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ベン・バーナンキ『危機と決断』読んだ

積読解消シリーズ。7年ほど積んでた。
Kindleなので積むという表現が正しいかどうかわからない。

そして7年の間にKindle版が無くなってるし。なんでやKADOKAWAさん。

内容は言うまでもなく第14代FRB議長ベンジャミン・バーナンキの回顧録である。

全体の6分の1ほどが生い立ちからFRB議長就任までが描かれている。ユダヤ人だとは知らなかった。

2006年にFRB議長をアラン・グリーンスパンから引き継いで1年ちょっとでサブプライム危機が始まり、8年間のほとんどをその対処と後始末に費やすことになる。

2007年の始めころにはサブプライム・ローンはやべえと一部の人々が騒ぎ始めていたと記憶しているが、FRBにおいてもそこまでの危機感はなかなか持てなかったようだ。というのもサブプライム・ローンは元々は良いものと認識されていたのだ。人種的マイノリティなど多くの人が住宅を所有できるようにという善なる意図で始まったものだった。

プライムほど信用度は高くないけど、NINJAとかインタレストオンリーみたいなもっと危険でpredetaryなのもあったわけで、サブプライム・ローンを悪者と決めつける風潮は当初はなかったようだ。

さりとて2007年8月にBNPパリバが傘下のヘッジファンドの引き出しを凍結、2008年3月にベア・スターンズ救済、9月のリーマン・ブラザーズ破綻と一気に進んでいくのは皆さんご存知のとおりである。

バーナンキやイエレンなどはこうした事態に合わせて緩和的な金融政策を推し進めていくのであるが、こんな重大な危機の真っ最中でも利下げに反対する理事、連銀総裁がいたのは今となっては驚きである。ホーニグ、プロッサー、フィッシャー、コチャラコタといったタカ派の名前を今でも覚えている方は多くいらっしゃると思う。
とはいえ昨今の米国のインフレをみると、しつこいデフレに悩まされる本邦とは異なり、インフレに対する懸念は故なきことでもないようだ。

ベア・スターンズ、ワコビア、ワシントン・ミューチュアルなどの大手銀行の救済も紙一重であったことが本書を読めばよくわかる。これらはどうにか民間の買い手が見つかったが、リーマン・ブラザーズはどうしても買い手がつかず破綻させるほかなかったのだ。

モラル・ハザードの極みはAIGの救済であり、これについてはバーナンキも怒りを隠していない。サブプライム危機にさいしてFRBは金融機関に大量に貸付をおこなったがちゃんと担保をとっていた。しかしAIGは担保を取れず、しかも世界最大の保険会社であるから潰すわけにもいかず、保険会社としての営業力を担保にする格好で救済したのである。救済資金はAIGPFからCDSを買っていた投資銀行などに流れたのである。

いくらFRBが中央銀行として独立性があるといっても、巨大金融機関を救済する資金を果てしなく融通できるわけではなく、連邦議会の後押しも必要であった。TARPなどと呼ばれた救済策を可決するのに議会が二転三転したのを読んでいて思い出したのであった。

あのような超緊急事態でも、有権者向けのパフォーマンスをしてしまう議員たちもさることながら、やっぱり民主主義って怖いなあと思ったのである。

もちろん危険なギャンブルで儲けておいて、潰れそうになったら政府に救済してもらうのは都合が良すぎるのではないかという感情は理解できるし、バーナンキもおおいに共感している。だがウォールストリートが崩壊すればメインストリートにも悪影響があるわけであるし、実際長いこと高失業率に悩まされることになったのだ。

あるいは救済される金融機関の役員の報酬を制限すべきだとの議論があったのも思い出した。これまた心情的にはよく理解できるが、わやくちゃになった会社を立て直す有能な経営者を雇うためにはそれなりの報酬が必要なわけで、、、

それでバーナンキ、ガイトナーNY連銀総裁、ハンク・ポールソン財務省長官は議員から様々な批判を浴びるのであった。面白いのはバーナンキが、あなたの意見に同意するが反対票を入れざるをえなかったと告白する議員がいたとバラしていることである。議員がジキルとハイドになるのは洋の東西を問わないんだね。

というような苦労話を読んでいて感心したのは、この人達が途中で放り出さなくてよかったなあということだ。バーナンキもガイトナーもポールソンもその他の人々も、別に途中で辞めたって飯を食ってくのに困るわけじゃない。理不尽な批判に晒されたとき、ほな勝手にせえやということもできたのである。

私は弱い人間なので、自分がへこたれたら大変なことになるような情況で辞めてしまいたくなることがしょっちゅうある。だからあの危機の最中に米連邦政府高官たちが投げ出さなかったことを大変ありがたく思うのであった。


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