のはらの風

映画ライター Yumi Eguch(江口由美) シネマジカルの中の人が、コロナ禍からポ…

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映画ライター Yumi Eguch(江口由美) シネマジカルの中の人が、コロナ禍からポストコロナまでの映画をはじめとするカルチャーの動きを綴ります。どうぞ、ごゆるりとお付き合いください! https://cinemagical.themedia.jp/

最近の記事

昨年の9月27日のこと、覚えてますか?映画『国葬の日』が問いかけること

 安倍元首相銃撃事件がもたらした衝撃のさめやらぬ間に、あっという間に十分な議論も行われぬまま国葬を2ヶ月後の9月27日にとり行うことが決まり、反対派が声を上げたものの、厳かに行われたのがちょうど一年前。あれだけ世論を二分した(と思っていた)割には、終わってからは潮が引くように、国葬の是非については語られなくなり、そして誰も検証をしないように見えた。大島新監督のドキュメンタリー映画『国葬の日』を観なければ、遠い昔のことと自分の中でも忘れ去っていたことだろう。実際、一年後の今日の

    • 森監督が映画にしなければ、皆知らないままだった〜関東大震災での虐殺の顛末を描く『福田村事件』

       明日で関東大震災から100年を迎える。1923年9月1日に起きたこの大震災で多くの人が家を失い、東京が壊滅的な被害を受け、一時的に大阪や神戸が外国との玄関口となって繁栄することとなった。だが実際には、関東大震災でアナキストの大杉栄と内縁の妻、伊藤野枝やその子どもが連行され、虐殺される甘粕事件を筆頭に、社会主義者が拘束され、軍や警察主導のもと、朝鮮人が大勢虐殺されるという痛ましいことが起こっていた。そして、それは新聞で報道されることがなかったという。  日本政府も東京都知事

      • 無念…京都みなみ会館、9月末閉館

        この9月で60年を迎える京都の老舗ミニシアター、京都みなみ会館がこの9月末で閉館することが、今日発表された。 元町映画館とシネ・ヌーヴォの支配人、そして京都みなみ会館の館長が2020年4月、緊急事態宣言直前に1週間の「Save Our Local Cinemas」プロジェクトを立ち上げ、その上Tシャツのデザインから発送まで担当してくれたのが京都みなみ会館だった。その援助がどれだけ京阪神のミニシアターの心の支えになったことか。京阪神連携のようすは、わたしが責任編集した「元町映

        • 伝説のロッカー、PANTAさん、永遠なれ!

          昨日、まさに『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』関西宣伝をしていたキノキネマ、岸野令子さんとの『AFTER ME TOO』上映後に行うフェミニズムトークの準備をしていたとき、流れてきたニュースに衝撃を受けた。日本語ロックの先駆者と呼ばれた頭脳警察をはじめ、音楽シーンに大きな足跡を残したPANTAさんの訃報だった。 コロナ禍の2020年に、久しぶりのリアルな取材だと気持ちを高ぶらせる一方、ロック界の巨匠自らがインタビューに応じるということでいつになく緊張もしながら挑んだPAN

        昨年の9月27日のこと、覚えてますか?映画『国葬の日』が問いかけること

          全ての女性たちのために負けられない闘いとは?『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』ヨコハマ・フットボール映画祭2023

           FIFA女子ワールドカップ2011で日本代表が優勝し、なでしこジャパンと呼ばれて、日々優勝メンバーがテレビに登場していたのはもう12年前。アメリカの女子サッカーが強いことは知っていたけれど、その後のワールドカップで2連覇を果たした上、トランプ大統領の任期中である2019年ワールドカップ開催を前にした国際女性デーの3月8日に、女子サッカーチームの選手たちが雇用主であるアメリカサッカー連盟へ男女同一賃金(イコール・ペイ)を求めた訴えを起こしていたことは全く知らなかった。  映画

          全ての女性たちのために負けられない闘いとは?『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』ヨコハマ・フットボール映画祭2023

          アフターコロナの第一歩!上映中の食事解禁へ@元町映画館

          note「のはらの風」を2020年1月にはじめてからほどなく新型コロナウイルスが世界的感染となり、4月の緊急事態宣言以降はしばらく連日書いていたのが、もう3年前のこと。あの頃はアフターコロナになるのに2年ぐらいかかるかと思っていたけれど、蓋を開ければ丸3年、わたしたちはマスク生活を送り、映画館でもマスク着用がマストだった。 ドリンクやポップコーンなどのコンセッションが興行収入プラスアルファの大きな要素となるシネコンでは、コロナ下でも上映中の飲食は一時禁止されたときはあったけ

