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【ようこそ】#現代4コマ について


はじめに

 美術解説/私論シリーズ。キュビスムに続く第2弾は現代4コマです。この芸術をnoteにて紹介した記事には先例があり、本稿はそれを踏まえたものとなります。こちらもぜひ読んでみてくださいね。↓

qpdb氏(@___qpdb___, X)が執筆された、このありがたい記事の発表から早数ヶ月。新しい表現や動向も複数現れました。そろそろ別な概説記事が必要と考え、このたびの公開に至りました。なお現代4コマの見所をある作品の解説に交えて紹介した、なむさん氏(@numsung763, X)の記事も素晴らしいのでご確認ください。↓

 第Ⅰ章では現代4コマに関する基本的な解説をします。第Ⅱ章では非網羅的ではありますが、現代4コマの表現手法をいくつか取り上げます。第Ⅲ章では2024年4月現在において、とてもホットな話題をふたつ挙げます。第Ⅳ章では投稿プラットフォーム、「現代4コマ」アカウントについて触れます。

Ⅰ 現代4コマについて

現代4コマとは何か?

 「現代4コマ」とはいととと氏(@itototo1010, X)が始めた、新たな4コマの姿を追求するアートです。従来の4コマ漫画のコマ枠、長方形のなかには大概キャラクターがいて、上から下へと時系列にそって描かれています。漫画なのですからそれは至極当然のことですね。いととと氏はその4コマ漫画から「漫画」を取り払い、現代アートの「現代」を頭にくっつけました。
 「現代4コマ」とは4コマ漫画を「現代」という語に対比して過去のものにしたのではありません。あくまでもそれに着想を得て生まれた新たな概念として、「現代」の名が授けられています。よって漫画史の諸芸術と敵対はしないし、それらと並行して発展、共存し得る現代アートなのです。
 なお現代4コマという名称が誕生したのは、いととと氏の以下の作品が発表された2023年3月9日です。

『is this 4 flames?』(いととと)

しかしそれ以前にも、いととと氏とトランプ/んぷとら氏(@t0klr, X)が中心となって4コマの実験を行っていました。「4コマではない」(wiki)「本当の日常系4コマ」(wiki)、そして次の項目で紹介する『ベートーヴェンの4コマ』(「自分を4コマ漫画だと思い込んでいる4コマ」, wiki)などの2022年から2023年2月頃までのこういった運動・作品も、現在では現代4コマの動向の一部であると広くみなされています。

実際に観てみよう

 それではさっそく、現代4コマの代表作ともいえよう芸術作品を4点掲載します。名作と呼ばれるものは数多あるし現代4コマ作家もたくさんいますが、このアートを知らない人にも伝わる作品を生みだす能力に長けている人物には、いととと氏となむさん氏の2名が挙がるでしょう。

『ベートーヴェンの4コマ』(いととと)

 『ベートーヴェンの4コマ』は、ベートーヴェンの肖像画をコラージュのように切り貼りしたり縦に引き延ばしたりすることで、鑑賞者にあの『運命』の序奏、「ジャジャジャジャーン」を想起させます。まだこの芸術運動に「現代4コマ」いう名称が与えられる前、2022年の名作です。

『心電図』(なむさん)

 『心電図』はこの作家のデビュー作であり、発表されると現代4コマ界に激震が走りました。コマの間を活用するというこれ以前には作例の少ない手法を用い、死に至るまでの経過を効果的に表し、鑑賞者の心を動かします。第Ⅳ章で解説する、「現代4コマ」アカウントに投稿された作品のなかでも特に伸びた作品です。

『大当たり』(なむさん)

 『大当たり』は、4コマがガラガラ(多角形の抽選機)の3つの面とくじ玉の受け皿を表象しています。またそれと同時に、玉の動きと4コマとが時系列の流れに対応しており、強力な物語性を有しています。ガラガラの回転を表す線と当たり玉の輝きが、大当たりしたときの感動の再現を補強してくれます。

『3分経った』(いととと)

