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クッキーを食べながら人生について真剣に話した

「あなたの人生の話を聞かせてください」

こう誰かに問いかけられたら、あなたは何をどう語るだろうか?


最近、すごく印象的だったニュースがある。韓国の人気アイドルグループBTSのメンバーである金南俊(キムナムジュン)さんが、国連でスピーチをしたというものだ。恥ずかしながら私はこのグループのことも、彼らの活動のことも、ニュースで聞くまで全く知らなかった。その時の彼らのスピーチ映像の終盤の部分の言葉がとても印象に残っている。

”I’d like to ask all of you, What is your name? What excites you and makes your heart beat? Tell me your story. I want to hear your voice, and I want to hear your conviction. No matter who you are, where you’re from, your skin color, your gender identity, just speak yourself. Find your name and find your voice by speaking yourself.”

(すべての人に問いかけたい。あなたの名前は?何があなたをわくわくさせ、心躍らせるのか?と。あなたの話を聞かせてください。あなたの声が聴きたいし、あなたの信念を聴きたい。あなたが誰であろうと、どこの出身であろうと、肌の色や性差に関係なく、ただあなた自身の言葉を。あなた自身が話すことで、あなたの名前とあなたの声を見つけ出してください。)

※拙訳はご了承ください。

このスピーチやこの言葉に対しては、多くの人がSNSで称賛しているし、私もとても心動かされた。

そして、ひとつ、留学中のことをふと思い出したのだった。

デンマークでの3か月間の留学最後の夜、ささやかなお別れパーティを友人たちが開いてくれた。イギリスの友人は大きくてチョコチップたっぷりのクッキーをたくさん焼いてくれた。ネパールからの友人には「日本の曲を何か聞かせてよ」と言われ、いくつかJpopの歌をかけ、「なんて言ってるの?」という問いかけに、その都度必死で日本から来た他の友人たちと訳したりした。サザンオールスターズの「tsunami」の訳をしたときには、その甘い歌詞をちょっとどう訳したらいいのか戸惑ったりしながら。

音楽をかけながらみんなで文字通りチリングしているときに、ふいに友人たちが「tell me your life story. We wanna know about you. For example,Who is your best friend?」(あなたの人生の話を聞かせて。あなたのこともっと知りたいし。例えば、あなたの親友はいる?)という具合に私に問いかけた。あなたのお別れパーティだから、あなたが主役なんだから。言い淀んで考えていると、じゃああなたの親友について話してよ。それから、なぜここに来たのか理由も知りたい、と助け船を出してくれた。

皆が私をあたたかく見つめるなか、私は高校のときからの親友について、なぜその友達が親友なのか、それは私は高校のときに体調を壊して死にたいくらい辛かったけど、その友人が支えてくれたから、彼女は同じ部活の友達で…

それでそのあと私はどうしても海外に来たくて、それでデンマークにずっと興味があって、人生に後悔もしたくなくて…楽しいことがしたくて…

などと拙い英語で話をした。友人が途中で言葉の確認をしたり、言い回しの補足をしたりしながら、真剣に聞いてくれているのがわかった。

それを聞いた友人たちは「あなたはあなたの選択や人生にもっと誇りをもつべきよ。話してくれてありがとう。」と静かに答えてくれた。いつもはひょうきんなインドネシアの友人は、終始ずっとあたたかく微笑んでくれていた。言語と文化の違いから、私はなかなか彼らとコミュニケーションが取れているのか不安で毎日仕方がなく、虚勢をはっていたし、自分にとっての一番大きな体験といっても過言ではないことを話すのはとても勇気がいった。けれど話してよかったし、受け止めてくれた彼らに感謝したいと思った。

日本にいたとき、そんな問いかけをされたことはおそらくないし、あんなに真剣に人の過去の話(それが少し重めでも)を聞く場を作ってくれた友人たちはすごいなと思った。話し終わったあとは、私たちはまた他愛のない(といっても、各国の教育費だの植民地主義の話だのでヒートアップしてもいたけど)話に戻った。

もしかしたら海外だとああいう問いかけはそんなに大してめずらしくないのかもしれない。
しかし、海外ではそんなに特別ではない定型文だとしても、個人的に「tell me your life story」という言葉はすごくいいなと思う。

今、例えば新潮45の話とか、巷にはどうやって考えていけばいいかわからないニュースがたくさんあって、それぞれがそれぞれの言葉でつぶやいたり、主張したり批判したりしている。(私も、あの出版については断固批判していきたいしと思っている。)

けれどもやっぱり、相手は生身の人間だということと、切ったら血が出て、ひどいことを言えば傷つく心がそこにあって、ということを忘れたくない。それから、相手の言葉を聞くこと、相手をひとりの人として見ること、そういうことをもっと大切にしたいなと、ありきたりだけど思った。

友人が作ってくれたクッキーはあまりにもたくさんあって、余った分をすべて私にくれた。私は帰りの飛行機の中で少しそれをかじった。日本についてからもかじった。甘くて、バターとチョコチップたっぷりのクッキーの味は、私が私の言葉で私の人生を振り返った記憶と、デンマークで出会ったすばらしい友人たちを思い出させる。けれど私はこの話を甘い過去のノスタルジーにしたくはない。私はまた彼らに会いに行くつもりだし、いつでも彼らと話せるということを忘れたくないから。


参考:


https://www.allkpop.com/forum/threads/bts-rm-full-speech-at-united-nations-for-youth2030.228857/

https://www.cnn.co.jp/showbiz/35126076.html


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