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書店パトロールⅨ

今日も今日とてゾンビのように本屋を徘徊する私である。
何か買ってやる!お金を使ってやる!その思いを炸裂させるために、私は本を見繕うわけだが、やはり、最近の物価高のせいで、どの本も500円以上するため、逡巡するわけだ。

まずは、帯でお!となった本、「ほぼすべてのセリフが詩、」と謳うゲーテの『ファウスト』。
ほぼ、というのがいいなーと思う。分厚いなー。え、5,940円だってい?

財布を開けると、小銭で600円しかない。そもそも、買うつもりがねーじゃねーか、という話だが、なーに、カードがあるのだ。然し、カードは欲望のたがが外れるため、なるべく使いたくないのだ。
私の座右の銘、『切り札は先に見せるな。見せるならさらに奥の手をもて』である。然し、更に奥の手なんてもってるわけないのである。
切り札はカード。私は未来を思い、5,940円で買えるスタバのフラペチーノを想像し、本をそっと棚に戻した。
読む歌劇である『ファウスト』。ゲーテよ。さらば。

私はゲーテに別れを告げて、つぎに、悶々としてる文豪を発見した。

『文豪悶悶日記』である。文豪たちの、悶悶随筆を20偏ほどピックアップした本のようで、価格も非常に安価である。されど、私は600円しかないし、購入はもちろん見送る。発売は9/19なので、最新作だ。
まぁ、むしろ、もう、全員バカ、くらいのタイトルで本を出してほしいものだ。そして、こういう本には大抵スター作家の芥川、太宰、夏目が入り、そして毎回といっていいほど、中也や啄木が参戦するのである(この本にいなかった)。もうええて、もうええねん、太宰も芥川も夏目も。あんたたちの頭がおかしいのはもうわかったから、たまには売れてないやつとかに檜舞台を踏むチャンスを与えてやってくれよ。いつもお前らじゃねーかと。いつもだよ、三島、谷崎、川端、太宰、それからえ、村上春樹?いつも同じメンバーじゃないか。互助会じゃないんだからさ。もう十分稼いでるやないけぇ。
「そんなこと言ったって、スター作家がいなきゃ売れないだからしょうがないじゃないか。」
えなりかずきの声が谺している。私はかぶりを振って、他の本に目をやる。

私は海外文学コーナーに逃げ込んだ。
そこには、真っ赤な本が差してあって、とてもきれいで思わず手に取る。

箱付きの本は豪華である。そういえば、西村賢太も函付き本を作りたくて、『羅針盤は壊れても』は函入りの美しい装丁の本だった。めちゃくちゃ高額になったのである。3,000円くらいの本が諭吉超えであるから。
この『クリスマスの殺人 クリスティー傑作選』は2022年版だという。2021年版もあるそうで、それはブルー。こちらはよりクリスマス感を出した色合いというわけだ。

そうして、無論買わずに、視線を下に落とすと、「お!美しい装丁の本が。」
『無限角形 1001の砂漠の断章』なる本が。

これは5月頃に出た本なのだな、とパラパラめくると、なるほど、短文からちょっとした長文が、ショートショートのように散りばめられている。

紀元前から現代まで、エルサレムを中心とした世界の神話、政治、文学、音楽など1001の断片を編み込んだ、
家族と友情、愛と喪失にまつわる、私たちについての物語。

と、ある。
これが1001、つまりは『1001秒物語』ということか。と、私はこの本を買う決意をする。

するが、然し、私は600円しかない。そして、カードは私には切り札であり、奥の手はないので、切り札は見せられない。私は、いつかまた相まみえることを期待しー、そっとその本も棚に戻す。







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