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はじめてで、最後の妹。

4月19日。

まるで夏の訪れを感じるような春の日。
5カ月の入院生活を無事に終えて、
母が帰ってきた。

退院の時は、リハビリテーションのみなさんが
退院おめでとうの声を集まってかけてくれた。

母は平然としていたけど、わたしの方がうるっと
きてしまった。

あの病院の主治医をはじ療法士さん、看護士さん
スタッフの方々、すべてが恵まれ過ぎていた。

わたしが同じ病を得たら、お世話になりたいと決めて
いるぐらい。

そんな母はいますべての今日の出来事を終えて
夏の全国高校野球のニュースを見ている。

夕飯を終えた頃母が言った。

これから大阪に帰るのしんどいねって。

母は入院していたときも、夕刻になると
どこかに帰りたがっていた。

わたしと暮らしていたこの家に帰って
きても、ある意味彼女の主戦場だった
大阪に帰ろうとしていた。

もうどこにも帰らなくていいんだよ。

今日ここで眠って、明日も眠って朝起きて
それがずっと続くんだよって言ったら
そうなの?

ってそれは安心だねって言った。

わたしは”不肖の娘”なので。

この数か月とくにこの一カ月あたりだろうか。

母が帰ってくることがこの世の終わりの
ように嘆き悲しみ。

自分の自由を闇の中に葬ったかのように
悲嘆に暮れていた。

それだけこの五カ月はわたしにとっての
オアシスだった。

待つ人のいない身になると、帰る時間に
縛られなくて済む。

それはまさしく天国だった。

会いたい人に会い。
会いたくない人にはだれひとり会わないという
わがままを突き通した。

夜遊びを朝帰りを何十年ぶりに味わっていた。

だからこそ、それを明け渡したくなかった
のだと思う。

遅れてきた周回遅れのアオハルみたいに。

そして母の退院を怖れてじぶんを闇の中に
葬った時間を経て。

今何を感じているかというと。

愚かな娘だったなっていうことだ。

リビングで寝息を立てている彼女の寝顔を
みているのがいまは心底幸せでたまらない。

こんな蜜月が待っていたのに、わたしは
ほんとうにじぶんの「欲しい」だけに
集中してしまい、不安の塊に身を染めて
いった。

あの頃のじぶんのことは、大嫌いだ。

じぶんがじぶんじゃなくなっていた。

戻っておいでよって何度も声を枯らして
言ってもわたしは戻ってくることは
しばらくなかった。

でも部屋の準備をしながら、介護ベッドを
搬入してもらったり。

主の居ない車椅子を運び込んでもらったり。

彼女がテレビを見やすいように弟にしつらえて
もらったり。

弟の奥さん、つまりわたしの義理の妹にお庭の
剪定までお願いしたり、天気のいい日には
外窓の掃除までしてもらって。

わたしもお手伝いぐらいのことをしているうちに。

だんだん整ってくる家の外や内を眺めている
うちに、心の方まで整い出してきた。

これひとりじゃ、もしかしたら投げ出していた
かもしれない。

一瞬、施設の方がわたし元のまま遊べるのに。

って鬼のような思いが募ったこともあった。

でもねじれたまま、自分の欲望だけを優先
しなくてよかったと思う。

そして、血のつながらない義理の妹のKちゃんの
なにをするにも、母のことを優先に考えて
くれながら。

わたしの負担を減らそうとしてくれるその心遣いに
なんども救われてきた。

正直に言うと弟よりも話しやすい。

彼女はどう思っているかわからないけど、

ずっと疎遠だった友達といざ会ってみると
意気投合してなんでも言えちゃうみたいな
関係性がこの5カ月間で育まれた気がする。

わたしにもはじめてで最後の妹ができたん
だって思う。

弟が彼女と結婚を選んだ時から彼女はわたしの
義理の妹なんだけど。

今はほんとうの血のつながる妹のように
感じてる。

そんなこと言ったことないけど。

毎日Lineで母の様子を伝え合い、週の半分は面会の
送り迎えをしてくれて。

退院しても買い物や、母の食事の素材と出汁まで
アイスキューブにして冷凍庫に入れてくれる
その優しさ。

ほんとうは弟の結婚では家族の断絶みたいな
こともあったけど。

今母が倒れてからは、そのばらばらだった
家族と言う欠片がしぜんに集まる場所を知って
おのずと集い出した粒子のようになった。

今、わたしの耳の中は藤井風が満たしてくれて
いる。

母は寝息を立てて寝てる。

ここからわたしの時間が始まる。

読んだり見たり聞いたり。思いっきりしたいと
思う。

自由あるじゃんか。

数週間前のわたしにツッコミながら。

この時間がどこまでも続きますように。

そしてKちゃんわたしの妹になってくれて
ほんとうにありがとう!



Kちゃんが母の退院の前の日に
届けてくれたフラワーアレンジメント。
母のお気に入り。
彼女とわたしの希望になっています。




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