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【本109】『君を守ろうとする猫の話』

著者:夏川草介 出版社:小学館

『本を守ろうとする猫の話』のシリーズ本になります。『本を守ろう〜』がとても良かったので続編が出てとても嬉しかったです。今回は、喘息もちの中学生ナナミが図書館で見かけた本を盗む灰色のスーツ男を追って、異世界で立ち向かう話。前作と同様、猫が案内役として登場します。

『三銃士』『ルパン』など、昔から読み継がれる本を「有害」とする王。現代は、人を蹴落とし無能な者を踏み台にできる人が勝者となる、だから他人を思いやる「想像力」を生み出す本は有害なんだと、王はナナミに説きます。もっともらしく聞こえる王の演説に一瞬怯むも、ナナミは違和感を覚え立ち向かっていきます。

強い欲が大きな力になる、人を蹴落として幸を手にいれる、論理的な言葉は一見正しく聞こえる...という、この本全体に流れるテーマから、現代への警鐘がひしひしと伝わっています。私たちが生きる世界は、いま、大きな歪みと混乱の中にあります。戦争、奪い合い、勝ち組・負け組、誹謗中傷、いじめ、妬み、虚栄心...これらの根源はまさに「想像力」の欠如からくることは間違いありません。

「私には、無数の屍の上に一握りの絶対的な勝者が君臨する、荒涼たる景色が見える。人と人が果てしなく傷つけ合う世界だ。本の力など完全に滅びた世界だよ。」

人は、本を通して、主人公とともに挫折したり、後悔したり、喜んだり、悩んだり、励ましながら、一緒になって成長していく。そんな経験を重ねることで、人は豊かになっていくことでしょう。「知性を育てる」とは何を指すのか、世界をどうデザインしていくのか、私たちは立ち止まる時期に来ているのだと思います。

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