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テクノ・パンク女子に聞く東欧の独裁国家ベラルーシの現状-1

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今回は去年、ベルリンで知り合ったベラルーシ人のAdelaida(仮名)に話を聞いた。

2020年8月にベラルーシであった大統領選に不正があったとして多くの人々が抗議の声を上げ、同時に多くの人がベラルーシに見切りをつけて国を出たが、彼女もそんな中、ポーランドの首都ワルシャワに移住した一人だった。
ベラルーシのテクノやパンクなどのシーンに関わりのある彼女の周囲の人の7割は弾圧を恐れ、国を離れたという。

現在はベラルーシに戻った彼女にベラルーシの政治、経済、音楽シーンの現状などについて語ってもらった。

・チェルノブイリ被害者への支援の現状


E:ベラルーシ政府は今でも積極的に被害者の支援をしているの?
日本政府は情報を隠蔽して、むしろ積極的に民衆を被ばくさせようとしてるんだけど、ベラルーシはどうなの?

A:ベラルーシでは、チェルノブイリが起こってからすでに結構時間が経っているから、時間が経った分、政府の支援もどんどん薄くなっていってるよ。
第二次世界大戦で死んだり負傷したりした人への保障と同じで、彼らへの補償はベラルーシでは1995年に終わったんだけど、今ではもう生きてる人も少ないし、政府はそのことについてはもう忘れようとしているみたい。
第二次大戦で戦った軍人に政府から贈り物をしてたんだけど、それも最近はないし。
なのでチェルノブイリの件でも時間が経つほどに支援は手薄くなっていくと思う。
とは言ってもチェルノブイリの周辺の人には特別なIDみたいなのが支給されてて、それを見せれば、あるものは安く買えたり、サナトリウムに優先的に入所出来たりみたいな優遇措置があるんだけど、でもそれが彼らにとってものすごい助けになっているかと言うとそうでもない。
保養のためとヨーロッパの文化に触れさせるために、ドイツやイタリアやスペインみたいなヨーロッパの国々はベラルーシの子供を受け入れてくれてて、私は10歳の時にそれでイギリスに行ったことがあるけどね。

E:どのくらいイギリスにいたの?

A:一ヶ月よ。でも何回も行く子もいた。イタリアに行った子とかは特に。ほら、イタリアの家庭は温かいことが多いでしょう。

E:そうだね。

A:ベラルーシの子供を受け入れたヨーロッパの家庭には、税金の控除とかそういう優遇措置もあったのね。もちろん全員が金銭的なメリットだけからそうしたなんて思ってないけど。

・ベラルーシにコロナはない?

(スポーツをしていればウィルスなど大丈夫だというルカシェンコ。アスリートの重症化率が非常に低いのは事実だが。ちなみにこのルカシェンコのホッケーチームは基本的に毎回勝つようだ)

E:ベラルーシはコロナ対策を特にしていないことで有名だと思うけど、コロナ後でベラルーシの生活は変わった?

A:ヨーロッパの国々と比べたら全然。ロックダウンもしてないし。
小さな町だと、マスクしてないと店に入れなかったりもするけど、外では誰もしてないし、例えばバスの中でマスクをしてるのは半分くらいね。
私はしてない。数字を見る限り必要ないと思うから。
ベラルーシにあるワクチンはロシア製か中国製のものだけで、打ってる人は多くないけど、ベラルーシを出たい若い人はよく打ってるわ。
他の国ではCovid Passみたいなのが必要だったりするでしょ。

E:あ、じゃあむしろコロナのリスクの低い若い人の方が打ってるんだ。
多分、西側の国は中国製やロシア製のワクチンを認めてない国が多いと思うけど、逆に西側の国からはロシア製のとか打ってないと入れなそうだね。

A:ワクチンについてはいろいろ噂があるじゃない、変な病気になるとかさ。
スウェーデンとかでは若い人がワクチン打ったら政府からお金もらえたりするって聞いたわ。
モスクワだとワクチン打ってないとレストランにもクラブにも入れないから、若い人ほど打ちたがってる。
狂ってるとは思うけど、そうやって政府はワクチンを普及させようとしてるのね。
強制的に打ってる訳じゃないけど、実質的には強制してるみたいなものよね。

E:実際、ベラルーシではコロナを発症したり死んでる人は沢山いると感じる?

