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「ビガロの敗戦」という教科書

子どものころ、新聞のスポーツ欄とテレビ欄を眺めるのが朝の日課でした。

あるとき、スポーツ欄の下の方に「元横綱・北尾光司がプロレスデビュー。クラッシャー・バンバン・ビガロに勝利」という記事を見つけて驚きました。某経済新聞ですから。

力道山の時代はともかく、私がファンになった80年代以降でプロレスの結果が一般の新聞に載った例は他にあるのでしょうか。三沢光晴さんが試合中のアクシデントで亡くなったときもあるいは。でもそれは趣旨が異なります。

北尾さんってそんなに凄かったかな、と「新日本プロレスワールド」で久しぶりに試合を見ました。

結論から言うと「ビガロ最高」。変な投げられ方をしてもキレイに受け身を取り、蹴られれば飛び上がって威力をファンに伝える。攻める際は打撃や首絞めなどラフ主体。受けの技術に乏しい相手への配慮と自分が目立ってはいけないという遠慮を感じました。

ビガロは191センチ160キロの巨漢なのに飛び技を使います。側転もできます。でもそれらの持ち味を封印してやられ役に徹し、あっけなくフォール負け。

彼は「踏み台」になることが多かった印象です。若いころの闘魂三銃士やキャリアの浅いスコット・ノートンに負け、彼らのポジションを上げることに協力しました。89年におこなわれた日本初のドーム興行でもソ連のサルマン・ハシコミフにわずか2分26秒で敗れました。

当時は「ビガロって見た目の割にあまり強くないな」という感想を抱いてしまいました。でもいま見ると、もっと評価されるべき一流のビジネスマンだと感じます。縁の下の力持ちでいい仕事をしているから、だけではありません。北尾さんとの試合がいい例ですが、負けたことで逆に評価を上げたから。即ち「損して得とれ」を実践しているから。

「自分自分」のちっぽけなエゴに囚われず、相手に都合よく利用されることもしない。この辺のバランス感覚をわかっているかどうかで、仕事のストレスや周囲の評価がだいぶ変わります。我を通すか引くかの見極め。

「ビガロの敗戦」は様々な局面で私を助けてくれた素晴らしいテキストです。改めてプロレスは人生そのものだと思いました。

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