 『3分経った』は、この作家の芸術のなかでもトップクラスのバズりを経験した作品となりました。インスタントの焼きそばにお湯を入れ、排水するまでの様子が描かれています。0分(お湯を入れた)、1分、2分、3分(できあがり)の状態と各コマがそれぞれ対応を見せています。非常に共感できるあるあるネタを、現代4コマに落とし込んだその手腕には敬服せざるを得ません。

現代4コマの見方・楽しみ方

 現代4コマの醍醐味。それはまだ生まれて間もないにも関わらず、濃密な1年半ほどの歴史のなかで生まれた様々な表現手法を、そして現代4コマ作家たちの個性を観られることにあるでしょう。彼らと(あるいはその作品と)対話してその真意を探るのも良し、無視して新たな文脈を見出すのも良しです。芸術をより発展させるのは鑑賞者です。現代4コマを観たらぜひあなたの感想を聴かせてください。
 わかりやすい例としていととと氏となむさん氏の作品を紹介しましたが、ミニマルアートのように洗練されたもの、抽象的なもの、文章で表現したものなどその表現の多様性は目を見張るものがあります。現代4コマにおける主要な表現は第Ⅱ章で扱いますので、鑑賞の際の参考にしていただけると嬉しいです。

これは何だ!?

『セグウェイ』(視力)

Ⅱ 主要な言語とその派生

 現代4コマの主要な表現手法として、①「4つ・4種類ある状態」、②「4コマ」、③「4」、④「十字」を取り上げます。この4つは手法というより「現代4コマの言語」と呼んだほうがいいかもしれません。またそれぞれに関連する表現手法がある場合はいくつか紹介します。参考にした作品や現代4コマwikiへのリンクもたくさんありますので、気になるものがあったら深掘りしてみてください。

①「4つ・4種類ある状態」

 画面に何かが4つあれば、あるいは画面内にあるものを4種類に分類できれば、それはもう4コマであるという考え方です。つまり4コマ=4個であるということです。これを包含しつつさらに拡張した「数理派」(wiki)が、2024年になって正式に定義されました。そのなかでも、画面内の要素を4種類に分類するカテゴライズ(wiki)が代表例となります。②で扱う「4コマ」ですら数理派に従属するものと考えられており、これは現代4コマにおけるもっとも基礎的な言語と言えるでしょう。
 数理派の記事の執筆者であるトランプ氏は、「コマ」と「コメ」の言葉遊びを交えながら、「4コマ」がほかのもので代用できるという皮肉な事実を提示しています。

『#玄米4個だ』(トランプ/んぷとら)
「4個ある状態」の作例

 朽羊歯ゾーン氏(@_KushidaZoon_, X)は、カテゴライズにおいて非常に興味深い作例を生み出しています。以下は形、色、柄、大きさでそれぞれ4種類にカテゴライズできるおもしろい作品となっています。noteでは画質が荒く柄が潰れてしまっているため、ぜひXの投稿をご覧ください。

『同じ形のものを同じマンガのコマとするか? 同じ色のものを同じマンガのコマとするか? 同じ柄のものを同じマンガのコマとするか? 同じ大きさのものを同じマンガのコマとするか?』(朽羊歯ゾーン)

②「4コマ」

 「4コマ」そのものであり、この言語は現代4コマの出発点とも言えるでしょう。「4コマ原理主義」(wiki)によれば、「4コマ」には縦4連型、田型、横4連型の3種類の定式があるとされています。 実際はこれらの定式を柔軟に変形し、現代4コマ作品の図像に取り込む傾向が一般的です。第Ⅰ章の「実際に観てみよう」で紹介した4作品は、いずれもこの手法に基づくものであると考えられます。
 一方4コマを単なる記号としてそのまま画面に描く「添え4」(wiki)があります。文字通り4コマは添えるだけで、それには4コマであること以外の情報は与えられていません。

『雲』(ぷらりね)
添え4の作例

 また何かしらの手段をもって4コマの実存を知覚させ、実際には4コマすべては描かない「補完4コマ」(wiki)も有力な表現手法です。これは4コマ=4個という数理派の前提があってこそ成り立っています。以下の作品は、実験による爆発でそれより前の3コマが吹き飛んでしまったのでしょう。