A:うん、実際に沢山知ってる。
私には93歳のおばあちゃんがいて、膝や指に問題があって病院に行ったらそこでコロナに感染して一ヶ月入院することになったの。
幸い回復したけどね。
でも、おばあちゃんや叔父さんや叔母さんとかがコロナにかかったって話はいっぱい知ってる。
昨日なんて、ベラルーシで最初にレイブカルチャーを始めた有名な人が45歳で死んだわ。

E:コロナで?

A:コロナと心臓発作で、それが私にとってのコロナ関連のフレッシュなニュースね。
ベラルーシはあまりコロナから守ってくれる体制になってなくて、例えば厚生省はコロナの死者は毎日15人以下だと発表していて、実際にコロナを発症していても医者はそれをコロナだとは書かなかったりするのね、統計に影響するから。

E:あ、西側の国は統計を盛るために他の病気で死んでもコロナで死んだって書くことが推奨されてるけど、ベラルーシでは逆なんだね。

A:まあ、ヨーロッパ人はベラルーシは独裁国家で、政府の出すデータはインチキだってのはコロナの前から分かってたんじゃないかしら。

E:大統領のルカシェンコはベラルーシにはコロナはないといっていて、それでワクチン摂取も勧めていないって聞いたけど。

A:うん、実際そう言ってるよ、それがルカシェンコの政治だし。
あいつの話してるのを聞いてたら誰だって頭おかしいって分かるわ。
本当に錯乱しているみたいな物言いだもの。

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・ベラルーシでは何%くらいの人がテレビや新聞を信じているのか?

A:小さな町や田舎に住んでいる人は他の生活を見ることがないのね、だいたい長時間働いているし。
私の周りにいる人は、年齢に関係なくテレビを信じてるのは5%くらいだと思うけど、田舎の方だと20%くらいは信じてるかもしれない。
それでも100%とか50%ってことはないわ。
政府のテレビ局の流す内容は明らかにデタラメで、官営放送なのにFUCKとか売女みたいな下品な単語が出てくるのよ。
私はテレビ持ってないけど、たまにどこかで見ると本当にエーって思う。
まさに災害としか言いようながないわ。
めちゃくちゃプロパガンダっぽくて、この頃はロシア寄りなプロパガンダが明らかに増えてる。

E:ベラルーシのテレビはロシアの影響が強いの?

A:最近は特にその傾向が明らかね。
ルカシェンコはロシア人のプロパガンダの専門家に協力を依頼したのよ。
普通レベルの教育を受けた人なら誰でもプロパガンダって分かるような馬鹿らしいスローガンやマニフェストが明らかに増えたわ。

E:で、田舎だったら最大20%くらいの人がテレビを信じてるかもしれないんだね。

A:別に田舎に限らないわ。それに最大30%くらいかもしれない。
都会に住んでても、例えばルカシェンコ体制から利益を得ている人は。
彼らはルカシェンコ政権もルカシェンコも信じてないかもしれないけど、彼らには養う家族もいるじゃない。
だからジャンキーにとっての麻薬みたいなものよ。
彼らはお金を得ていて、政府から支給された家に家族と住んでいて、その地位を失う訳にはいかないから、彼らはルカシェンコのファンでプロパガンダを信じてるように見せなきゃいけないのね。
誰にも盗聴されてないところでは「こんなもの信じてない」とか「こんな体制は変えなきゃいけない」って言ってるかもしれないけど、実際には何もしないで、役を演じ続けるのよ。

・2020年の不正選挙の後に史上最大規模の抗議行動が起こったが

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E:今、ルカシェンコ政権への抗議運動はどんな風なの?

A:反体制派の多くは捕まったか、ベラルーシを離れたの。
だから抗議運動は特に起こってないわ。
抗議のために街頭に出ても、ただ刑務所に打ち込まれるだけで、家族にも友達にも自分にも良いことは何もないから。
秘密警察が突然家に来て、毎日一人ずつ拘束していってるの。
今、抗議運動するとしても、そもそもそんなに多くの人はいないし、人々は怖がっているし、仕事を失うリスクもあるし。
今でも小さなグループが週末に集まって(反ルカシェンコの象徴である赤白赤の)旗とか作ってるかもしれないけど、通りを行進したりはしてないわ。

・厳しい監視の中で、人々はどのように情報を得て、自らを守っているのか?

