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「ラーメン1杯で1000円は高いよね」 恋人との価値観  医師の恋愛  ふるさとの石川県を医師が語る


 母校のあるふるさと。離れた地にいる私には能登半島地震の惨状を祈ることしかできないです。ここではふるさと石川県の医学生そして研修医の思い出を振り返ります。

■魅惑のスチュワーデスとの合コン

「今度、合コンあるからさ、一緒に行かない? なんとスッチーが来るんだよ」

4対4の合コンがあると先輩に誘われたのが、今から1カ月前。


先輩からの誘いですから断るに断れずに、曖昧は返事しかできませんでした。それに当時私には彼女がいたのですが、女性のメンバーがスチュワーデスと聞いて、はっきりと断ることができない私もいました。当時の私は研修医だったのですが、やはりスチュワーデスというのは、魅力的な職業です。こういう事でもなければ、一生プライベートで関わることなどないかもしれません。そんな私の意志の弱さもあって、結局のところ、先輩と研修医が3人とスチュワーデスさん4人とで、合コンが開催されたのでした。


職場では、さすがに合コンの話などするわけにはいきませんから、この話をする時は周囲に注意を払って話をしたのを覚えています。そして当日が迫ってくると、スチュワーデスさんとの合コンが素直に楽しみだと言えるようになりましたし、だからこそ重症患者を抱えないでいたいという気持ちも強くなりました。重症患者は、こちらの予定を考えて現れるわけではありませんので、完全に運です。そしてあと一つ。当時付き合っていた彼女には、絶対にバレてはいけないので、彼女の前では平然としていないといけないという不安も抱えていました。


■合コン当日に感じたこと

合コン当日。重症患者は現れず、私は晴れて合コンに行くことができました。ただタクシー代がかかるので、友人一緒にタクシーでホテルに乗りつけることに。受付で先輩の名前を出すと、コンシェルジュがVIPルームへ案内されました。


私:「なぁ、今日いくらぐらいかかるんだろ?」

友人:「全部先輩が出してくれるって言ってたじゃん。気にしなくていいんじゃない?」


VIPルームは結構な広さでした。2LDKのマンションぐらいでしょうか。合コンと言っても、個々で話をするのも可能な広さでした。そんな場所には慣れていないので、すっかり委縮している研修医3人。「どんどん欲しいもの頼んじゃってよ」と先輩は言うのですが、メニューには料金すら書かれていません。


なんとか安そうなものはないかとみんなで試行錯誤していたのですが、値段が載っていないのでわかりません。そうこうしている間に「じゃあこれとこれとこれ、お願いします」と女性陣は頼んでいきます。先輩も「支払いは任せちゃってよ」と笑顔で言うのですが、結局私は最後まで何も注文できませんでした。


「毎日仕事しているんだからさ」「稼いでいるだろ。お金なんて墓場には持っていけないぜ」「人生高々80年なんだから若いうちに楽しめよ」なんて言うようなことを散々先輩に合コン途中で言われましたが、そんな気分にはなれませんでした。もしかすると医師との合コンあるあるなのかもしれませんが、イケメンでもなければ、お金もない研修医の我々には、スチュワーデスたちは見向きもしませんでした。つまり、スチュワーデスと先輩の4対1合コンということです。


スチュワーデス:「先生は年収いくらなの?」「3桁もらっているんでしょ?」

私:「年収で3桁って言うんですか? 100万円いくかいかないかかもしれません」

と私がバカ正直に答えてからは、スチュワーデスたちは引いたような表情を見せ、それからは目も合わせてくれません。結局、先輩の1人勝ち状態でした。


「いやー。楽しかった。イケメンとかだと女の子って緊張しちゃうじゃん。お前らみたいなのだと下に見られているから女の子も緊張しないから楽しいんだよ」


先輩は彼女たちの連絡先をもらって嬉しそうでした。結局、医師と言う肩書もそうだけれども、金なのかな……と研修医同士で納得したのでした。


一体いくら先輩は払ったのでしょうか?

怖くて聞けませんでした。


■当時の彼女であり、今の妻との金銭感覚

それからしばらくして私はおつきあいしていた彼女とのランチデートがありました。私も彼女も大好きな中華料理店です。

「ラーメン1杯で1000円は高いよね」

店員さんに聞こえないように彼女は言います。

「そうだよね。ランチだとラーメンとミニチャーハンがついて800円。夜だとラーメン1杯で1000円だからね」

その中華料理店は私の大学のある石川県と、彼女の出身地である富山県に何店舗も構える美味しい中華料理店です。


先輩に誘われていったスチュワーデスとの合コンとは、全く違う金銭感覚です。ですが、私も彼女も同じ金銭感覚だったので、そういう話を気楽にすることができました。


それから月日がたち、50歳になった今ではこれまで一生懸命仕事をしてきたのだから貯えもあります。でも当時は、とてもじゃないけれども、あの合コンでの先輩やスチュワーデスたちのような振舞などできません。ましてや他人のお金をむしりとるような真似はしたくありません。


ただ、彼女と中華料理店に行った時、私は居心地の良さから、つい先輩と行った合コンの話をしそうになりました。

「そういやこの前、先輩と……いや何でもない」

「そう。何でもないならいいけど。でも、このラーメン美味しいよね」

彼女は価値観や気が合う反面、何でも私のことは見透かしています。うかつなことを言えば、すぐにぼろが出てしまうということです。


「これからも一緒に美味しいもの食べられるといいね」


研修医生活が終わると、私は彼女とすぐ結婚して、今では子どもも4人います。お互いに支え合ってここまでやってきました。価値観の合う彼女との結婚。これが私の研修医時代のお手柄でしょう。

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