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The Zone of Interest(邦題:関心領域)を観る

先日、公開されたばかりの「The Zone of Interest(邦題:関心領域)」を観た。端的に言うと、Auschwitzで大量虐殺をしていた時代、その裏側の屋敷に住んでいた所長家族の家庭内の様子を描いた映画だ。

最初にそれを述べてしまうと、「シマ子さん、あなたまたホロコーストですか?」と言われそうだし、「すき」も殆どつかないことは書く前から想定内だが(どうやら、大部分の日本人はホロコーストやユダヤの話題、そして恐らくポーランドにもあまり興味がないことがわかった)、私が興味のあることを書くのが私のNoteの本質であると思っているので、「すき」がつこうがつくまいが、この題材については、完全無欠にお構いなしなのだ。ゆえに、これからも機会があれば随時更新していきたいと思っているので、感心のない方は飛ばして、ホイップクリームのように軽い食べ物の話や、空想癖のあるシマ子のつぶやきを楽しんでいただければ、と思う。

ちなみに、私同様、ごく少数派の方へ向けてアナウンスしておくと、日本での公開は今年の5月24日の予定だそうだ。

「The Zone of Interest(邦題:関心領域)」は、Martin Amisの同名の小説を原作とし、Jonathan Glazerが脚本・監督を務めた映画。Auschwitz強制収容所の隣に建てた新居で妻のHedwigとの理想の生活を築こうとするRudolf Höss所長の家庭内とそれ以外を描いた作品。

Glazer監督は、架空のキャラクターの代わりに、強制収容所で最も長く所長を務めたRudolf Hössとその妻という史実の人物を起用することを選び、Höss夫妻について2年間にわたる徹底的な調査を行った。またAuschwitz博物館やその他の組織と協力し、公文書館にアクセスする特別許可を得て生存者やHöss家で働いていた人物から提供された証言を調べ、徐々に事件に関係する個人の詳細な描写を構築していった。

Wikipediaより抜粋

この作品で特筆すべきなのは、監督が収容所内で起こっている虐殺行為を一切見せず、その悍ましい音声、雰囲気としての音響を聞かせるだけにとどめていることだろう。
実際、音響デザイナーは関連する出来事、目撃者の証言、収容所の地図等を含む膨大な資料をまとめ、撮影が始まる前の1年間、製造機械、火葬場、当時を正確に再現した銃声、人間の苦痛を表す音等を含む音響ライブラリーを作り上げたそうだ。

また、監督がAuschwitzを美しく撮ることを望まなかった結果、照明が組まれず、自然光だけが使われた作品のため、常に不穏な空気が流れ、絶妙に配された音響が更なる怖気を与えていたように思う。

さて、シーンはおおよそ下のような構成となっている。

1.
新居内では、時に所長が子供たちを水泳や釣りに連れ出し、妻は庭の手入れに時間を費やす。召使は家事をこなし、囚人の持ち物は家族に渡される。
しかし庭の塀の向こうからは、絶え間なく銃声や叫び声、列車や炉の音が聞こえてくる。
ここはカラーで展開され、不穏な音も耳障りと言うほどの大きさではない。

2.
子供たちが川で水遊びをしている際に人骨を見つけるシーンや(骨は見えない)、所長が自分の事務所で囚人と性的関係を持ったことが暗示されるシーンがあり、これらはカラーで展開される。
一方、屋敷で働くポーランド人の下女が毎晩こっそり外出し、囚人たちの仕事場に林檎を隠し、彼らが見つけられるようにしているシーンは、黒が強いモノクロで表現されている。ただし林檎には、まるでヘンゼルとグレーテルのパンくず、つまり「何かをたどる際の目印」のように銀色の輝きが与えられている。

このポーランド人の少女は、監督が調査中に出会った女性にインスパイアされているそうだ。ポーランドの抵抗運動員だった彼女は飢餓に苦しむ囚人のために林檎を置くため収容所まで自転車で通っており、映画で使われている自転車も女優が着ている衣裳も彼女のものだそうだ。

3.
所長は全強制収容所の副監視官に昇進し、移転の通知を受ける。しかし妻は自分たちの家に深い愛着を抱いていたため、自分と子供たちが残れるよう、上司を説得するよう彼に懇願した。その願いは聞き入れられ、所長は単身赴任する。その間、妻の母親が滞在するのだが、夜の火葬場の炎の光景と匂いに恐怖を感じ、ある朝、置き手紙を残し、忽然と姿を消す。
この辺りは全てカラーだが、不穏な音や人々の叫び声、銃声がどんどん大きくなっており、それを完全にないものとして過ごす妻と子供たちの無関心さがある意味奇妙であり、その冷徹さに脅威を感じ、次第に虫唾が走った。

4.
移転の数ヵ月後、その功績が認められ、所長は自分の名を冠した70万人のハンガリー系ユダヤ人をAuschwitzに移送して殺す作戦の指揮を執ることになる。そのおかげで彼はAuschwitzに戻り、家族と再会する。

5.
その後、所長が嘔吐しながら階段から下るシーンと、現代のAuschwitz-Birchenau博物館の清掃員の映像が交錯する。
私がAuschwitzを訪れた際に見たシーンも映画内にしっかり映っていた。

残酷な映画ならば、むしろ、Michel Gondryの「Mood Indigo」やLuca Guadagninoの「Bones and All」の方が酷かった。本当に吐き気を催すようなシーンが多数あり、実際に途中で退場する人も複数おり、特にBones and Allを観た後10日間くらいは、映画館と、この映画を観た自分を恨んだくらいだ(苦笑)
「Mood Indigo」は、昔Boris Vianの原作の「日々の泡」を読んでいたため、まさかそこまで恐ろしい仕上がりになっているとはつゆ知らずに見てしまった。これはTrailerだけなら観られるレベルなのでリンクを貼っておくが、「Bones and All」はあまりにも酷くて思い出したくもないので、リンクも貼らないことにする。

そうした、見える残酷さ・恐ろしさを、私は非常に苦手としているが、果たして、見えない残酷さと見える残酷さとでは、どちらの方が人間の心理に訴えかけるのだろうか。
見えない残酷さと聞かせる残酷さを併せ持ったこの「The Zone of Interest」は、そういう意味では、非常に新しいタイプの訴求戦略を取った作品だと思う。


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