲は、4分33秒の間奏者は楽器の前で何もしない、いわば無音を奏でることで会場全体から生じる音を音楽にしてしまうという曲なのです。

家族が増えたことで賑やかになった日常の生活音を、一曲を構成する大事な要素と捉えることで、楽しいだけじゃない子育ての大変な瞬間すら、楽しいものに見えてしまうような気がします。

ただの例えとして機能しているだけでなく、発想の転換で物の見方を楽しい方に変えているような、そんな素敵な表現だと思います。


ということで、今年特に印象に残った一文を紹介しました。

来年もまたたくさんの文章に触れたいですね。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

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