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月末・スイッチ批評。 2018年3月期・星のカービィ スターアライズ

このコーナーは、こたろが毎月購入したニンテンドースイッチの新作ソフトについてレビューしていく、任天堂愛にあふれたゲームレビュー記事である。では第一回、どうぞ。

■長い前置き。ピンクのかいぶつ。 

「星のカービィ」というゲームをご存知だろうか。いや、もうみなさんご存知のはずだ。ピンク色の丸い体に手足の生えた主人公が、敵を吸い込んだり、特殊なコピー能力を駆使して世界の危機を救うアクションゲームである。
ご存知の通り、その可愛いフォルムは多くの人に愛され、1992年に白黒画面のゲームボーイで登場して以来、ファミコン、スーパーファミコン〜WiiUにまで満遍なく新作が投入されている、任天堂のマリオ・ゼルダに並ぶ主力作品のひとつである。

なかでも名作と言われるのは、初期の作品。ファミコンの「星のカービィ 夢の泉の物語」とスーパーファミコンの「星のカービィ スーパーデラックス」である。
制作していたのは、今「大乱闘スマッシュブラザーズ」通称スマブラを手がける桜井氏(当時 HAL研究所 現 有限会社ソラ)。初期の、桜井氏が手がけた”桜井カービィ”は、まさしく原点である。
敵を吸い込む、吐く、飛ぶ、という3つの能力で楽しさを表現した初代「星のカービィ」。単純ながら奥深い、アクションの名作となる。
さらにカービィに特殊能力としてコピー能力を付加して遊びの幅を広げたのが「夢の泉の物語」、オムニバス形式のストーリーでさまざまなテイストで遊べて、2人での協力プレイや対戦、やり込み要素と目一杯詰め込まれた娯楽大作が「スーパーデラックス」である。
どれもカービィのカービィたる基礎の部分を形成した作品にあたり、今見ても色褪せない楽しさは、クラシックミニファミコン、クラシックミニスーパーファミコンともに収録作品に選ばれていることからも証明されていると言っていいだろう。
そしてこれらの単純明快な楽しさは、当然ながら桜井氏の手によって後の大ヒット作、スマブラへも受け継がれているのである。

◾️『カービィ』発売時期の調整。 

そんな星のカービィの発売はよくずれ込むイメージ。当時期待されていたニンテンドー64版のカービィは、発表は早かったものの、64の後期にあたる時期まで発売されなかったし、ゲームキューブ版の発表もあったが、結局発売は中止された。(要素は次世代機のWii版に引き継がれたが。)
私が、いつしか据置機のカービィは発売時期を期待しすぎずに待とう。という勝手なイメージを持ってしまっているのはこれらのせいだと思われる。

近年は、ニンテンドー3DSという今や子どもに大人気の携帯ゲーム機を中心に新作が頻繁に出ており、ゲーム初心者への入口的だったカービィは、すっかり子ども向けゲームになってしまったようだった。
やってみると決してボリュームが少ない、難易度が低すぎるというわけではないが、携帯機で出るシリーズは個人的にどうも外伝的なイメージが強く、手を出しづらい。実際に据置機版のカービィを待ち望む人も多い。

しかしここで満を持して、ニンテンドースイッチ版のカービィ「星のカービィ スターアライズ」の登場。据置機として、Wii U以来となる新作。3月発売との知らせだった。
この一年、充実してはいたが、まだまだ子ども向けとは言えないラインナップのニンテンドースイッチに、”まずはじめに”、子どもの入り口を作ることができるか。それ一点に絞られた作品のように思えた。
”まずはじめに”というのは、4月に発売を控える「ニンテンドーラボ」を前にしたラインナップという意味だ。「ラボ」は遊びの幅が広く、子どもは楽しむだろうが、楽しみ方を知らせる前に、できるだけスイッチを一家に一台持たせなければならない。
任天堂にとって、そんな”しっかりとした子どもの入り口を作りたい”という想いも乗せた「カービィ」発売なのだと思う。発売日もちゃんと約束通りだったし。

■子ども向け?「カービィ」をやる世代。 

さて。前置きがとてつもなく長かったが、ここからがいよいよ「星のカービィ スターアライズ」レビューになる。

"子ども向け"と言われるカービィだが、今回の中身は…だれもが分かるように作られた”子ども向け”だった。
それが良くもあり、悪くもあり、というレビューになっていくのだが…またも話が逸れ、覆すようだが、実はカービィは”子ども向けではなかった”話をしよう。
カービィはどんな世代の人でも分かりやすく遊ぶことができる、ということを目指してHAL研の桜井氏が作り上げたものだった。
それはスーパーマリオブラザーズのように、スタートして序盤を遊んでいくだけで、全てのアクションを学べるようにしてあることからも分かる。(マリオでは、最初にクリボーがいて当たると死ぬ、ジャンプして土管を登る、ブロックを叩いてアイテムを出すなどが全て序盤で経験できるように仕組まれている。カービィも同じ仕組みである)
そんなカービィは狙い通り、見た目の愛らしさも手伝い、どんどんと子どもや女性人気を獲得、ゲームをしない層からも可愛がられるマスコット的存在へと変わっていった。
一方で私は、これから続編で難易度を上げたものを出すのは難しくなったのでは、と感じる。初心者層は、いつまでも”入門編”的なカービィから抜け出ることができなくなったのではないか。

