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Aldebaran・Daughter

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ファンタジー小説『Aldebaran・daughter(アルデバラン・ドーター』
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Aldebaran・Daughter【執心篇4】砕かれて咲く

Aldebaran・Daughter【執心篇4】砕かれて咲く

     『彼らに救いを求めれば、
      シュノーブも
      助かるのではありませんか?』

 オリキスとその弟サラは、織人たちの支配から解放してくれる英雄が近隣の国に現れたという噂話を城内で耳にし、ヴレイブリオンに提案したことがある。

「正義と優しさは相性が悪い」

 森を抜けて段々畑が見える草原へ出るとオリキスは立ち止まり、陽の光を受けながら、七年前に父親から返された言葉をそのま

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Aldebaran・Daughter【執心篇3】燻る悔恨、手折ることなく

Aldebaran・Daughter【執心篇3】燻る悔恨、手折ることなく

 空は暗く、吹雪で視界が悪い。
 三人はそれでも必死に前へ、前へと足を進めた。

「おい、兄貴!居たぞ!」
 青年の左側を歩いていた弟が前方を見て指差し、喜び、叫んだ。雪が薄く積もった石畳の上に、まだ息のある国王がうつ伏せの状態で、倒れている。
 治癒魔法を使えば、一命を取り留めることができるはず。三人は顔を見合わせて頷き、いままで以上に急ごうと足を進めた。

「君たち、良い所へ来たね」

「!?

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Aldebaran・Daughter【執心篇 2】泳ぐ鳥は谷底へ向かう

Aldebaran・Daughter【執心篇 2】泳ぐ鳥は谷底へ向かう

 オリキスの縫い付け作業が終わった。
 三人は防具と武器を装備して岩礁地帯へ向かう。
 今日の目的は【渦を調べて、潮の胃袋を探索すること】。

「危険を感じたら引き返すぞ。いいな?」

 出発前。バルーガは眉間に皺を寄せて、二人にそう言った。
 魔物が現れる場所へ行くとき、各々が自由行動に走ったら危険度が増す。誰かがリーダーになって率先しなければならない。
 良くも悪くも、好奇心旺盛なエリカは論外

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Aldebaran・Daughter【執心篇1】瞼を閉じて淀みの花を啄む

Aldebaran・Daughter【執心篇1】瞼を閉じて淀みの花を啄む

 遺跡で話を聞いてから、九日目の朝を迎える。

 最低限の防具は揃った。
 エリカには鎖骨の辺りから腹部までを防御する胸当てと、肘の手前まで長さのある手袋を。
 バルーガには見習い騎士に支給される物と遜色ないベスト、ブーツ、ガントレットの三点セットだ。
 どれも革製だが、耐久性はまずまず良い。

 オリキスは追加で、エリカが履いているブーツとバルーガの新品ベストに、妖精語の呪文を縫い付けることにし

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Aldebaran・Daughter【閑話】変容する眼

Aldebaran・Daughter【閑話】変容する眼

 渦の下見を終えた日の翌朝。オリキスはエリカの家で、二人に回復薬の作り方を教えることにした。
 三人は台所へ集まり、道具と素材をテーブルの上に並べる。

「君のご両親に感謝だね」

「お役に立てて嬉しいです」

 バーカーウェンにある素材を使った回復薬の調合レシピも、翼竜は書物に残してあった。

『これを読めた君は、資格のある者だ。
 何の?と。
 わかっているだろう?』

 早く遺跡の試練に合格

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Aldebaran・Daughter【閑話】夜に陽を捜す

Aldebaran・Daughter【閑話】夜に陽を捜す

【注意書き】
ちょっぴり甘め、ちょっぴり性的な視点を含んでます。苦手な方はUターンしてくださいませ。
本編の裏話ですので、読まなくても支障はありません。

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 某日の夕方、オリキスは村長の家に招かれ、手渡された民族衣装に着替えた。軽装という面では、此処での普段着と同じ。
 違いがあるとすれば二点。
 白い生地に、鳥と植物の華美な刺繍が施されている所。
 明

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Aldebaran・Daughter【17】嘲りが誘う深奥の懐へ

Aldebaran・Daughter【17】嘲りが誘う深奥の懐へ

 夕方。
 バルーガはオリキスの家を囲っている柵の内側に立ち、遺跡で無し首族と戦うことになった場合を想定した作戦会議を行う。

 --ベロドの墓場に居る類いと同じか?
 --特殊な技や魔法を使ってくる可能性は?
 --見た目だけで判断するなら、無し首族のなかでもレベルは低い。
 --槍による物理攻撃を仕掛けて来るだろう。接近戦へ持ち込むには?

