彼女が将棋はじめました。

僕の彼女は狂っている。自覚していないという点でさらに狂っている。そんな10年付き合っている彼女が将棋を始めた。

社会人になって始めたというのはやはり彼女らしいが、始めた理由が鬼滅の刃であるというからより一層彼女らしい。聞くところによると、彼女イチオシの時透無一郎が鬼滅学園(スピンオフ作品)にて棋士のようで、彼女は将棋で強くならなければならないようだ。(?)

将棋というのは上達までになかなか時間がかかる。コマの動かし方にクセがあるし、上手な相手でないと練習にならない。たまに勝てるぐらいの相手がよい。だいたい人間たるもの多少負けず嫌いで、ゲームにハマる理由は初勝負で勝てたこと、センスを見出だせてもらったことが常である。だから初心者を相手にする時にはバレないように手加減してやらればならぬ。

僕たちはデートをする度に百鍛将棋というスマホアプリで将棋をするようになった。スタバ、電車の中、歩きながら、ところ構わず将棋をする。勿論、毎回惜しいところで僕が勝つ。
「この飛車はとらないであげるね。」
「そんなところにおいたら僕がとっちゃうよ。」
そんな助言を与えるハンデを与えながらすんでのところで僕が勝つ。

そんなやりとりで思い出したのが、祖父との将棋の思い出だ。僕は祖父から将棋を習って毎回挑んでは負けてはいたけれど、習いたての頃は楽しくて毎日のように僕は祖父に挑んだ。
「飛車角落ちでやろうか?」
「そんな気遣いはいらない!」
いつも祖父は勝たせてくれるようで最後は僕が負けてしまう。負けるごとに僕もこの手はだめだ、と勉強して強くなった。そして、僕はある時、祖父に将棋で勝った。祖父は自分が負けたにもかかわらず、少し喜んでくれた。
「そんな手が打てるようになったか。強くなったな。 」

僕は先週、そんな祖父と打っていた懐かしの公文将棋を彼女と買いにいった。彼女は藤井四段が打っていたとかで偶々知ったようである。僕たちは次のデートで初めてアプリではなく公文将棋を打つことになった。場所はケンタッキーである。

最初は優勢だったが、彼女の拙い攻撃を無視してせめてばかりいると、気づかない内に王の周りに敵兵が囲んでいた。斜め右には銀、前後は飛車がきいているから動けない。ただ、まだ左側には大きな穴がある。

彼女よ、僕をなめちゃいけないよ、これは簡単に逃げられるじゃないか、と王を動かした瞬間に待ってましたといわんばかりに彼女の指摘が飛ぶ。
「そこは角がきいてるからね。王さんとりました、私の勝ちぃ!」
僕は彼女に初めて負けてしまった。あっけなく終わってしまったが、僕は祖父に一年間勝てなかったことを思い出して、2ヶ月ほどで僕に初勝利した彼女の成長速度と無一郎君への愛を確認した。
「そんな手が打てるなんて本当に強くなったなあ。センスあるやん。」

僕は将棋でも彼女に頭が上がらない日が近づいてきていることを薄々感じはじめている。




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