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キューブリック展@デザイン・ミュージアム 詳細レポその1

スタンリー・キューブリックが映画を作る際に使ったノートや、衣装や、カチンコや、大道具などが、ついにロンドンにやってきた。

キューブリックはニューヨーク生まれだが、ロンドン北部の郊外のセント・アルバンスSt. Albansという所に居をかまえており、撮影はロンドンの街中や、ロンドンのパインウッド・スタジオPinewood Studioで行なっていた。なので本国凱旋、という所である。

ミュージアムに入ってすぐ置いてあるのは、『時計じかけのオレンジ』でアレックスたちが暴れに行くのに盗んだ車、Durango 95(上の写真)。デザイナーはこの車を3台しか作らなかったという、超レアな車である。映画を見れば一目瞭然なことだが、キューブリックのデザインへのこだわりは本当に、徹底している。

キュレーターさんは、他の展覧会では使われていなかった写真などを新たに入手し、単なる博物館的な展示ではなく、キューブリックの完璧主義な映画作法が伝わるように、工夫をかさねたという。言うまでもないが、展示もアートであり、技なのだ。入り口には左右にパネルが放射状に広がり、画面には映画のクリップが映しだされ、目を引く。始まったばかりなので人が多く、写真を撮りそこねた。

入ると最初に展示されているのは、キューブリックの映画作法のエッセンスをつたえる品々。というわけでいきなりこのチェス盤。

子どもの頃のキューブリックは、勉強にはほとんど興味がなく、写真とチェスに入れ込んでいた。全体を見渡しながら、一手一手の緻密な動作を計算してゆくチェスの戦略が、かれの映画作りと、シンクロしているのだ。ということを象徴的にあらわす、最初の展示。

後方にあるのは、ハンドヘルドコンピューターか。1928年生まれ(1999年没)にして、「知的生産の技術」やそういうガジェット好きだったらしいことが、こういう展示からわかる。映画を見ていれば想像がつくが、それはやっぱり後知恵。実際のモノを見るというのはやはり、大事だ。


資料にも当然ながら、細かい書き込み。わたしとしては、キューブリックがファイロファクス(システム手帳)をつかっていたというのが、なるほど、という感じで、おもしろかった。

最初の展示には、実現しなかった映画の企画である「ナポレオン」に関するものが、あつめられている。とにかくありとあらゆる資料を読み尽くし、緻密な計画を立てまくっていたという、キューブリック。なので、こういうものがある。

図書館にあるのと同じ、インデックスカードのキャビネット。ナポレオンの毎日を、カードの1枚1枚に記録して整理していたというから、驚きである。まさにmeticulous(細心の注意を払う)。

そして、ここまでの徹底的な調査・準備をしていたのに、べつのナポレオンの映画があまりヒットしなかったという理由で、スポンサーがあっさり降りて映画が実現しなかった、という、あるあるな悲惨な現実社会の掟に、人ごとながら、心が折れそうになる。オードリー・ヘップバーンが、ジョセフィーヌ役をお断りします、と書いた手紙もある。

AIを一緒に作ったスピルバーグの製作で、キューブリックの脚本をもとにした映画化の計画があるらしいので、とりあえずは期待。

トランクと書棚のディスプレイで、キューブリックのクリエイターな雰囲気を演出。キュレーターさん、芸が細かいです。

写真が多いので、つづきはまた。

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