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清水克行『室町は今日もハードボイルド』―日本中世のアナーキーな世界(新潮社)

 一体、現代の日本社会の考え方はどこから来たのか?と思わず呟いてしまう。それほど中世人の考え方は現代とはかけ離れている。内容も面白いし文章の書き方も卓実、イラストもばっちりハマッている。目からウロコがぽろぽろ落ちる。

〈代官であろうが誰であろうがムラの利害に反する存在は抹殺してしまおう、という当時のムラの狂暴さを語って余りあるエピソードである。なお、この松平益親(殺されかけた代官)という人物は、なにを隠そう、のちに徳川家康の先祖に連なる人物である。彼がこの時死んでいたら、その後の徳川家の歴史変わっていたかも知れない。〉血で血を洗うムラ同士の抗争。凄惨だが、小ネタがインパクト大だ。

〈「正義」の反対は「悪」ではない。「正義」の反対には「もう一つの正義」が存在していたのである。〉心に置いておきたい言葉だ。

〈中世では三~四月は、前年秋の収穫物を消費し尽くして、五月の麦が収穫される前の、最も飢餓に襲われやすい過酷な季節だった。〉そうなんだ。春爛漫の一番いい季節ではなかったんだ。

〈ちまたに流布している戦国大名や戦国時代のイメージと現実の歴史は、このように大きく隔たっている。しかも、その隔たりの根底には、著名な人物に対する素朴な英雄崇拝と、現代人の価値観で過去を見てしまう先入観があるようだ。〉戦国どころか、ほんの少し前でも時代や社会が違えば、価値観は大きく隔たり、なぜこう考えたかなどは本当に分からない。現代の価値観で過去を都合の良いように解釈するのは無邪気過ぎる。

〈過去から何かを学ぼうとしても、しょせん過去は過去。時代背景も倫理観も異なる、私たちが生きる現代とは別の世界なのだ。(…)過去をそのまま現代に当てはめることの危うさに、私たちはそろそろ気づいた方が良いのかも知れない。人々の心性は時代を超えて変わらないものがある一方で、時代によって大きく異なるものもある。〉本当にその通り。戦後の私たちは、戦前・戦中の人の心性をも、今となっては正確に推し量れないのだ。

〈船に乗って、琵琶湖を南下、淀川を下り京都をめざす予定となっていた。〉ごめんなさい、細かいことで一つだけ。河川名としてはそうかも知れないが、関西人の認識は違う。滋賀から京都へ流れるのは淀川ではなく、瀬田川。京都府内では宇治川。宇治川が桂川・木津川と合流して、京都から大阪へ流れているのが淀川。一瞬、頭の中の地図が南北ひっくり返ってしまったよ。

新潮社 2021.6. 1400円(税別)

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