それが今回の「スターアライズ」にも表れているような気がした。
難易度が(圧倒的に)低い。
3人も仲間を引き連れることのできるカービィは強すぎて、私にはラスボスでさえ弱く感じてしまうほどだった。昔はどのラスボスも強かったイメージだったのだが…子どもだったから、なのだろうか。
今は30代のおじさんが語っているのだから真に受けずに聞いてもらいたいが、このレベルはきっと子どもでも、”子どもをなめるなよ”と思っていると思う。

しかしよく考えろ私。これは”入門編”になる作品だ。
簡単にクリアしてしまったが、この程度のぬるさがちょうどいいこともある。実際に、クリアすると出てくるモードには難易度を調整して挑戦するものもあり、パズルピース集めなどやり込み要素はかなり用意してある。
いつしかカービィは、「全世代で遊びやすい」から「子ども向け」になってしまったようだが、「全世代が遊んでいた」あの頃の人たちに向けた配慮はされているということか。

▲始めたばかりのゲーム画面。ストーリーをクリアすると空白だった部分にやり込み要素が現れる。と、考えるとそこまで子ども向けというわけでも無さそうだが。

■新要素と余裕。

手軽に4人でプレイできるというスイッチならではのプレイスタイル、豊富なコピー能力の数、仲間と4人での合体技、どれも魅力的な新コンテンツだと感じるが、そのどれもが中途半端に見えた。
“簡単にクリアしてしまった”と上記で述べたように、クリアまでのステージ数は少なく、難易度も簡単だ。
要するにボリューム不足の中で、これらの新要素を満喫する”余裕”がなかった。これが中途半端の原因に他ならない。
ただし、この要素のどれもが面白かった。

4人でのプレイは白熱するだろう。2人までしかプレイしていないが、アレやってコレやってと命令し合ったり、対戦モードでも盛り上がった。
ただ、画面が“ごちゃごちゃ”して分かりづらい。ゲームに慣れていない人にプレイしてもらったのだが、自分がどこにいるか分からないと言う。そうしているうちにダメージを受けてやられていく、ということが続いた。

▲上下に分かれて行動する場面も。今回、CP(仲間キャラ)がかなり考えて行動してくれるので一人プレイでも心配ない。4人で遊ぶのももちろん白熱するステージだろう。ただし画面は小さくなり、ごちゃつく。

新しい能力のスパイダーや、ウィップ、アーティスト、ホウキ。頻繁に使うのは1ステージか2ステージ程度だったが、さまざまな能力というのは楽しい。試してみたくなる。仲間と能力をかけ合わせるという協力プレイ的なものもある。
しかしこれらも試しているうちにステージが終わる。

特殊な場所で発生する合体技。4人で円を作って転がってみたり、連なって橋になってみたり。ワイワイとした雰囲気はとても楽しい。
この合体ポイントが全体を遊んでも少なかったのは残念だが、「協力プレイ」を押し出した演出としては最高だ。

これらを総合すると、内容盛りだくさんの“ごちゃごちゃ”だけどボリュームが少なくて遊べる場所が少ない。ということ。
しかし、これを言いたいだけのレビューではないのだ。
さんざん良くなかったことを並べたが、『カービィはつまらなかった』と言いたいのかというと、そうではない。

■“ごちゃごちゃ”の正体。

コロコロコミックという昔ながらの子ども雑誌がある。
ドラえもんをはじめとした連載、その中にカービィもギャグマンガとして連載していた。
記事ページはゴテゴテとしていて、正直、大人が見ていて気持ちよく読めたものじゃない。
だが、これをよく見たいのが子どもである。

▲コロコロコミックの誌面(小学館採用ページより)。”ごちゃごちゃ”した誌面だが読みやすいし、ワクワクして読める。

何十年もつづくコロコロがゲーム記事をやり出してからはずっと"ごちゃごちゃ"だったし、ライバル誌のコミックボンボンだって思えば同じような"ごちゃごちゃ"誌面だった。
これは子どもが好む“ごちゃごちゃ”なのである。
“ごちゃごちゃ”した中に、新情報がたくさん詰まっている、オモチャ箱のような誌面が求められている。

『カービィ』は新要素をたくさん詰め込んで、画面の中でいろんなキャラが所狭しと大暴れする。なんとも子どもの好きそうな構図じゃないか。
これが最近のカービィの正体、なのだと思う。

◾️"平成終末世代"の『カービィ』。

以上のことから言えるのは、『カービィ』はやはり、子ども向けに変わってしまったのではないか、ということ。
悪い意味じゃない。
今の時代に必要なカービィに変わったということである。

そして大人になってしまった人たちに対して言いたいのは、大前提として”桜井カービィ”では当然ないかつてのカービィを超えるのは無理だ。と言ってしまっていいほどに”桜井カービィ”は完璧だったからだ。なので”桜井カービィ”後のカービィ作品はほぼ、思い出話をするようなもの。(後の作品に面白いものがないとは言っていない)
“桜井カービィ”ド直球世代は、この先「思い出話をいかに笑っていけるか」を楽しむもののように変わってしまったと思う。もちろん大きな変化を期待はするが。

『星のカービィ スターアライズ』はボリュームは少ないが、嫌いじゃない。25周年のてんこ盛り感はむしろ好きだ。続編とか出してもっと楽しませてくれ。カービィ好きなひねくれたオトナより。

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