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『座頭市』と『首』と『バガボンド』

もうすぐ北野武監督の新作『首』が公開される。


北野映画、といえば、キタノブルーだが、ブルーっといえばキャメロンブルーもある。
で、北野武の映画ではやはり私としては『座頭市』が好きである。

『座頭市』は2003年の9月に公開されて、興行収入は28億円くらい稼いだ。
北野武の映画は大体数億円、ヒットしても10億円くらいで、『アウトレイジ』もヒットしたが、『座頭市』は驚きのヒットだった。その前の『Dolls』が9億円くらいだった。

ちなみに、『Dolls』は文芸物で、浄瑠璃をテーマにしているが、この中には谷崎潤一郎の『春琴抄』をモチーフにした深田恭子のアイドルとそのファンの話がある。他のファンに顔を傷つけられた深キョンのために、自分の目を潰すファンである。このアイドルの名前は春奈、であり、まんま春琴、そしてファンの名前は温井ぬくい、だが、『春琴抄』の眼を潰す従者の佐助が後年、温井検校ぬくいけんぎょうになるため、まぁ、まんま『春琴抄』なのである。

なので、文芸ファンには是非とも観ていただきたい作品である。

平成版『春琴抄』。『Dolls』は繋がり乞食をテーマにしているが、とんでもないモチーフだ……。

この頃から、ビートたけしは金髪にしていて、それは、「金髪の座頭市」に違和感を持たれぬよう、馴染ませるためでもあったという。
で、映画が公開するちょうどその頃、『モーニング』誌上で同誌に『バガボンド』を連載中だった井上雄彦との対談が組まれていた。それが既に20年前とは驚きだが、当時の『バガボンド』はちょうど佐々木小次郎が関ケ原後の落ち武者狩りにて、農民と乱戦を繰り広げるあたりだった。単行本でいうところの、19巻とかくらいである。
『バガボンド』の佐々木小次郎は聾唖であり、耳が聞こえないが、眼がめちゃくちゃいい天才剣士である。

これはやっぱり花道と流川のセルフオマージュなのか?


あれから幾星霜、『バガボンド』は37巻まで発売されて、連載休止から既に9年ー。その間に井上雄彦御大自らの監督アニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されたりしていて、私は、恐らくは『バガボンド』の巌流島を映画でやるんじゃないかと見ているがどうか。
『THE FIRST SLAM DUNK』の大成功で、続編などを期待されていると思われるが、そこはやはり、同じことはしないと思われる……。
『バガボンド』も物語は38巻(連載で単行本半分まで進んでいる)で小倉にて二人が邂逅する前であり、一応、2008年の『最後の漫画展』において、最終回的なものは描かれたが、然し、肝心の『巌流島』がまだなのであって、まぁ、もう実質は24巻における、武蔵と小次郎の枝での斬り合い遊びが
それに該当するのかもしれないが、やはり宮本武蔵と佐々木小次郎といえば、それはもう巌流島なのであるから、ぜひ、濃厚な2時間を映画で描いて欲しいものだ。
で、全く話が脱線したのだが、とにかく、『座頭市』は素晴らしい映画である、ということである。普段は、久石譲の音楽ばかりだが、今作は鈴木慶一である。
あのタップは無論最高だが、「時代劇の終わりは農民が勝利する。そして、盆踊りとか踊りで〆るので、今作はタップにした」、というのがもう素晴らしい。普通の発想ではないのだが、今作は殺陣も良かった。
キンキン斬り合ったり、くるくる回転して戦うのはあまり好きではない。
今作は、基本的には大抵は一閃刀を交えれば、或いは抜けば、どちらかが致命傷を負い、死ぬ。
途中に、雨降る中に砂の上で多数と斬り合う回想シーンがあるが、そこの殺陣は私は汎ゆる殺陣の中でも一番好きである。
意外に、『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルンとウルク=ハイのラーツとの殺陣も好きである。ああいう重量級で西洋の剣術で戦うので正統派なのはあんまり見たこと無い。最後にラーツを首チョンパするのも良い。流石ピーター・ジャクソンである。
殺陣で好きなのは『グラディエーター』のマキシマスと仮面被ったおっさん(周りに虎がいるやつ)も捨てがたい。
あれ、なんか最後にマキシマスが思いっきり相手の足に斧かなんか振り下ろすんだけど、喰らった相手が悶絶して仮面の口から血が滴るのがたまらなく痺れるシーンだ。とんでもない痛みが伝わるシーンで、演出力が冴えている。
それから、リドリー・スコットは『キングダム・オブ・ヘブン』もいちいち格好いいシーンが多いが、この映画でも、始めに森の中で戦闘があるんだけど、あそこらへんもカメラワークが巧みで、混戦なのにすごく画面が整理されていて、全く見やすい。なぜ、リドリー・スコットの映画は殺陣も素晴らしいのか。それはリドリー・スコットであるからである。

まぁ、そんな感じで、『座頭市』の殺陣も頗るいいのである。
最後に、浅野忠信の用心棒と斬り合うところも、達人同士の闘いという感じでいい。
北野武は、今作において、「俺だってちゃんと美味いカツ丼くらい作れるよ」というスタンスで臨んだという。美味いカツ丼、つまりはエンターテイメントである。
基本的には、文芸作品を書く人間は、その気になればエンタメも作ることができるのだ。
逆のほうが難しい。ただ、文芸作品を作る人間には、エンタメを作るのは案外疲れるものなのだ。お約束、起承転結、カタルシス。このあたりは、作劇を学んでいる人間ならば大抵は把握している。
然し、北野武のカツ丼は、これはもう美味いだけでなく綺麗なのである。なんとも香のあるカツ丼である。
そもそも、デビュー作から完全に独自のオーラを持っており、既に20本近く映画を撮っている巨匠、その巨匠がついに大型時代劇である。これは観ない手はない。
時代劇には馬が大量に必要だということで、以前、武は諦めていた。馬といえば、1話あたり数千万円する大河ドラマにおいても、今年の作品『どうする家康』においては、合戦シーンのお馬はCGである。馬は高い。北野武の映画は制作費数億円くらいだろうから、馬、衣装、エキストラ、と、とんでもなく金のかかる時代劇は、やはり高嶺の花であり、映画製作者にとっては夢なのである。

時代劇の持つ計り知れない魅力。それは西洋問わず同じである、

そして、巨匠は時代劇の超大作を作りたいものなのである。それはある種の戦争であるから。宮崎駿の最大規模の時代劇は『もののけ姫』であるが、これもアニメーションではあるが何十億もかかっていて、壮大なものになっている。宣伝費は50億円を超えている。引退作と銘打ち(まぁ、本人はそのつもりは全くなかったようだが)、その後実際には5本を新作を作っているわけだが、とにかく、最後の最後、引退などになると、壮大な時代劇を実現させたいのである。なぜならば、それはある種の戦争であるから(大事なことなので2回描きましたしご。)

そして、リドリー・スコットは今年、『ナポレオン』を映画化した。

公開は12月だが、これも楽しみな映画である。ナポレオン。スタンリー・キューブリックが映画化を切望して、そのために凄まじい資料を蒐めたナポレオン。

キューブリックの『ナポレオン』はウルトラに高い洋書の設定資料が出ている。

今年の年末は『ナポレオンの首』に決まり!


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