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【翻訳】『アンカット・ダイヤモンド』配信記念 サフディ兄弟インタビュー

こんばんは、チェ・ブンブンです。

先日、A24×Netflix配給(製作はニューヨークに拠点を構えているElara Pictures,IAC Films,そしてマーティン・スコセッシが持つ映画会社Sikelia Productionsである)の傑作映画『アンカット・ダイヤモンド』が配信されました。『神様なんかくそくらえ』、『グッド・タイム』で独特な演出が注目されていたサフディ兄弟が、今まで過小評価されてきたアダム・サンドラーを覚醒させたことで、アメリカでは注目されている作品。実際に観てみると、捲し立てるように話術で自転車操業火の車経営を爆走するアダム・サンドラーが非常に愛らしく、全編修羅場な本作は上半期ベスト候補に挙がる大傑作でした。

先日、購入したカイエ・デュ・シネマ2020年1月号(2019年年間ベスト発表号)にサフディ兄弟のインタビューが掲載されているので、要所要所ピックアップして翻訳していこうと思います。

フランスの映画雑誌かつ、フランス語使いでも割と癖のある表現を使ってくるので中々手に取りにくい雑誌ですが、少しでもカイエ・デュ・シネマの文化誌的面白さを伝えられたらなと思います。

それでは、見ていきましょう。

尚、表記は
・ベニー→ベニー・サフディ
・ジョシュ→ジョシュ・サフディ

とします。

【考察】『アンカット・ダイヤモンド』アダムの奇妙な冒険 ゴールデンファービーは砕けない

Q1.この企画の実現に長い時間かけたそうですが...

ベニー:そうだぜ!『アンカット・ダイヤモンド(Uncut Gems,2019)』は常に《次回作》だったのさ。


ジョシュ:俺らが初校を書いたのは2010年。ちょうど、俺らが幼少期に親父から聞かされた物語にインスパイア受けた『あしながおじさん(Daddy Longlegs,2009)』を手がけていたときだ。親父は、ダイアモンド・ディストリクト(ニューヨークのミッドタウン47丁目にある宝石問屋街)でハワードとは違った形で宝石商として働いていたんだぜ!初校では、とても郷愁的なお話だったんだ。脚本は、ハワードにフォーカスが当たっていなかった。2人の人物、粗野なハワードと我が親父に当たっていたのだ。

脚本は、映画制作に時間を費やす度、現実的な教訓として進化する。俺らがダイアモンド・ディストリクトの中からキャスティングを行い、女性について語った『神様なんかくそくらえ(Mad Love in New York ,2014)』やジャンル映画としての流儀を取り入れた『グッド・タイム(Good Time,2017)』、バスケットボールドキュメンタリー『レニー・クック(Lenny Cooke,2013)』、それを継ぐようにバスケ選手を扱った『アンカット・ダイヤモンド』等々。全てはこの映画へ繋がっているのだ。

ベニー:この映画を作るのを永遠に待っているわけではなかったんだ。違う気持ちがあったのさ。俺らは組み立てることができなかったんで、他のものを作っていた、この世界の片隅を探していた。そうしているうちに、この企画が再び舞い戻ってきたんだ。俺らは、この企画にたどり着いたんじゃない。この世界のさらにいくつもの片隅を探しに再始動したのだ。それが全くもって自然なやり方だったんだ。さて、次はどうしよっか?ってね。

ジョシュ:(『アンカット・ダイヤモンド』は)俺らを導いた星だったのさ。

Q2.この物語は、あなたたちにとってなぜ重要だったのですか?