 標準型の情報は持っている。例外でも共通点はあるはず

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Aldebaran・Daughter【16】遮音は千切れる前に(後半)

Aldebaran・Daughter【16】遮音は千切れる前に(後半)

 バルーガは、キララの森にあるエリカの家に案内された。

「あ、おはようございます」

 玄関前でエリカと出会す。彼女は口元に笑みを浮かべて二人に挨拶。左手には赤色、黄色、ピンク色で揃えた小さな花束を持っている。

 まさかちんちくりんが翼竜なのかとバルーガは面食らい、オリキスを壁にして後ろのほうから様子を窺う。

「ミヤさんが昨日大怪我をしたって報せが、今朝入って。これからお見舞いに行くところな

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Aldebaran・Daughter【14】遮音は千切れる前に(前半)&【15】キャラ紹介①

Aldebaran・Daughter【14】遮音は千切れる前に(前半)&【15】キャラ紹介①

 雨が降りそうで降らないどんよりした曇り空の下、バルーガは来る日の試練に備え、朝から自宅の裏庭で剣を研いでいた。

(翼竜ってなんだ?)

 カコドリ遺跡では無し首族が。昨晩は、ミヤことシルリアが口にした。
 無関係と思っていた点と点を結ぶ謎の共通点、翼竜。
 バルーガは、かたい表情で仮説を立てる。

一、
 ヒノエ新聞の事務局長を務めるアーディンは何者かで、エリカを外に出したくない理由と関係があ

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Aldebaran・Daughter【13】焦燥と愛に終止符を

Aldebaran・Daughter【13】焦燥と愛に終止符を

 ミヤは、アーディンとは恋人関係になれなかった。
 彼は「上司と助手が関係を持つのはご法度だよ」と言ってはぐらかし、島民や移住者に告白されても首を横に振り続けている。一生独身でいたい男なのかしらと、ミヤは思った。

 翼竜の友人であり共犯者、暗躍する世界の味方。バーカーウェンでアーディンの名を騙っている男の本名は、サイモン・ピエルティア。魔法軍事国家アイネスの研究者で、織人事件が起きるよりずっと前

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Aldebaran・Daughter【12】繭を破る蝶の反抗

Aldebaran・Daughter【12】繭を破る蝶の反抗

「時間、空いてるかしら?」

 二日後の朝、集落の店に薬を卸したオリキスはその場でミヤに話しかけられ、ヒノエ新聞の事務局を訪れた。何の用事か、彼女は口にしない。
 玄関のドアを開くと合図のように、奥から酷い剣幕のアーディンが出て来る。大股歩きでずかずかと。

「オリキスくん。正直言って、君と会って話すのはツラいよ。けど、これだけは言っておきたい。島の人たちに、君と!エリカが!関係を持ってるなんて噂

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Aldebaran・Daughter【11】泡沫の調べは甘く捩れる

Aldebaran・Daughter【11】泡沫の調べは甘く捩れる

 翌朝、オリキスは移住する予定の家を訪れた。バルーガも連れて。
 二人はしゃがみ込み、敷地内に生えた雑草を素手で抜きながら作戦会議を行う。

「オレとあんたの二人で片付けちまうか?あのまま無し首族を放置しておくのは気色が悪い」

 バルーガは手早さ重視で、力任せに草を引っこ抜くか、地面より上の位置で無遠慮に千切るかのどちらか。適当だ。
 オリキスは無駄に体力を使いたくないのもあって、急がず、のんび

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Aldebaran・Daughter【10】暗闇の箱を開くとき

Aldebaran・Daughter【10】暗闇の箱を開くとき

 仔牛を無事に捕まえることができた三人は一頭ずつ引き連れて、森林から外れた平野にある牧場へ送り届けた。

「オットリーさぁああん!」

 エリカは右手を上げ、手を振りながら大声で牧場主の名前を呼ぶ。
 すると、細い丸太で作った柵の向こう側から筋肉隆々の男が現れ、地面をどっしどっし踏んで此方へ寄って来た。

「おぉ、モー子たち見つかったか!いやぁ、たぁすかった、助かった!」

 柵越しだが目の前に立

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Aldebaran・Daughter【9】寄り道

Aldebaran・Daughter【9】寄り道

 二人は島の南西にある、カコドリ遺跡を目指すことにした。
 地図を広げると、現在地からそれなりの距離があるように見えるが、島の面積は小さい。夕方に着くことはないのだと、バルーガは説明した。

(ふむ……)

 島民だったバルーガに道案内を任せ、二歩分離れて後ろを歩くオリキス。会話に付き合いながら、借家の近辺には何があるのか知っておきたくて視線を配る。

 魚が元気に泳ぐ池。
 大木の根本に生えた茸

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