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通勤電車にて

 朝の通勤電車でたまたま座れた。電車で通勤するサラリーマンの得意技である短時間睡眠を確保すべくさっと眠りにつく。しかし残念ながら眠りについて数分で自分の肩へぶつかってくる物の存在のため目を覚ますことになる。気が付けば隣の女性の頭がこちらに傾いている。

 その刹那、私は過去の苦い経験を思い出した。若い頃の私は、毎朝自宅近くの駅から発する電車の席で眠ることにより毎日の睡眠時間の一部を回収していた。だが、寝不足もあり時折隣の席の方の肩に頭を委ねてしまうことがあった。そんな時、隣が初老のおじさんだったりすると大変。許してくれないのだ。何度も別のおじさんに「しっかりしろ!」と起こされて姿勢を正された。そのお陰で頭が傾かない寝方を習得出来たのだが。

 今はそんなおじさん達は存在しないだろうが、あの頃の方は厳しい方がおられた。もっとも頭を委ねたのが私でなく若い女性だったらおじさん達どの様な反応だったのだろうか?今では知る由もないが。

 ところで今自分の肩に寄り掛かっているこの頭。どうしよう。ちょっと香水がきついのでスーツに匂いが移るかもしれない。でもしょうがないよね。相手は仕事で疲れているかもしれない。自分もかつてはお世話になったのだから、肩ぐらい貸してあげようとそのままにした。

 だがこの女性一向に起きようとしない。そうしているうちに自分の降りる駅が近づいてきた。さあどうする。ちょっと考えて少しずつ肩を外していき、なるべく衝撃のない様に降りることにした。そして降車駅。何とか彼女の頭を抜くことに成功した。彼女の頭は傾いたまま。「じゃあ」と心の中で言って降りる。

 こんなこと私が考えているなんて相手は気付きもしないだろう。でも今日も通勤電車のあちこちでこういうことが行われているのだろうな。なんてね。



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