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腰痛で病院に行ったら意外と不条理だった話

ボク、が味わった不条理な物語。今回その一部始終をここに書き記すことにした。多くは語れない内容だ。だから、多くは聞かないで欲しい。できれば何も、聞かないで欲しい。そんなボクのおハナシだ。

要約?これが….


ここ最近腰痛がひどい。腰痛、というよりも背骨が痛い。きしむのだ。奥さんは年のせいだと笑ったが、実際笑い事では済まされない程の痛みだ。こういう痛みは他人には中々わかってもらえない。ボクは心まで痛くなりそうだ。

ため息をついて我慢するのもしゃくなので、しつこく痛い痛いと言い張ってみると、奥さんに病院でも行って来たら?と言われた。何でも最近夜中になるとボクの部屋からいびきのような、うめくような声が聞こえるらしい。

ボクの家では数年前より夜は別ベッドでの就寝と決まっている。酔いつぶれた時のイビキがうるさいと、ボクは奥さんに寝室を追い出されたのだ。以来ボクは居間の横にある小さな和室で一人布団にくるまっていた。寝相のせいで今さら背中が痛むなんてことあるのかな?ボクは半信半疑ではあったが、痛みにはかなわず数日後に街中の病院を予約した。

診察室の中は整頓された白い空間で、小柄で白髪のお爺さんがボクを迎えた。ボクは事情をこうこうだと説明すると、白衣姿の先生はウンウンとうなづいた。
「イビキがひどいと、寝てる時に息ができなくなったりするんですよねえ。」
「でも先生、イビキがひどいとこんなに背骨が痛むものなんでしょうか?」
「そうだねえ…」
先生は困ったような、冴えない表情でボクを見つめた。
「じゃあ君、寝ているときの様子を見てあげよう。」
ボクは別室に通されると、背の高い細身のナースさんがいた。ベッドに横たわるように指示され、そしてナースさんは何やら訳の分からない機械類を、ボクの顔や胸に取り付けた。
「検査、始めますね。じゃあ寝てください。」
いきなりここで寝るんかい、寝られるんかいっ、とも思ったが、ボクは言いたいことの半分も言えないクチなので素直に従った。意外と寝心地の良いベッドだ。ボクはやがて眠りに落ちた。

心地よい眠りの中、悲鳴にも似た叫び声で目が覚めた。
やはり背骨が痛む。骨同士がきしむような感じがした。見るとさっきのナースさんが顔を青くしてコッチを見つめていた。ボクの視線に気づくと、目を合わせないようにしてさっと立ち上がり、慌てた様子で外に飛び出ていった。

「なんなんだあの人、幽霊でも見たのか?」
ボクには彼女が動揺した理由が全く理解できなかった。数分後、さっきのお爺さん先生が血相を変えて飛び込んできた。先生はボクと目が合うと、ナースさんと二人顔を見合わせた。ナースさんは検査機器のモニタ画面を指さした。先生の顔がみるみる引きつっていくのが見えた。

何事か気になって仕方がない。ボクはベッドから起きると、先生たちが見つめるモニタ画面をのぞき込んだ。

「先生、これは…」
「うん、これは…」
        
二人の目がモニタ画面とボクにくぎ付けになっている。
画面には甲羅をまとった茶色い動物が映っていた。
「先生、これは…」
ボクは顔を上げて先生を見た。
「アルマジロだね。」
先生は画面を見つめたまま、表情を変えずに言った。
「アルマジロ、ですか?」
「ああ、アルマジロ、だね。」

「先生、ボクは一体?」
ナースさんはいつの間にかボクから離れ、先生の後ろに回り込んでいた。ボクを見る目は驚きと恐怖に満ちていた。
「こんな病気は見たことがない。」
「先生、何とかしてください。ボクには何が起きているんでしょうか?」
「後天性アルマジロ病だ。」
「先生、そんな病気あるんですか?」
「知らん。でも他に言いようがない。」
「ボクはどうしたら?」
「知らん。意外と面白いかもな。」
この状況に慣れてきたのか、老練の先生の顔には笑みが浮かんでいた。
「先生、そんな無責任な。何とかして下さい。」
「知らん。何をしていいのかも分からん。」
先生の顔は上気し、逆にワクワクしてるようだった。
「えー…先生、ボク背中が痛いんですけど。」
「丸くなって寝たら良い。それにこれは病気とは言わん。」

常識をはるかに超えた現象を前に、人は感覚すらマヒしてしまうのか。先生は少し嬉しそうな、少し興奮したような口調でボクに言った。
「君、その姿も似合ってるよ。変身できるなんて素敵じゃないか。夢がある、うん、いいね。」

ボクは自分の手を見つめ、窓ガラスに映った姿を眺めると、静かにうなずいた。すっかり日の暮れた夕闇を背景に、そこには嬉しそうな白髪の医師と、引きつった顔のナースさんと、全身被り物?の僕が映っていた。

「先生、あのボク、奥さんに何て言えば?」
先生はスマホでツーショット写真を撮ろうとしていて、ボクの声は耳には届かないようだった。



(題絵はかわいいフリーイラスト素材集いらすとやさん )


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