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本屋プラグの ためにならない読書①

 本屋をしているとよく聞かれるのが「どうして本屋を?」という質問だ。その答えが「もうかる仕事だから」でないことだけは間違いない。出版不況が叫ばれて久しい昨今。特に総務省の2016年「社会生活基本調査」によると、過去1年間に「趣味としての読書」をした人の割合が全国平均38・7%を大きく下回る29・5%で、全国最下位だったという和歌山。わずか15坪の小さな本屋を経営していくことは現実として、なかなかに厳しい。

 では、なぜ本屋をしているのか。一言で言えば「本が好きだから」に尽きる。本が好きだから本に囲まれた店を作り、好きな本を売っている。好きだけで店を続けていくことはできないが、好きでなければ続ける気すら起きないことも、また確かだ。

 もちろん「本の面白さをもっと多くの人に知ってほしい」といったような気持ちがないこともない。本屋をしている理由としては「本が好きだから」以上に共感してもらえる気もする。更には「本を通じて地域を元気にしたい」とか。実際、時たま受ける取材では、そうした答えを期待されていることも感じる。最近、スポーツ選手や関係者が「競技を通じて勇気や感動を届けたい」といった言葉を口にするのをよく耳にする。ひょっとすると、それも同じように共感しやすい答え=ストーリーを求められているのではないか。

 ただ自分としては、誰かに勇気や感動を届けるためでなく、自分のためだけに試合に臨む選手がいても良いと思うし、その方が自然に思える。店も同じ。仮に小さな本屋が地域の活性化に何かしらの貢献ができるのであればうれしいけれど、あくまで結果であって、それが店をする理由ではない。もっとも、贔屓(ひいき)にしてくださる方々には、深い感謝の気持ちしかないことは言っておきたい。

 相撲好きの女性ライター2人が日本各地、そしてモンゴルや韓国といった海外で相撲に取り組む、年齢や性別、国籍も様々な〝おすもうさん〟たちを追いかけたルポタージュ『世界のおすもうさん』(文・和田靜香、文と絵・金井真紀、岩波書店)。第5章では「スーパーマーケットのおすもうさん」として、和歌山のスーパー松源の相撲部も登場する。昼間はスーパーで働き、夕方仕事を終えてから土俵に立つ。角界を目指して来日するもかなわなかったモンゴル人店長、一方でプロになる気持ちは最初からなく、ただ好きな相撲をずっと続けてきた社員のおすもうさん。本書では、京都の高校にある女子だけの相撲部で青春の汗を流す高校生たち(第3章「女子高生のおすもうさん」)も強く印象に残った。

 広く注目される華やかな舞台が用意されているわけでもない。誰かに認めてもらうためでもない。ただ、自分の人生の中で好きになってしまった相撲に全力で取り組むおすもうさんたち。その姿に、漫然と日々を過ごしている自分を重ねることはしなくとも、清々しい、爽やかな感動を覚える一冊だ。(本屋プラグ店主・嶋田詔太)

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 2017年、和歌山市万町にオープンした「まちの本屋さん」。お勧めの本や映画などを紹介してもらいます。

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