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凡人のカフェ開業 ~天才のカフェ経営を真似てはいけない~開業前1-⑥

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2015/6/18 Thu. pm7:00

高円寺で紗季が『山下文七』と出会い
Cafe064で『樺山城平』がカフェラテをいれていた頃
文京区千駄木の『鮨 岸佐和』の
木目がきいたカウンターに2人の男が座っていた。

2人の間には
長野の地酒『松乃尾』がたっぷりと入った
冷やのガラスのとっくりが一本におちょこが2つ。

互いのちょこに酒を注ぎあい
小さく乾杯したばかりだ。
まだお通しもでていない。

向かって左側の男は一見30代にも見えるが
そのエネルギッシュな若々しい風貌は
もうすぐ40に手が届くとは思えない
日本人離れしたくっきりとした顔立ちをしている
もしかしたらどこかの国とのハーフなのかもしれない。

この男の名前は『鹿島 克己』
2012年に神保町にオープンした
希少な古本の交換ができる
会員制海鮮イタリアン
『KABO』のオーナー店長である。

向かって右側の男は
間違いなく克己より年上であった。
それもそのはずで年齢は55。
細身で鋭い目つきをしており
一般にキツネ顔と言われる部類にあたる。
顔に刻まれた皺の深さや
完全に白髪な頭をみれば
60代に見られてもおかしくない。
初見だととっつきにくい風貌をしている

事実若いころは
受け答えなどはしっかりしているものの
眼の奥は笑っておらず
何を考えているかわからないと言われることが非常に多かった。

実際にそう思われても仕方がない人生であった

しかし今は目つきこそ鋭いままだが
実に落ち着いた穏やかな双眸になっている

この男の名は『成澤 大樹』
2014年にオープンした
昼割烹『水に流さず』
のオーナー店長である。

大樹 『うちのオープン前にご相談させてもらって以来なんで約1年ぶりですかね』

明らかに克己より年上の大樹だが
克己に対しては敬語だ

克己 『そうか、大樹さんオープンしてからそろそろ1年かぁ』

そして克己も敬語で話されることに特に違和感を感じてないらしい

克己 『よくその年で業界未経験で初めて、あんな立派なお店だすとか

成澤さん、ほんと凄いっすね』

大樹 『勘弁してください。克己さんのKABOに比べたら、まだまだですよ』

克己 『そんなこと言ったら、俺だってここに比べたらまだまだだから・・・ねぇ、大将?』

いたずらっぽい目線をお通しを置こうとした
ここの主人らしき人に向ける

『大将なんて初めて呼ばれたねぇ』

そう返事するのは鮨岸佐和の主人『岸 啓介』

克己 『だって呼ばせなかったんじゃないですか』

啓介 『そうだっけ』

克己 『なんか照れるから、辞めろって(笑)』

啓介 『覚えてないねぇ。

だいたいねぇ、克己と年だって大して変わらないのに

『大将』なんて呼ばせられるかい

なんかおやじくさいじゃねぇか』

克己 『おやじ扱いされるの、いまだに嫌なんすね(笑)

若いのにおやじ扱いされるのが嫌なのはわかりますけど・・

啓介さん老け顔だから(笑)』

啓介 『うるせぇ』

克己 『いや、だってさ。ねぇ、成澤さん、最初に啓介さん見た時いくつに見えました?』

そう話を振られた大樹の動きが
ちょこを持ったまま止まった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2009/6/21 Sun.(敬老の日)pm22:30

『克己、どうかしたか?』

梅雨全開の土砂降りの営業直後の夜
岸佐和の裏手口を開けたまま動かない
克己に啓介が声をかける

『なんか・・・いるんですよ』

啓介が行くと
裏手口から道路に続く路地に
壁に背中を預けるように
傘も持たず座り込んでいる人影がある。

路地の暗がりで風貌はよく見えないが
ずぶ濡れであるのはわかった

得体の知れない人影が
お店の裏に座り込んでいるなんて
普通だったら
驚いたり、怖がったり、
場合によっては警察を呼んだり
するところだろう

現に克己はこちらに危険が
及ばぬよう身構えている

でもなぜか啓介は何も感じなかった

怖さや驚きはもちろん
その人影を見た時なんの
感情の起伏も起きなかった。

自然に傘をさして裏手口をでて
いつもと全く変わらぬ口調で

『あんた誰でぇ』

と人影に話しかけた。

これが
啓介と克己の大樹との初対面であった。



~~~~~~~~~~~~~~~~

『暗くて覚えてませんよ』

そう朗らかに大樹が答える
それはまるで

もうあの時の自分のことを
必要以上に気にしていませんよ

とでも言うように。

『成澤さん、うまく誤魔化しましたねー』

その朗らかさに答えるように
克己がはしゃいで返事する。



土砂降りの夜の後、
ほどなくして大樹は岸佐和で修業することになる

つまり大樹にとって
啓介はもちろん克己は職場の先輩なのだ

だからこそ、大樹は克己に敬語を使っているのである。



30分ほど飲んだ後

克己 『そうそう、うちの鳥飼って覚えてます?』

大樹 『あぁ、エメラルドダイニングので店長してた・・・若いコだっけ?』

克己 『まぁ、そう若くもないんすけど。

その鳥飼にうちの店長任せようかと思ってるんすよ

まぁ、いますぐって話じゃないんですけどね。』

大樹  『へぇ、またどうしてですか』

克己 『いろいろありますけど

まぁ、楽しそうに仕事してるんで、鳥飼

任せたら面白くなるかな、って』

そう言っておちょこを飲み干す。

空いたちょこに注ごうとする大樹を制して
克己は手酌で注ぎだす。

 『それだけじゃないだろう?』

ほどよくヅケにした鰹の握りを2人の前に
置きながら啓介が話しかける。

克己 『聞いてるんですか』

啓介 『そりゃそうさ

うちの常連さんだよ、山下さんは』

山下さん

今高円寺で紗季と会っている山下文七のことである。

克己と大樹が働く前からの常連であった。




『山下文七か・・・・』

元常連さんに向けるものとは思えない口調で
大樹は文七の名を呟いた。

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