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UFO研究会(ショートショート)

 4月、大学の入学式。さまざまなサークルが部員の確保に懸命になって勧誘しまくる季節。桜が散る中、キャンパスは人で賑わっていた。
「UFO研究会でーす。絶対面白いから、体験入部でもいいから、どうですか?」
 矢崎は大学の3年生。UFO研究会の幹事だ。部員男子4名女子2名の小さなサークルである。4年生が就職活動で抜けたので、是非ともあと4名、トータルで10名にはしたいと考えていた。
「おーい、捕まえてきたぞ」
 石川が男を2名連れて、戻ってきた。同じく3年生。会計をまかされている。
「じゃあここに名前と住所と電話番号を書いてね」
 2年生の山根がテーブルを指さし、男2名に指示した。山根は見栄えがいいから、こういう部員勧誘にはうってつけである。案の定、2人は山根を見て、あっさり言われた通りに名前住所電話番号を書いた。これで入部決定である。逃がさへんで、と矢崎は笑う。
 本日の収穫はもう1名。ひょろっとした青白い顔で、その割にやたら背が高い男子であった。
 早速、本日、3名の歓迎会を行うことになった。場所はいつもの居酒屋、東行である。夫婦で切り盛りしている小さな店だが、2階があり、いつもそこを貸し切って、宴会をしている。
「では本日入部の3名、自己紹介をお願いします」
 矢崎がいった。
「古川です」「小西です」「細川です」
 3名はそれぞれ名乗った。青白い背の高いのが細川で、古川は眼鏡を掛けたインテリっぽいやつで、小西はいかにもオタクという感じの小太りな感じの男子だった。
 矢崎や、石川、山根、他もそれぞれ自己紹介した。やはり3人の目当ては山根であった。ところが、この山根、潰しの山根といわれるくらい酒に関しては怖い存在なのだ。美人にお酌されれば、ただでさえ飲む。それが度を越して飲まされるので、必ず、山根に目を点けられたら、酔いつぶれて、ゲーゲー吐きまくるのがオチであった。
 時は昭和である。20歳未満でも平気で酒を飲んで、店でも提供していた時代である。法律には触れるが、そこは寛大な、いい時代であった。念のため。
 まず最初に潰れたのが、小西であった。トイレに行って吐きまくった。ついで古川。こいつは吐いて元気そうな体裁で戻ってくる。意地っ張りなようだ。意外や意外、青白い顔の細川は、いくら飲んでも酔わない。顔は青白いままなので、大丈夫なのかどうなのかもわからない。
 山根は調子に乗って、どんどん細川をターゲットにして飲ませだした。
「さあ細川君、私と一気飲み勝負よ」
 そういって誘い、焼酎のお湯割りを一気飲みさせる。山根も付き合って飲む。山根はうわばみといわれるくらい強いのだ。
 だが細川も負けてはいない。一気飲みを断らずに飲んだ。矢崎は少し心配になった。青白い顔が、何だか、ますます青白くなっているように見えたからであった。
 そしたら突然、泡を吹きだして、細川が倒れた。
「やばい。やばいぞ。救急車呼ばなきゃ」
 石川がそういった。それを矢崎がさえぎり、
「ここで救急車何て呼んだら、サークルが解散されてしまう。それは得策ではない」
「じゃあどうするっていうんだ」
 そういう石川を制して、矢崎は言った。
「俺たちはUFO研究会だぞ。UFO様を呼んで、治してもらうんだ」
 サークルの連中は大まじめに細川を中心にして輪を作り、
「UFOさん、UFOさん、どうぞお越しください。この男の体を治してやって下さい」
 と何度も唱えだした。入部したての古川も小西も一緒に輪になって唱えた。心中、「このサークルやばいな」と思いながら。
 すると窓から光が部屋に差し込んできた。
「おっ、お越しになった」
 矢崎がガラッと窓を開ける。車のヘッドライトだった。
「まだ祈りが足りない。みんな真剣になって祈るんだ」
「UFOさん、UFOさん、どうぞお越しください」
 そこへ食べ終わった食器を片付けにおかみさんが2階に昇ってきた。そして細川の顔を見て、ビックリして、
「何してんの、この子、やばいんじゃない。救急車を呼びましょう」
といって、急いで2階から降りていった。
「UFOさんは来ずにおかみさんがきた」
 石川がいった。
 やがて救急車が来て、細川は病院に担ぎ込まれ、一晩、入院する破目になってしまった。矢崎がそれに付き添った。
「あーあ、山根があんなに飲ませるからだよ」
 石川がため息交じりにそういった。
「UFOさん、こなかったですね」
 他の部員がそういった。
「もうこのサークル解散になるんでしょうね」
 他の部員のそれ以外の部員がそういった。
「UFOさんくるのかと期待していたのに」
 他の部員のそれ以外のまたそれ以外の部員がそいった。山根は1人手酌で焼酎を飲んでいた。
 
 翌日、当然ながらこの件は、学校に知れ渡って、UFO研究会は活動中止を命じられた。

 

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