          アフターコロナの第一歩!上映中の食事解禁へ@元町映画館

          最新作カンヌ入賞に期待のかかるカウテール・ベン・ハニア監督が、革命後のチュニジアの闇に切り込んだ『マリアムと犬』〜イスラーム映画祭8

           神戸では毎年GWに元町映画館で開催されているイスラーム映画祭。イスラーム圏という切り口で、日本未公開作や日本紹介後公開されない作品などに光を当て、その国の文化や社会問題に向き合う機会を与えてくれるとても貴重な映画祭だ。昨年に続き、2010年代のアラブ諸国における民主化運動(アラブの春)の先陣を切ったチュニジアで活躍する女性監督作品が紹介された。 日本ではカウテール・ベン・ハニアという訳名で紹介されているカウサル・ビン・ハニーヤ監督。前作の『皮膚を売った男』(2020)は日

          最新作カンヌ入賞に期待のかかるカウテール・ベン・ハニア監督が、革命後のチュニジアの闇に切り込んだ『マリアムと犬』〜イスラーム映画祭8

          この世の中で生きていくのに必要な優しさ、居場所とは?『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

          自分の発言が誰かを傷つけてしまうのではないか、話を聞いてほしいけれど、その相手に傷跡を残してしまうのではないかと問い直す。そんな繊細な登場人物たちの心の動きを通して、無意識の加害性に気づかされるのが大前粟生の原作を金子由里奈監督が映画化した『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』だ。 大学のぬいぐるみサークル、通称ぬいサーの面々は、ヘッドフォンをし、周りの声を聞かないようにして、ぬいぐるみに自分の思いを語りかける。そこで吐露されるのは、楽しいこともあれば、自分自身が辛いと感じる

          この世の中で生きていくのに必要な優しさ、居場所とは?『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

          母ではなく社会の責任。捨てられた赤ちゃんをめぐる不思議な連帯に希望がみえる『ベイビー・ブローカー』

          是枝裕和監督が初めて韓国でメガホンをとった『ベイビー・ブローカー』が、今年のカンヌ国際映画祭でエキュメニカル賞とコンペティション部門の男優賞(ソン・ガンホ)を見事受賞したニュースは記憶に新しい。 その題材は、日本でも度々ニュースで報じられる赤ちゃんポスト。何らかの事情で赤ちゃんを自分で育てられず、赤ちゃんポストのある建物に置きざりにして去った母親と、預けられた赤ちゃんをできるだけ高額のいい条件で養子縁組するブローカーたち、さらにブローカーを摘発するため、現行犯逮捕を狙って張

          母ではなく社会の責任。捨てられた赤ちゃんをめぐる不思議な連帯に希望がみえる『ベイビー・ブローカー』

          ななめ上の女たち1〜元乳母のマッス『あるじ』(1925 監督:カール・テオドア・ドライヤー)

           マンハッタン在住の岡田育さんの著書「我は、おばさん」を元町映画館林さんから勧められ、読む機会があった。「おじさん」に比べて、言われたくない言葉のようになっている「おばさん」を、我々の手に取り戻す。そんな気概の中、古今東西の様々な小説、映画より、血の繋がりのある叔母さんから、全く血の繋がりはないが、親や親戚とは違う風通しの良さや、進むべき道をさりげなく示してくれる”ななめ上の存在”となるおばさんに注目している。子どもの有無に関わらず、これから若い人たちに対してどんな存在であり

          ななめ上の女たち1〜元乳母のマッス『あるじ』(1925 監督:カール・テオドア・ドライヤー)

          新人女優賞受賞、津田晴香(『まっぱだか』)の魅力とは?

           今日発表された、大阪の映画ファンによる映画まつり「おおさかシネマエスティバル2022」にて、昨年関西で先行公開された映画『まっぱだか』の主演、津田晴香さんが新人女優賞に選ばれた。今年5月に東京ではK's cinemaでの公開が決まっている『まっぱだか』で彼女がどんな演技をしたのか。  それを語るまでに、まず兵庫出身の津田さんのそれまでの出演作を見ておきたい。津田さんの映画初出演作にしてW主演を果たしたのが、伝説の映画『みぽりん』(松本大樹監督)だった。歌下手な地下アイドル

          新人女優賞受賞、津田晴香(『まっぱだか』)の魅力とは?

