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日本、または日本企業が窮地に立たされている原因は何か?

2月20日の日経新聞に『医療データ開国迫る巨大IT 健康管理や創薬に変革の波』という記事が出ていました。「世界の医療に黒船が押し寄せている。巨大IT(情報技術)企業が大量のデータを集め、創薬や診療の姿を劇的に変えつつある。血糖値などをいつでも計測・記録できる腕時計型端末など身近な機器の実用化も迫る。日本は医療の電子化が滞り、規格もバラバラの鎖国状態。研究資源や個人情報の保護さえおぼつかないデジタル後進国になろうとしている(日経新聞2月20日)」。これによると2030年頃には医療提供者は医師や看護師による「投薬や手術」から、巨大IT企業の「AIやデバイス」による「病気の予防・個別化医療」にシフトすると言います。つまり今後はアップルやグーグルのような会社が人びとの健康状態をビッグデータとして分析・活用し医療の現場にイノベーションを起こしていくというわけです。この記事でも日本の後進性が指摘されているようで忸怩たる思いですが、あらためてイノベーションについて考える材料だとも思います。

日本、または日本企業が窮地に立たされている原因は何か?僕たちはイノベーションに取り組まなかったのか。そうではないでしょう。しかしイノベーションにはいくつかの種類があります。日本企業が行ってきた代表的なものはインクリメンタル・イノベーション(持続的イノベーション)と呼ばれるものです。つまり従来の技術なり方法を地道に改善していくイノベーションで、品質改善など過去の延長線上にある進化に向くものです。一方、記事にあるのはラディカル・イノベーション(急進的イノベーション)で、従来の延長線上にない技術や方法論を持って、既存の製品サービスやビジネスモデルを破壊してしまうタイプのもの。クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」にあるように、ラディカル・イノベーションによって歴史ある大企業が新規参入企業に成す術もなく「破壊される」現象が起きているわけです。

僕の考えでは、日本や日本企業は文字通り「イノベーションのジレンマ」に陥ったのです。つまり持続的イノベーションを行なえば行うほど、ラディカル・イノベーションに取組めなくなるジレンマです。なぜなら、これまでの実績や過去からのやり方を「自己否定」をしなければならないからです。それに、ノウハウや設備など「持つもの」が多くなっていることもあるでしょう。持つものが多ければ多いほど、それを捨て去るのは容易ではない。すると自然と過去のやり方や考え方を肯定することになります。まさしく「部屋にいるゾウ」の状態です。誰もがそのゾウ(問題)に気付いているのに「いないふりをする」。医療関係者や企業もデジタルの遅れに感づいていたと思います。これではマズいと思っていたでしょう。しかしいまのように本当に状況が悪くならないと変わることはできないし、本当に変われるかどうかもわからない。

ここに巨大IT企業を中心にラディカル・イノベーションが起りつつある。世の中の医療に対するパラダイムが変わりつつある。競争のルールや武器が変わることで、人々の生活や価値観が変わる。つまりそれまでの製品サービス、「強み」だったものがそうではなくなるのです。イノベーションのジレンマとパラダイム・シフト。この2つが日本や日本企業の競争力を失わせた原因だと、僕は考えています。今思えば、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は日本の経営者や国のリーダーを油断させる「情報戦」だったようにも思います。この本の出版当時、1979年の時点でその意図はもちろんなかっただろうから結果論ではあります。しかし僕たちが過去30年間、米国企業以上にこの神話を信じていた可能性は低くないと思います。僕たちは甘言に惑わされて自らの栄光に確信を持つうちに、イノベーションのジレンマに陥ってきたのではないでしょうか。