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多様性と居場所の哲学

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多様性と居場所の哲学③

多様性と居場所の哲学③

2 『正欲』の脱構築(1)「すべての欲動は倒錯という結果である」という人間観から、性の画一性と多様性を考える ―フロイトの精神分析より―

 先ほど、男と女という分け方に異議を捉えた。それは性的対象にも対応している。LGBTQの性的対象は少なくとも人間である。ところが、登場人物の桐生夏月は、だれにも理解されない異常性癖の持ち主である。それは多くの人間に身に覚えのあることである。胸や尻、足などに興奮

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多様性と居場所の哲学②

多様性と居場所の哲学②

1 多様性の外側から見た画一性(1)多様性を考える

多様なるものを語るとき、例えば、目に見えるものを考えてみる。目の前には花がある、人がいる、建物がある、空がある、など。さらに細かく見ていくと、花には花弁があり、おしべがあり、めしべがある。花弁はいくつかに分けることができる。その花弁一つ一つは細かい細胞からできている。細胞は…、というように、無限に差異が生まれる。よって、無限に多様なるものが存在

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多様性と居場所の哲学①

多様性と居場所の哲学①

朝井リョウ『正欲』の脱構築と再構築を通してはじめに(梗概)

 『正欲』は、多様性の外側にいる人々の物語だ。性的対象の多様性の外側にいる人々の性的対象は人間ではなくものや事柄である。そのような人々は、多様性の範囲すら逸脱したものとして扱われている。実際、私たちの多くは、現代においてなお、人間性は一定の範囲内に収まっていると考える。その際、その外側のものは、人間として扱わず、排除する。

 一方、世

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