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インノサンという宇宙

『イノサン』ではない。古屋兎丸が少年十字軍を描いた全3巻のコミックである。
正式名称は『インノサン-少年十字軍』である。

神からの啓示を受けた少年エティエンヌが、12人の仲間たちと少年十字軍を結成し、エルサレムへと旅立つ。
少年十字軍とは13世紀初頭、エルサレム奪還のために旅立った少年と少女を中心とした十字軍で、詳しくはネットの大海に資料が転がっているので割愛するが、一部の少年十字軍は騙されて奴隷商人に売り飛ばされてしまったという悲劇性も持つ。

神の啓示を受けたといえば『ジャンヌ・ダルク』がいるが、彼女の漫画だと最近だと『レベレーション』がある。ジャンヌ・ダルクはやはりミラ・ジョヴォヴィッチの映画版がやはりイメージとしては有名だ。

この漫画は古屋兎丸らしく、美少年がたくさん登場する。基本的には美少年かつ、一癖も二癖もある連中が登場する。いつもの古屋兎丸先生である。
つまりは、今作は美少年十字軍であるわけだが、この中に1人、ハンセン病に冒された少年が登場する。初登場から包帯グルグル巻で、スッカル(砂糖)をいつも欲しており、もう目から光が奪われようとしている。
この少年は物語のミスリードにも使われるが、容姿は過去は一番の美少年であったという。
この人物はおそらくは、『キングダム・オブ・ヘブン』でも描かれたエルサレム王ボードワン四世ではあるまいか。若き賢王は、同様の病に冒されていたが、以前は真に美しい青年であって、病を患ってからもなお、聖なる心を忘れなかったという。
いささか誇張が過ぎるのかもしれないが、然し、この聖人はイメージにあっただろうと思うのは題材からしても、想像に難くない。

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ボードワン四世は『キングダム・オブ・ヘブン』中でも屈指の造形力で魅力的なキャラクターとして描かれており、ぶっちゃけ彼が退場したらあとは……。主演のオーランド・ブルームのバリアンもいい騎士だが、やはり『キングダム・オブ・ヘブン』は西洋と中東の交りあう混沌とした世界が良い。

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私も、エルサレムに大変憧れており、是非一度聖地をこの目で見てみたい。然し、物見遊山の私には到底預かりしれぬ、長い歴史のある場所で、そのようなことは簡単に言っても良いものか。キリストのお墓などもあり、すごく並ぶそうだが、ジーザス・クライストほどのスーパースターは永劫顕れそうもない。
ゴルゴダの丘、ゲッセマネ庭園など、有名所もたくさんあるが、何よりも、そこで、本当に、様々なことが起きたのだ、ということにロマンを感じる。キリストが抽象になるまえ、具象だった頃の時間……。その時間がかつてはあったことを、汎ゆる教会とは違い、実感をもたせる場所ではないだろうか。

少年十字軍は非業の最期を遂げた、という話もあり、神の啓示を受けた、という人の話というのはそのほとんどが(いや、全て?)が嘘か幻ではあろうが、然し、その嘘か幻かが、今の世界を形作り、共同幻想が砂上の楼閣として君臨している。
私達は幻想の中にいきており、現実、というものも、すぐに反転する危うい地平である。
然し、この幻想がいつか宇宙の果てまで届くこともあるかもしれない。私が生きている間には不可能であろうが、けれども、筆先でならば人は宇宙を超えて、新しい次元すら泳ぐこともできるのだから、一先ず、そのようにペンで遊ぼうと思った次第。

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