マガジンのカバー画像

【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

338
今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
運営しているクリエイター

2020年10月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第134話

月の砂漠のかぐや姫 第134話

「今からだと、騎馬の者だけでヤルダンに入るというわけにもいかねぇなぁ。陽が落ちちまう。仕方ねぇな、隊全体で行けるところまで行って、そこで野営するとするか」
 冒頓は日の傾き加減を見て、そう決めました。
 王柔の話を聞いている間に、思いのほか長い時間が過ぎていました。まだ、夜になるまでには時間があるものの、騎馬の者だけで先行してヤルダンに入るには、もう難しい時間帯になっていたのでした。
 また、王柔

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第133話

月の砂漠のかぐや姫 第133話

 ただ、彼女が覚えていたこともありました。それが、あの「はんぶんナノ」の鼻歌なのでした。
「なるほどなぁ。確かにお前の言うとおり、お嬢ちゃんがそこでのことを覚えていないのは、精霊の力のせいなのかもしれねぇな。だが、お嬢ちゃんが覚えているというその唄、俺ははんぶんナノのところしか聞いたことがねぇんだが、本当はもっとあるのか」
 冒頓が言うように、理亜が日頃口ずさんでいるのは「はんぶんナノ」という歌詞

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第132話

月の砂漠のかぐや姫 第132話

 王柔は、この場所に来た時に会った、精霊の子の世話役と思われる女性の言葉を思い出しました。
「すべては精霊の子のお気持ち次第だよ」
 彼女はそう言っていました。
 王柔はその言葉の意味が良くわからなかったので、神聖な場所に入る際によく言われる世俗の期待を持ちすぎないようにとの注意程度にしか、それを受け取っていませんでした。
 ところが、どうでしょうか。
 彼女は、神聖な場所に入る前の心構えでもなく

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第131話

月の砂漠のかぐや姫 第131話

「お願いですから! 聞いてください! お願いですから! この子は人の身体を通り抜けてしまうんです。そして、陽が沈むと消えてしまうんです。本当なんです!」
「僕がこの子と出会ったのはしばらく前で、それはある交易隊の中でした。でも、最初に出会った頃は、理亜は普通の女の子でした。通り抜けたり消えたりなんかはしなかったんです」
「交易隊では、この子は奴隷として扱われていました。いえ、今はもう奴隷ではないで

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第130話

月の砂漠のかぐや姫 第130話

「あなた何か変なこと言ってマスか? わたしはあなたしか見てないですヨ。他にはオージュしかいないし。それで、わたしは、あなたにききたいコトがあるんデス」
「いや、君。君は変わってるねぇ。面白い、面白いよ。ははは、いや、これは、面白い!」
 理亜から正面切って話しかけられた精霊の子ではありましたが、彼はそれを完全に無視すると、自分の顔がくっつくぐらいの近さから理亜の全身を観察し始めました。
 たとえ自

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第129話

月の砂漠のかぐや姫 第129話

「あなたは・・・・・・、誰、ですか?」
 今では自分の顔よりも大きくなって迫ってくる眼球、その中心にある黒い真円に映る男に、王柔は話しかけていました。その黒い海に浮かぶ細い青年は、見るからに心細そうに、自分の身体に両腕をぎゅっと巻き付けていました。その青年は、とても寒そうで、とても苦しそうでした。
「大丈夫ですか・・・・・・」
 誰だろう、この男は誰だろう。王柔はその男を知っていました。とても良く

もっとみる
月の砂漠のかぐや姫 第128話

月の砂漠のかぐや姫 第128話

「え、えーと。どうすればいいのかな。精霊の子はどちらにいるのかな」
 てっきり、案内の女性がどこかの部屋の中に自分たちを連れて行き、そこで精霊の子に紹介をしてくれるものだと、王柔は考えていました。王花と一緒に長老を訪ねたときには、そのような段取りだったからです。でも、何の指示もないままで放り出されてしまったものですから、彼はすっかり戸惑ってしまったのでした。
「まぁ、とにかく、中庭の真ん中に行って

もっとみる