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「ハードボイルド書店員日記」の源流

浦沢直樹「MASTERキートン」は私が最も好きな、そして最も影響を受けたマンガです。

同作品を知ったきっかけはアニメでした。1998年かな? 日本テレビで放送していたのを偶然見まして。エピソードは「バラの館」です。

愛憎と誤解が入り組んだ哀しい事件。落ち着いた物腰で謎を解き明かすキートンの声に惹かれました。知的なのにユーモラス。子どもみたいな一面も備えている。予備知識ゼロで眺める彼はかなりミステリアスで引き出しの多そうなキャラクターでした。

すぐに原作を買いました。オックスフォードで考古学を学びながら結婚し、やがて離婚。軍に入り、除隊後はロイズ保険組合の調査員(オプ)として働く一方、大学講師の職を探している。設定を知って納得し、声優さんの腕に感服しました。複雑な背景を持った人物であることを、演技を通じて初見の子どもに伝えてくれたわけですから。

演じたのが井上倫宏さんじゃなかったら、ここまで夢中にならなかった気がします。私の人生も大きく変わっていたかもしれない。

キートンは作中で言っています。「オプの仕事は好きだ」「でも一生続けたいのは考古学なんだ」と。私にとっての「書店員」と「小説を書くこと」も同じです。シビアな現実。思うようにいかない日々。いつも彼の言葉や行動に元気づけられています。特にオプの仕事を一生懸命やったことが考古学者としての発見に繋がるエピソードに励まされました。

私が毎週日曜に発表している「ハードボイルド書店員日記」も書店員として働き続けた積み重ねが生んだ小説です。ヒントになったのはキートンの生き様。彼のキャラクターこそが作品の源流なのです。そしてその魅力に気づかせてくれたのは他ならぬ井上さんの素晴らしい演技でした。

面識はありませんが、あなたは私の恩人です。ありがとうございました。

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