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シリアで殺された米国人...拘束に関与したISの"ビートルズ"

イラクやシリアで、宗教少数派の人々や外国人を殺害したり性奴隷にしたりしたIS。戦闘員の中には、中東に起源を持ち欧米で生まれ育った若者も多く含まれていた。中でも、イギリスなまりがあることから「ビートルズ」と呼ばれた4人が注目されていた。「ジハーディ・ジョン」と呼ばれたムハンマド・エムワジは、クウェートで生まれイギリスの大学を出たとされ、2014年から15年にかけてISが公開した欧米人を殺害する映像に登場していた。

「ジハーディ・ジョン」は15年の11月に米軍の無人爆撃機による空爆でシリア・ラッカで死亡した。他の3人のうち、「ポール」とも呼ばれたアイン・デービスは、15年11月にトルコで拘束された。17年5月、トルコの裁判所はデービスにテロ攻撃の罪で禁固7年6か月の判決を下した。

残りの2人は、アレクサンダ・コーティーとシャーフィー・シェイフ。2018年にシリア東部のイラク国境近くでクルド人部隊に拘束され、その後、イラクで米軍の拘束下に置かれている。

その、コーティーとシェイフの2人が、米NBCニュースのインタビューに応じた。同ニュースは、7月23日付でニュース映像と記事をアップしている。


それによると2人は、ISが拉致・殺害したとされる米国人女性、カイラ・ミューラーさんの拘束に関与したことを認めた。コーティーは「彼女(カイラさん)は部屋の中にいて、誰も入ることはできなかった」と語り、シェイフは「彼女は広く、暗い部屋に1人でいて、とても怖がっていた」と語った。

カイラ・ミューラーさんは、米アリゾナ州プレスコット生まれ。2013年8月、難民の援助活動をしていたシリアでISに拘束されたとされる。当時24歳だった。

NBCが入手した、ISがカイラさんの両親にあてたとみられる電子メールには、ISがカイラさんの両親に、500万ユーロ(約6億円)の身代金を要求し、支払わない場合には、カイラさんの遺体の写真を送ると脅す内容が記されていたという。ISの拘束は主に金目当てだった。

拘束から約1年半後の2015年2月6日にISは、カイラさんが「ヨルダン軍がシリア北部で行った空爆によって死亡した」と発表。これに対し、米当局はミューラーさんの死は確かめられたと明らかにしたが、死亡時の状況については不明で、ヨルダン軍に空爆された際、その建物内にいたかどうかははっきりしないとした。

ISの死亡発表の後も、カイラさんの父、カール・ミューラーさんと母マーシャさんは、娘がシリアで生きていることに望みをつないでいた。死亡時の状況もはっきりせず、本当に死亡したのかすらはっきりした証拠はない。「シリアにいた娘に何が起こったのか」「いかに、なぜ殺され、誰によってどこに遺体は埋葬されたのか」。両親はその究明のために多くの力を割いた。そこで明らかになっていったのは、親ならば平常心を保つことができないであろう、おぞましいISの非人道・犯罪行為だった。

以前、noteに書いたことだが、IS被害者の支援をしている弁護士、アマル・クルーニーさんは、カイラさんがIS指導者のバグダーディやIS幹部で、石油や天然ガスの管理を統括していたといわれるアブ・サヤフから繰り返しレイプされていたと指摘している。カイラさんが拘束されていたのは、アブ・サヤフの邸宅だったといわれる。バグダーディの関与も含め、詳しくはこの記事を読んでほしい。

アブ・サヤフは2015年5月に米軍の軍事作戦で殺害され、バグダーディも2019年10月に米軍により殺害される。彼ら自身の口から、カイラさんに何をしたかは語られることはなかったが、生き残ったアブ・サヤフの妻ウンム・サヤフが、カイラさんが受けた暴力について供述した。ウンム・サヤフは、夫が殺害された2015年5月の米軍作戦の際に拘束され、その後、米CIAやクルド治安当局に、バグダーディの人物像やISのネットワークの実態などについて供述した。

カイラさんの両親は、イラク北部で拘留されていたウンム・サヤフを訪ね、接見している。2019年11月、米ワシントンポスト紙に2人が寄せた手記によると、接見でウンム・サヤフは、カイラさんの死は、ヨルダン軍の空爆でというよりもむしろ、危険な場所に放置したバグダーディの責任だったと認めたという。

IS”ビートルス”のメンバー、コーティーとシェイフは、自身を含めたISがカイラさんをはじめとした犠牲者たちに「何をしたか」、真実を語る義務があるだろう。シェイフは、2018年8月にISによって殺害された米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏の虐待にも関与していたことを示唆している。英語が話せた”ビートルス”は、欧米をはじめとした外国人の殺害にかかわったと言われる。そこには日本人の湯川遥菜さんや後藤健二さんも含まれる。

カイラさんの両親は、コーティーとシェイフが、出身国のイギリスではなく、米国で裁かれるべきだと主張している。「我々の努力の核心にあるのは、ISに殺されたカイラや他の米国人人質の身に何が起きたか、真実を究明することだ」。両親の手記は、そんな切実な言葉で結ばれている。

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