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子育てしているママにぜひ観てほしい。可愛い子には旅をさせよってこと。「哀れなるものたち」鑑賞記録


▼本作概要


2024年公開。スコットランドの作家、アラスター・グレイによる原作をヨルゴス・ランティモス監督によって映画化された本作。
「女王陛下のお気に入り」で同監督とタッグを組んだエマ・ストーン主演。まもなく開催される第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞を始めとした計11部門にノミネートがされている。

neneオリジナル

▼あらすじ

主人公である女性が身投げすることで始まる物語。
ある天才外科医はこの入水自殺した女性の遺体を引き取ると、その女性が身ごもっていた子供を取り出し、その子供の脳を母親である彼女に移植。奇跡的に蘇生させることに成功し、生き返った彼女。
体は成人した女性でありながらも0歳児としての脳を持つ彼女が人と関わり、旅に出ることで成長していく物語。

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▼この作品の注目ポイント

  1. 工夫された色彩と撮影テクニックによる圧巻の映像美

  2. 実力派俳優陣による演技合戦祭り

  3. 独創的なファッション、装飾品の数々


▼人が成長する上で重要なこと

前述したポイントはさることながら、本作品で私が語りたいのは、このテーマ。


・欲望のままに生きるのか、思考の末に自分で作り上げた人生を歩むのか


主人公ベラが脳を移植し、蘇生され、0歳児の状態からベラが成長していく過程を見ることの出来る本作。

乳幼児がそうであるように、初めて見聞きするものすべてに興味を持ち、思うまま、自由気ままに行動するベラの様子はかなり印象的で。

外の世界に出られないため、家の中が彼女の世界の全てであったベラが、初めて自分の創造主であるバクスター以外の人物と出会う場面や、初めて外に出て自然に触れるシーン、旅に出て新たな物事を見ていく様はとにかく象徴的に描写されている。


様々なものに触れて成長していくベラを見ていると、大事なことに気づかされる。

・「思考して、自分で人生を形成していくこと」の重要さ。


室内で自由気ままに生活をしてきたベラの顕著な点、それはあらゆる点において欲望を素直にさらけ出し、押し通そうとする点。

ベラを見ているとある意味、欲望のままに生きること、それは動物としてはごく自然なことで、別に悪いことじゃないじゃん、なんて改めてはっとさせられる。

日常生活、欲望をむき出しにすると「悪」とされることが多すぎるからね。

ベラは作中で、食べたいもの、行きたい場所を要求し、突き詰め、これが叶わないとなんらかの形で抵抗を示す。

モラルとかないので、性欲を素直に解消するのに意欲的。恥じらいなんてもちろん持たない。


そんなベラですが、旅に出て様々な人に出会い、経験や学びを通すことによって、段々と人格が形成されていきます。


思うがままに行動をしてきたベラ。
それはそれでぶっちゃけ幸せな気もするが、作中でのベラを見ていても、人格を持つようになった作中後半のベラのほうが圧倒的に幸せそうで…


自分の意志を持つようになり、自分の生き方を作り上げていく。
最終的にベラが選ぶ生き方はとても魅力的で、「成功」なんて言葉は絶対不適切だけれど、人格形成のプロセスとしては大成功と言える結末となる。


・フランソワ・トリュフォー監督の「野生の少年」と比べてみた


本作を見ていると、フランソワ・トリュフォーの「野生の少年」を思い出す場面がかなり多かった。

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野生に捨てられていた少年を引き取り、言語などの人間的な教育を施していくという実話を元にした映画作品。


「野生の少年」の主人公と、「哀れなるものたち」における特に冒頭の乳幼児期間のベラはかなり行動が似ている。

  • 言葉が話せないので、声を出す。

  • 自分の要求、不満を何かしらの形で表現し、相手に伝えようとする。

  • 特に怒りや悲しみなどのマイナスの感情はとにかく強く主張する。

  • 行動に伴う影響などお構いなしに、思考することなく行動する。


これって、赤ちゃんそのものじゃん…


そんな共通点もある中で、この2作品はかなり対局的に展開していくのがこれまた面白い。

それは、「哀れなるものたち」において主人公であるベラの成長はかなり著しいが、「野生の少年」では、出会ったままの状態で成長がほとんど見られないという点。


・かわいい子には旅をさせよということ


なぜスタートが近しいにもかかわらず、こうも違ってしまうのか…

冒頭に記述した、下記の点が実はポイントなんじゃないとふと気づく。


ベラを見ているとある意味、欲望のままに生きること、それは動物としてはごく自然なことで、別に悪いことじゃないじゃん、なんて改めてはっとさせられる。

本記事冒頭より



実は「哀れなるものたち」において、ベラは想像主のバクスターに家の中から出ることを禁じられ、制約の多い生活を強いられ、そんな中でバクスターから一方的に教育を施されていた時期。
この期間には作品後半で見られるような、大きな成長は見られなかった。


「野生の少年」もある意味同じ環境下で、研究者の元、制約の多い環境で無理やり言語教育を施された少年は全く言語能力を伸ばすことなく障害を終えた。


制約してみるとそうなって欲しいように物事は進まず、意外と好き放題させてみたほうが良い結果を生む。

育てたいように育たないなんてまるで子育てじゃん…なんて、未婚で出産経験もない私ですが、そんなことをふと思った。

欲望を追求することが「悪」的な風潮にNOを。
失敗してもいい。
自分の願望のままに起こした行動で失敗した時こそ教訓になり、自分の学びが生まれる。


これは、自分の持つ感受性を大事にしながら生きたい(周囲に迷惑をかけない範囲で)と思う私自身めちゃくちゃ共感できるポイントだった。


・そういえば私も昔はベラだった話。(?)


実はある程度の自由を経験させることの重要性については、私自身もかなり強く思うところで…。

私は母がいわゆる「教育ママ」的な厳格なタイプだったので、幼少期からかなり制約祭りで、とにかく熱心な教育を受け続けていた私は、ある日を境にまあグレた。

色々あって、道を逸れることはなかったものの、明確に存在するそのタイミングを起点として、私の生き方は180度変わったように感じる。

自分の感じたことになるべく忠実に、自分の好きなこと、やりたいこと、思うままに行動する人生になった。

自由に楽しく生きてはいるものの、自分の意志決定でもたらされた失敗だってもりろんあるので、それらを振り返るとこれほど教訓になることはないと心から思う。

失敗することがあっても、自分が流されることなく根拠を持って選択しているんだ!と自覚してみると、自分で作る人生生きていくのはぶっちゃけめちゃくちゃ楽しい。そんなことを日々思う。

子どもが道を逸れない程度のバランスを見て、自由を与えてあげることもきっと子育てにおいては重要なんだろうな…(未婚で子無しだけどね)

なんてことを思いながら、自分のことをこれまで必死に育ててくれた母親を思い出したり、、後先考えず少々衝動的な行動を取る私に喝を入れてくれた友人が過去いたなぁなんて思い返したりした作品でした。

▼終わりに

いよいよ日本時間の月曜日に控える、第96回アカデミー賞。

本作はなんと、作品賞、監督賞、主演女優賞を始めとした計11部門にノミネート。

個人的にエマ・ストーンの主演女優賞は確実ではないかと思っている。

0歳児から、理性を持つ聡明な女性の姿までを演じ切った彼女の演技力には脱帽でした…


巷ではグロい…なんて言われているシーンも多くはありますが、
スプラッター系というより芸術的な印象を受け、苦手意識はなく済んだ。


個性的な衣装や、ベラの心情の変化を表す色彩の鮮やかさにも必見なので、是非劇場での鑑賞をおすすめします。


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