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【医師コラム】絵を描くことが好きなことと整形外科手術がうまいこと。

■いつも1人でいる彼女の姿
私はこれまでにも様々な人たちと出会ってきました。その中で、仕事に対する姿勢が変わったきっかけといえば、ある人が頭に浮かんできます。今回は、その人のことについて書いていこうと思います。

私には学生の頃から知っている女性がいます。彼女は、教室の中で常に1人でいました。誰かと一緒に行動するどころか、誰かと話をしているところも見かけたことがありません。ですが、彼女はイジメられていたわけではないのは確かです。男子も女子も、彼女に対してそういった陰口を言ったことはないから。どちらかというと彼女は、他人を寄せ付けないオーラがあり、むしろ恐れられていたようにも思いました。

友だちを作ったり、仲間を作ったりすればいいのに、人見知りをしているのか、それとも会話が苦手なのか、何か理由があるのかもと初めは思っていました。けれど、彼女の両親は医師で、私の両親ともつながりがあります。そこで聞いたのですが、実は彼女は家ではお喋りなのだそうです。となると、彼女が学校でしゃべらないのも、1人でいるのも自分の意思なんだなと思い、私は彼女に対して何かを思うことをやめました。

■「冷たい」「キツイ」という評価は正当なもの?
そんな彼女は、私と同じく大学医学部に入学しました。大学生になったら何か変わるのかなと遠巻きに見ていたのですが、彼女は昔から好きな絵を描いたり、本を読んだりして、これまでと同じように1人でいました。やはり1人でいるのが好きなようです。

ですが彼女も大学では躓く場面もありました。それは実習です。実習生でも患者との雑談をしたり、声掛けをしたりすることがあるのですが、彼女は必要なことしか話をしませんでした。そのせいで、患者から「冷たい」「キツイ」という評価を受けてしまったのです。それがきっかけで、彼女は陰口の対象になってしまいました。

けれど、彼女は元々1人でいるタイプだったので、だからといって何かが変わるわけではありません。私も陰口のことは知っていましたが、彼女と関りがあったわけではないので、彼女が陰口のことを知っているかどうかもわかりません。ただ思うのは、患者の評価は彼女が必要最低限のことしか言わなかったから、というだけです。実習生の中には自分の意見しか話さない人もいれば、空気を読めずに適当なことばかり言う人もいます。そういう実習生に比べて、本当に彼女は「悪い実習生」なのだろうかという疑問もありました。

また彼女は難易度の高い医学部でも成績が良かったため、医師の国家試験でさえも留年せず、1回の試験で合格しました。大学医学部の場合10%以上の生徒が留年をするのにです。そんな彼女に対してのやっかみもあったのでしょう。医学部の一部の人たちは、愛想のない彼女は医師になったとしても、成功などするはずがないと陰で嘲笑っていました。

■「医師」の形は1つだけではなく多様化されている
数年後。彼女は絵の才能を生かして、異例の速さで整形外科の教授になりました。同期の中でも本当に早いといえます。彼女の診察方法は特殊で、相手が子どもでも大人でも関係なく、絵を描いて病気の説明や手術の説明をしています。その絵は、専門知識のない患者さんがわかるようにデフォルメされたものです。彼女自身は無表情なままなのですが、患者さんが納得するまで、とことん絵を描いて説明をしてくれるので人気の高い医師となりました。
また、彼女は手先が器用で手術もうまいため、彼女が医師として成功をするのは当然といえます。

そんな彼女は現在、800人待ちという患者さんを抱えています。彼女のことを、医師に向いていないといった人たちは、これまでの事例にないタイプの人だからそういったのだと思います。なんでもかんでも型にはめて考えてしまうからこそ、視野が狭くなるということも往々にしてあるものです。

私のように軽口を叩きながら患者さんの信頼を得る医師もいいのですが、彼女のようなタイプも存在します。「医師」も色々な形があっていいということ、彼女は私に教えてくれた気がします。

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