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ノスタルジア 雨音と水音

このジャニュアリー、アンドレイ・タルコフスキーの『ノスタルジア』の4K修復版が公開される。

『ノスタルジア』はタルコフスキーの中でも破格の美しさを放つ作品であり、イタリアに行き、亡命を果たす直前の映画である。1983年の作品だ。

タルコフスキーの映画ではいつも、水と火がビューティフルに撮られているが、今作もその例に漏れない。

雨音の藝術というものがある。いや、雨も音も藝術なのだ。水音、雨音、それらの音が醸成するあの心地よさは、いつだって、誰だって、その記憶と繋がっている。誰もが雨音や水音にはぐくまれて大きくなってきたからである。
それに、雨音や水音が響くのはそこが静謐な場所だからに他ならない。静かな場所というものは、孤独を作り、厳かな空気を生み出すものである。

『ノスタルジア』には、ビューティーの三乗のような美しい教会が登場する。一番有名なのは屋根のない大聖堂であるサン・ガルガーノ修道院である。
まるで『ファイナルファンタジーⅥ』に出てきそうな場所である。世界崩壊後に。

サン・ガルガーノ修道院は廃墟である。

然し、私が観ていてその美しさに驚嘆して、一度は行ってみたいな〜と思えたのは同じくイタリアにある廃墟の教会である。

半分水に沈んでしまった教会。もう誰も来ないが、水が流れ続ける教会。そこに光が差し込み、打ち捨てられたガラス瓶ですらもキラキラと輝き宝石と輝く教会。

水の美しさ、水のきれいさ、水の持つ濃密な時間、それが全てこのシーンに凝縮されている。
この教会は実際にある。グーグル・ストリートビューでも観られるが、道路沿いにあり、最早崩れかけているそうである。完全な廃墟である。


私の憧れ、いとしいしと。

然し、廃墟、というものは郷愁そのものではないか。そこには様々な人が営み、喜怒哀楽があったのだろう。けれども、どのような場所も、物も、人も、いずれは風化する。
ノスタルジアは、郷愁とは、思いだけではない、郷愁は場所にこそ存在しているのである。

この4K修復版、まだタルコフスキーを観ていない人にはおすすめである。私はタルコフスキーの映画で1番好きなのは『鏡』、2番目は『ノスタルジア』であり、3番目に『惑星ソラリス』がくる。実は『アンドレイ・ルブリョフ』は未見なんだよね。
予告編の時点でその画面の美しさがわかるので、ぜひ観て頂きたい。

アンドレイ・タルコフスキーは日記を書いていて、その日記はプレミアがついていて高いのだが、基本的には愚痴が多く、それはソサエティに対して、映画会社に対してなどが多く、彼はドストエフスキーの『白痴』の映像化を夢見ていて、それは終ぞ実現することはなかった。

ただでさえ長いドストエフスキー、ただでさえ長いタルコフスキー、それが絡まりあったとき、長大な映像叙事詩が産まれて、皆眠りこけるのだった。

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