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動いて見える絵画の正体

「なんだか絵が動いて見える。」と、思ったことはありませんか。例えば、荒々しい波の風景を描いたものだったり、ゴッホの「星月夜」だったり、ムンクの「叫び」だったり。

この一枚も、そう思いませんか?

フィンセント・ファン・ゴッホ「オーヴェルの教会」
1890年/オルセー美術館
(画像はアプリ「PINTOR」より保存)

次第に色が混ざって濁っていきそうな空と、蠢くようにうねった二本の道。ごうごうと音を立てて話しかけてきそうな建物と、その足元で風にたなびく草花たち。女の人も、ちょっと目を離した隙に、すたすたすたと歩いて行ってしまいそうな。
まさに、絵全体が動いて見える一作だと思います。


フランス、パリの北西の方角にあるオーヴェル・シュル・オワーズの教会を描いた、「オーヴェルの教会」。この地で最晩年を過ごしたフィンセント・ファン・ゴッホの作品です。
とはいえ、過ごした期間はわずか70日ほど。しかしその間に、彼はなんと約80点にのぼる絵画を制作したそうです。

こう聞くと、たいへん勢力的に活動したのだなぁと思ってしまうかもしれません。私も彼のことをよく知る前は、そう思っていました。ですが、この時期のゴッホは心身ともに常に不安と隣り合わせで、日々治療を受けながらも、誰もが驚くスピードで絵筆を動かし続けたのでした。それにはこのオーヴェル・シュル・オワーズという村の美しい自然風景が、力を貸したのかもしれません。


パッと目を引く緑をはじめ、この絵の色彩はいつにも増して鮮やかです。草木の緑は太陽の光を金色に反射している。光の当たり方を見る限り、この絵より手前側の上空から陽射しが注いでいることがわかり、しかし教会は少し陰ったなかに立っています。窓も、中の灯りが落ちているのか空の色を映しているのか、どちらにせよ、明るさがない。
こうした教会の暗い表情が、見る者に生き物めいた印象を与えます。息をしているように見える。だから、動いて見えるのだと思います。

そしてこの、深いコバルトブルーの空。そこに、雲なのか予感なのか、暗く立ち込める黒。印象派との出会いによって明るい色調を獲得したゴッホが、輪郭線や人物の箇所以外でこんなに大胆に黒を用いるのは、少しめずらしいように感じました。


突発的な発作が起こる可能性があった当時のゴッホは、強い絆があった弟のテオとも離れていて、不安と孤独をいっぱいに抱えていたのだと思われます。穏やかではない空の様子や、何か言いたげな教会の佇まいーー動いて見えるものの正体は、ゴッホの胸に渦巻いていたそうした感情なのでしょう。
けれども、光を失ってはいないので、まだ彼の中にも希望はあったのだと思います。彼の声を届けようとして絵が動いているように私には見えました。


まるでなにかを悟ったように、次々と作品を生み出していった最晩年。
自分とも、自分を取り巻く周囲とも闘いながら、おそらく誰よりも深く世界を見つめ、誰よりも熱く心を燃やした。自分の内にも外にも、必死に手を伸ばし続けたーーそんな画家なのだと思います。だから、一生を通じて凄まじい集中力を発揮し、こんなに力強い、見る人の心を揺さぶる傑作を描くことができた。

私はそんなゴッホに、彼のこの絵に、力強くこう声をかけたい。
「大丈夫ですよ。あなたの絵に励まされ、あなたの思いを感じようとする人々が、あなたのあとには沢山たくさん、続いています。ですからあなたは、独りではありませんよ。」と。


絵画が動いて見える時。それは、画家が見る者と話したがっている証拠なのかもしれませんね。

さあ、美術館へ足を運んで、絵の中の画家と対話をしてみませんか?


 ◯


最後まで読んで下さり、ありがとうございました
(^.^)🎏


P.S.
本記事を入れてこれまで4回、アート鑑賞の記事を投稿してみたのですが、思っていたよりも沢山の方に読んで頂いていて、本当に嬉しく思っています。
いつも見て下さっている方、あたたかいコメントを下さる方、そして今回初めて私の記事を読んで下さった方。誠にありがとうございます💐

5月初旬、早くも夏の香りを運ばんとする強い風の日が多いですが、皆さま素敵なGWをお過ごし下さい🕊️

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