ベニー:これは人生よりも大きな物語だ。まさしく神話と言えよう。

ジョシュ:物語から離れてみれば、それが何を言わんとしているかがわかる。シルヴェスター・スタローンが自身を主演にした脚本デビュー作『ロッキー(Rocky,1976)』を手がけた時だ。彼はこう語った。

「人々は俳優がいる映画を見たくない。」

だから彼はボクサーとしての役を作り込んだのだ。この宝石商は、完璧に宝石商として演じられている。《俺ら》の10年のリアルさなのだ。毎回、カジノに行き、成功を掴むように、最後のゲームに臨むような映画だったのさ。ハワードがビシッとキメて最初の競売へ向かう時、それは素晴らしい日だ。彼はカタログを見て、どうすれば良いのか気づくのです。紙の切れ端にはない、相手を仕留めるための価値を知る眼差しによって...それはまさに映画を作るようなものだ。あなたは映画祭にいる。あなたの映画は映画祭のカタログの数百もの作品のど真ん中にある。もしも、誰かがあなたが日々欲している批評雑誌に目を通しているならば、ハワードのような幻覚を見ることだろう。ハワードはこうだった、ハワードはああだったとね...これは俺の人生なんだ!ともね。俺は、自分の人生を理解しようとする車のようにハワードを使っている。俺らの人生もだな。これは奇妙なことに終わってしまったので、別のキャラクターを見つけなければいけないんだ。

Q3.コメディアンであるアダムサンドラーを初めて起用しました。彼との仕事はいかがでしたか?

ジョシュ:現代のジェリー・ルイスだったぞ。ある一点を除いては。貴方が彼のことを知ろうとする時、貴方は彼のある特有の側面があることを垣間見るだろう。物事の後ろを見透かすユニークな瞳にね。彼は怖かったが、インスピレーションを与え、ワクワクさせてくれた。それが全て彼の瞳にあった。そして彼は我々に有意義な時間を与えてくれたのだ!沢山対話して、、、脚本は160ページにも及んだんだ。

Q4.微笑みは形而上学であり、死にと対峙している

ベニー:それこそが一番幸せな時さ。

ジョシュ:微笑みは人生を欺く、神をも欺く。それはある種の罰なのさ。この映画はある種の寓話だ。このように生きたらどうなるのかというね。息子の存在が非常に重要な役割を果たしている。浴室で、友人と一つ勝負に出たと父は言う。そして彼は沢山賭けに投じていると応えるが、息子は食い気味でこう言う。

《父さんは知りたくないようだね》

息子は、父が全人生を賭けていることに期待するのです。

Q5.ハワードの旅は、際限なく金を賭けて生きる者を描いたフェラーラの『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト(Bad Lieutenant,1992)』を彷彿とさせます。ゾーイ・ルンド演じるジャンキーはこの映画のモラルを形成する。《与えろ、狂ったように与えろ》と言うモラルを。与えることが人生に必要不可欠なんだと常に与えています。


ジョシュ:偉大な映画ですよね。『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』に纏わる面白い話をいくつかしましょう。フェラーラの映画におけるラジオの声の主はMad Dog(Chris Russo、スポーツラジオのパーソナリティ)なのですが、本作の冒頭で別の賭けを行う為、ハワードがキッチンへ行く場面に登場する賭け屋役で登場しているんだ。彼は、他の人が『バッド・ルーテナント』をやってしまうことに嫉妬したので、本作で演技することに同意してくれたんだ。

おまけ:ジョシュ・サフディの2010年代ベストテン

ジョシュ・サフディはカイエ・デュ・シネマ2019年12月号にて2010年代のベスト映画を教えてくれました。このラインナップを見ると、『アンカット・ダイヤモンド』に影響与えている作品が多いですね。

▪️ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン、2018)
▪️女王陛下のお気に入り(ヨルゴス・ランティモス、2018)
▪️マーガレット※ディレクターズカット(ケネス・ロナーガン、2011)
▪️恋するリベラーチェ(スティーヴン・ソダーバーグ、2013)
▪️アンダー・ザ・スキン 種の捕食(ジョナサン・グレイザー、2013)
▪️ウルフ・オブ・ウォールストリート(マーティン・スコセッシ、2013)
▪️インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(コーエン兄弟、2013)
▪️アクト・オブ・キリング(ジョシュア・オッペンハイマー、2012)
▪️神々のたそがれ(アレクセイ・ゲルマン、2013)
▪️Bitter Lake(アダム・カーティス、2015)
▪️パラサイト 半地下の家族(ポン・ジュノ、2019)




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