A:まずTelegram(LINEのようなアプリだが、LINEと異なりプライバシーが守られている)があるわよね。
で、すごく大きな情報ポータルサイトみたいなのがある。
政府はそういうの全部閉鎖させようとしてるけど。
私たちはVPNを使うし、プロキシも使うし、もちろんTelegramも使うわ。
人々は自分が体験した話や聞いた情報をそこに集めてるの。
でもこの5年くらいは法律が完全におかしくなっててね、殺人だと5年の懲役なんだけど、ネットとかでも何でも反政府的な発言をすると8年の懲役になっちゃうのね。
そう言えば、この8月にいきなりネットが遮断されて5日か6日くらい使えなかったのよ。
家のネットはまったく使えなくなった。
それでも若い人はVPNとプロキシを使ってネットにアクセス出来てたんだけど、回線速度はすごく遅かった。
私のお母さんの世代で若い世代と繋がりのない人だったらVPNとか知らないから1ヶ月くらいネット使えない状態になってたんじゃないかな。
そういうのもあって、ベラルーシでVPNを使う人はどんどん増えていってるわね。

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(Adeleidaがワルシャワで配っていたステッカー。ポーランド語で「ルカシェンコ政権への制裁を、人道に対する罪のために」と書かれている)

E:拘束されないように気をつけていることはある?

A:私に出来るのは、誰にでも見られるところには一切投稿しないことね。
私はSNSでもプロフィールはプライベートにしてるし。
でも、例えば私の友達が捕まって、警察がその友達の携帯のTelegramとかInstagramを調べたら、そこで私の投稿も見られるかもしれない。
でも、とにかく外で自分の政治的な考えは言わないし、外から見えないようにしているわ。
普通の労働者階級の人は未来に何の保証もないのね。
例えば私の自転車に何かステッカーが貼ってあったってだけで、警察から殴られたり刑務所に入れられたりしかねない。
オモンっていうすごく暴力的な特殊部隊がいるんだけど知ってる?

https://ja.wikipedia.org/wiki/OMON
OMON(オモン[1]、露: ОМОН;Отряд мобильный особого назначения)とは、ロシア内務省に直属する特殊部隊。デモ・暴動の鎮圧を主な任務としている。また一般警察を支援する任務にも携わり、例として武装犯罪集団の取り締まり、薬物犯罪の取り締まり、人質事件への対応、刑事事件の被疑者を移送する際の警備、特定の建築物の警備を挙げることができる。

私の友達がバーで誕生日パーティしてて、酔って騒いでたら、そのオモンが絡んできて、「ここに住めなくしてやるぞ、クソ野郎」とか「ぶっ殺すぞ」とか「刑務所にぶち込んでやる」とか「バカな男とバカな女でつき合ってんじゃねえよ」とか言って来たのよ。
でもオモンが私の友達の携帯を調べても、何も反政府的な内容の書き込みとか、反ルカシェンコ政権の象徴の白赤白の旗の写真とかが出て来なかったから結局、殴られただけで逮捕されなかったのね。
もしそういうのがあったら100%刑務所行きよ。

E:でもそんな状況だったら、多くの人はTelegramとかでも政治的なこととか書こうとしないんじゃないの?

A:だから、書く時にはどこで書くか、誰に向かって書くかをよく考えないといけないわね。
でないと苦しむことになりかねないから。
もし私が何か投稿して、後でまずいと思ったら、すぐに消してる。
自分のも、誰かのページに投稿した場合はそれも。
なので一番安全なのは直接会って話すことね。
政治的なことを携帯とかで言う時は普通の携帯は使わないわ。
私の知る限りでは、携帯会社は警察に協力していて、例えば抗議運動とか白赤白とか旗みたいなキーワードを使ったらトラックされるような仕組みになっているから。
だからよく考えないといけない、秘密のチャットで話すとかさ。
でも、やっぱり一番安全なのは実際にあって話すことね。

(続く)



ベラルーシでの実際の生活がどのようなものかよく分かる本。


2015年ノーベル文学賞受賞作。


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