向こう岸【小説】

ある教室にナツという少女がいました。

ナツは一人で行動していましたが、アキが転校してきたのを機に親しくなり、グループで行動するようになりました。アキは強く、明るく行動力があり、ナツはアキにあこがれていました。

アキを見て自分から行動する勇気を得たナツは、ほとんどクラスの誰とも話さないハルという子を誘いました。

アキはナツの友だちで、ハルはナツの近所に住んでいる知り合いだったので休み時間や放課後は気付くと一緒に過ごしていましたが、重い空気が流れていました。おとなしいハル、自分の意見を貫く自然体のアキはいつもぶつかってばかりいました。
ぶつかってばかりなのに、一緒に過ごしていたのには理由があります。
学校にはお弁当ルールとトイレルールという2つのルールが存在しました。お弁当ルールとは3人以上固まってお弁当を食べなければいけない、というもので、トイレルールとは2人以上でトイレにいかなければいけないというものでした。


ハルはほとんど話さないのでナツはイライラしていました。

ナツは暗い顔を見せてもごまかすのでアキは心配していました。

アキは誰に対しても優しく、それでいて流されずに意見をはっきりと言うのでハルは嫉妬していました。


休み時間にナツは、アキに聴きました。

「なんでそんなに自然体でいられるの?」


アキは答えました。


「向こう岸に行ったことがあるからだよ。結構大変なんだけどさ、一度あそこに行っちゃえば自然体でいられるんだよ。行くコツも行くために必要な道具も私持ってんだ。道具も貸すし、コツも教えるからさナツもいってみなよ。」 


ナツは「じゃあ、私も頑張って行ってみようかな。」と答えました。


その時です。バン…!と言う音がしてアキとナツは目を丸くしました。


ハルが床に足を打ち付けた音でした。


ハルはゆっくりと、けれど力強く話しました。

「向こう岸に、いけば、自然体でいられる…?そんなの…、うそだよ。私だって行ってみようとしたこと、たくさん、ある…。でもね…無理だった…。」 
ハルはうつむき、表情をナツにもアキにも見せません。


ナツはまだハルは何か言いたいことがありそうだと思って待っていましたが、そこで力尽きたのかハルはそれきり何も言いませんでした。
こんなに長く話すハルを初めて見たからです。

アキも黙っていました。

向こう岸に行くことの大変さを思い出したからです。

橋を渡る途中で溺れかけたこと、その溺れかけたことを弟にはやし立てられたこと、それでもその体験は無駄ではなかったことをアキは語るか迷っていたのです。



アキはこう言いました。「でもさ、ハルは向こう岸に行く経験をしたってことでしょ?それだってすごいことだよ。無駄じゃないと思う。」
ハルは黙っていました。


ナツはアキを傷つけないか不安になりながら返しました。「ハルは向こう岸に行ったから苦しいんだよ、辛いんだよ。ハルと行動するようになってからまだ日も浅いしどんな苦しさなのかは分からない。アキの強さも私には分からない。でもさ、強くなれたら、苦しさってなかったことになるの…?
ハルもアキみたいに強くなりなってこと?それってさ、私には今のハルがダメみたいな言い方に聞こえる。」


【人生とともに続く】



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小説を書きたくて書いたのではなく、書きたいことを小説にしただけなので表現方法が拙いのは大目に見てください🥺