          オンライン(無料)で参加できる!2/3開催「 全国コミュニティシネマ会議2021」

           1月ミニシアター界のみならず、日本の映画界に大きなショックを与えたニュースといえば、ミニシアターの先駆者、岩波ホールの閉館(2022年7月)だるう。このニュース後、あの岩波ホールが潰れるぐらいだから、近所の映画館はもう潰れているのではないかと思われている人も多いのではないだろうか。それぐらいインパクトが大きく、そのイメージが現在営業中のミニシアターにも大きく影を落としていることは否めない。  オミクロン株もまだまだ下火にならず、なかなかミニシアターに足を運べない、現場のこ

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          渡辺真起子×安藤サクラの『トルソ』、大阪アジアン・オンライン座で世界初配信

           3月に開催される第17回大阪アジアン映画祭の「大阪アジアン・オンライン座」オープニング作品に、2010年開催の同映画祭で上映された山崎裕監督の長編劇映画デビュー作『トルソ』(2009)が決定した。  渡辺真起子さんのファンとしては、本当に懐かしく、そして嬉しいニュースだ。濱口竜介監督の『ハッピーアワー』や絶賛公開中の野原位監督『三度目の、正直』のような30代の女性の生き方をリアルに描く女性映画の誕生よりはるか前に、当時30代の渡辺さんと、単独主演作でブレイク前夜の安藤サク

          渡辺真起子×安藤サクラの『トルソ』、大阪アジアン・オンライン座で世界初配信

          「元町映画館ものがたり 人、街と歩んだ10年、そして未来へ」8/21刊行します!

          前回記事を書いたのが1月。もう8月も半ばを迎えようとしているが、その間何をしていたのかといえば、私自身はじめてメインで携わる書籍の刊行に向けて、ひたすら取材、執筆、そして山のような校正作業をこなしていたんだなと、この空白期間を見ながら思う。 長年懇意にし、配給宣伝とプレスという関係以上に、いろいろ学ばせていただいている映画パブリシスト岸野令子さんから昨年8月、元町映画館の社員(経営会議で議決権を持つ)になってくれないかと打診を受けたのが全ての始まりだった。 1回目の緊急事

          「元町映画館ものがたり 人、街と歩んだ10年、そして未来へ」8/21刊行します!

          朝野ペコのイラストが秀逸!古傷がうずく愛おしいラブストーリー『花束みたいな恋をした』

           いやあ、ずっと、ずっと待っていました。元町映画館の月間スケジュール表紙イラストを開業以来ずっと手がけてきた朝野ペコさん。出身地が同じということ、初個展からファンになり、ずっと活躍を追いかけてきた。ちなみに拙サイト「Cinemagical シネマジカル」でもトップ画を描いていただいている。  そんな映画が大好きなペコさんの念願が叶ったとも言える映画制作に直接かかわるお仕事がなんと、菅田将暉×有村架純主演の『花束みたいな恋をした』なのだ。脚本は名作ドラマ「カルテット」をはじめ

          朝野ペコのイラストが秀逸!古傷がうずく愛おしいラブストーリー『花束みたいな恋をした』

          震災で運命が変わった人たちの葛藤を描く、純度の高いピアノ映画『にしきたショパン』〜緊急事態宣言関西Day8

           核兵器禁止条約の発効、アメリカのパリ協定復帰と次々に新しい動きが生まれてくる中、なかなか感染者数が減らない日本。すでに1ヶ月緊急事態宣言を延長かというニュースまで流れてくるとは・・・。  そんな中、市民の熱い想いから地元西宮が舞台の音楽映画が誕生した。その名も『にしきたショパン』。阪神・淡路大震災の記憶を語り継ぎたい、そして左手のピアニストを応援したいという気持ちから、クラウドファンディングを経て生まれたという本作。監督は神戸在住で本作が初長編作となる竹本祥乃監督。トップ

          震災で運命が変わった人たちの葛藤を描く、純度の高いピアノ映画『にしきたショパン』〜緊急事態宣言関西Day8