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新規事業のための「恐れのない組織」(1/3)

『心理的安全性』という言葉を耳にし始めて久しい。けれど、どこか他人事のように感じていた。その認識は大いに間違っていた。不確実で、成功への道筋の見えない新規事業部門こそ「恐れのない組織」であるべきだ


あなたは恐れ知らずでいられるか

『心理的安全性』とは、文字通り心が脅かされることなく安心・安全な状態を指しているが、いわゆる対人関係の不安がないことがポイントだ

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新規事業は、はじめは1人で思いついたアイデアや、開発した新技術のタネから始まることが多い。それから次第に協力者や関係者が増え、発案者や開発者本人では知識や経験が足りない領域は、だれかに任せる必要が生じる。

仕事を指示したり役割分担をすると、ちょっとした認識のズレやパワーバランスから不和や抵抗感が芽生えてくる。依頼する側に対して「口ばっかり」「何もわかってないくせに」、方針の変更に対して「なんでやり直さないといけないんだ」「どうせ上手くいかない」といった不満や不安が高まっていく。気がついたら、いつも新規事業の周辺は、怒りと恐れでいっぱいだ


率直に伝える?同僚を尊敬するだって?

ではでは、恐れのない組織とは果たしてどんな状態なのだろう。

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対して、新規事業部門ではどのような考えが渦巻いているのだろう。
「自分は素人だから、だれかに知識を共有するなんて恐れ多い」
「ちょっとしたミスも、伝えたら評価が下がるだけだから隠しておく」
「同僚も思いつき、同じ質問を繰り返すだけだから話すだけムダ」

なんとまぁかけ離れた状態ではあるまいか。多少の誇張は含まれているが、それを差っ引いても大きなギャップがあることは間違いない。企業の中にある新規事業を担う組織は、組織として存在する意義があるのだろうか。恐れ多い組織に所属して、対人関係の不安でいっぱいでいながら、新たな事業を立ち上げることに挑戦し続けることなど可能なのだろうか。そんなの耐えられない。恐れ知らずな、鈍感力の塊のような人になんてなりたくない。


まずはミスの報告から。なんてムリ

本書では数々の研究を整理・引用して、心理的安全性が多くの課題解決や目標達成につながり、いかに有益なのかを懇切丁寧に伝えてくれる。それらの一つ一つが心理的安全性の重要性を語りかけ、納得感をじわじわ情勢してくれるのに有効なのは間違いないが、ここでは大いに端折って紹介する。

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図も要点も以下の記事から抜粋させてもらった。そのため厳密には本書から引用しているわけではないのだが、1点だけ本書から付け加えている。それは「ミスの報告」だ。個人的にはもっとも大事だと感じているポイントだ。

せっかくなので本書から事例を1つ引用したい。

ベルギーの4つの病院で行われた研究を例にとろう。ハネス・ルロイ率いる研究チームは、看護師長たちがどのようにして、看護師にミスを報告させると同時に、安全性に対する高い基準を設定しているのかを調査した。(略)ルロイは、心理的安全性が高いグループのほうが、看護師長に多くのミスを報告していることを見出した。(略)さらに驚くべきことに、患者の安全が部署内で特に優先されていると看護師が思い、なおかつ心理的安全性が高いグループのほうがミスの数が少なかった。(p.63)

患者の安全を大事にする意識をもちつつ、それでもミスが生じてしまう。そんなとき、心理的安全性が高いとミスを打ち明けることができ、結果として将来生じるミスが減っていく。失敗から学べる組織は学習が進み、高いパフォーマンスを発揮できるようになるということだ。

まずは「ミスの報告」をすることから組織の学習が始まるわけだが、そんなことが新規事業部門でもできるのだろうか?

患者や疾病が多様で業務が多岐にわたるものの、専門知識を備える看護師の間には共通言語があり、看護師長は経験とノウハウでメンバー全員をバックアップする実力をもっている。対して新規事業は、過去に事業立ち上げの経験がある人が部門長になっても、その経験やノウハウが適用できるような案件は多くはなく、日々の業務の中で共同作業をしながら知識を伝搬できる機会も乏しい。専門知識を共通言語としてもっているわけでもない。

はて。どうしたものだろうか。「心理的安全性」のある新規事業部門というのは、遠い夢物語にすぎないのだろうか。まだ答えにたどり着いていない状態だが、のこり2回noteを書きながら仮説や道筋をつくっていきたい。

noteの図はこちらのパワポにまとめています。3章以降の内容も含まれているので、もしよかったらご活用下さい。

こちら続編です。