『補完4コマ』(ぷらりね)
補完4コマの作例

 「現代4コマ詩」(wiki)は、4コマを主題とした詩を作る手法と詩の文字列に4コマの形象を図像的に取り込む手法の2派が主流です。前者は補完4コマ、後者は添え4に近い概念だと考えられます。

『4コマ詩』(いととと)
4コマを主題とした詩(精神派4コマ詩)の作例
『空蝉が喚き囁き啼き叫ぶ #俳句』(トウソクジン)
4コマを取り込んだ詩(物質派4コマ詩)の作例

③「4」

 現代4コマという芸術が4コマを4つのコマで表現するものならば、コマを4で表現しても現代4コマではないか? という発想のもと、視力氏(@shi_ryoku, X)によって創始された「コマ4表現」(wiki)があります。現在この言語は急進的に発展し、4がコマの形象を造り出さなくとも、画面に「4」かそれに類するかたちがあるだけでコマ4表現のそれとみなされる場合があります。
 現代4コマ界においてはあまりにも自然に定着していますが、この芸術を知ったばかりの人には難解であろうと思われます。とりあえず上の太字の部分だけ覚えておいてください。

「コマ」で「4」を表すのでなく、
「4」で「コマ」を表せるのでは…?

視力, 2023.5.21

 『無題』(2023.5.21)はコマ4表現誕生のきっかけとなった作品です。原義に基づき、「4」で「コマ」を形成していることが分かります。

『無題』(視力)
コマ4表現初の作例

 『正負』はピート・モンドリアン《線のコンポジション》(1917)か、彼のそれに類する作品のオマージュと考えられます。「4」のように見える形象を複数認められますが、それは「コマ」を形作ってはいません。

『正負』(視力)

 『同体』は「4」と「4コマ」とが一体化しています。いくつもの連作を通して、視力氏が「コマ」と「4」の大いなる綜合を果たした傑作です。

『同体』(視力)
同氏のコマ4表現の連作、120作目

④「十字」

 現代4コマ界においては十字も強力な言語です。今日では「コマ十表現」(wiki)と呼称されているこの表現手法の来歴には諸説ありますが、十字を4コマに見立てたもっとも古い作例はアラヤマ/アラビックヤマト開眼式氏(@Arayama_med, X)「国旗4コマ」(wiki)、『スイスの4コマ』でしょう。

『スイスの4コマ』(アラヤマ)

そもそも国旗4コマとは、十字が入った国旗を4コマに見立てる流用行為(アプロプリエーション)の一種、「アプロプリエーヨン」(wiki)です。(参考:『フィンランドの4コマ』) アラヤマ氏は大胆にも、4分割されていないように見えるこの国旗を4コマと主張しました。
 この十字という言語は画面を4分割する手法、「強制4分割」(wiki)などでもたびたび見られたうえ、「4コマ原理主義」に定められた田型にもよく似ています。そしてさる2023年11月17日、いととと氏の『見てここ、4コマ』が発表されたことによって、十字はただの「コマの背景」ではなくなり、それ単体での地位を確固たるものとしました。

『見てここ、4コマ』(いととと)

 なお見ての通り『見てここ、4コマ』も国旗4コマと同じく流用、アプロプリエーヨン(アプロプリエーション)から生まれたものです。現代4コマはこれらにもとからあった文脈を乗り越え、まったく新たな表現を生みだしたことになります。

Ⅲ 最近の動向

 第Ⅱ章では主要な表現を紹介しましたが、ここではこの記事を投稿した時点における注目すべき動向をふたつ挙げます。

現代4コマ分析の最前線「新代弁主義」

 そもそも本稿を執筆するに至った動機は、以下のトランプ氏の記事を見て刺激を受けたことにあります。

第Ⅰ章で紹介した『3分経った』が大きく伸びた理由を、いととと氏が2022年に発表した有名な作品群(『ベートーヴェンの4コマ』卒業式カニ食べてるときの4コマ)に代弁主義的な特徴を見出すことで説明するものでした。鑑賞者は4コマという代弁者を通してナラティブ(誰かの視点で紡がれる物語)を知覚するのです。『3分経った』やなむさん氏の作品をはじめとした、ナラティビティ(物語性)のある作品が台頭する現在の傾向を、トランプ氏は新代弁主義と呼んでいます。
 美術史観的に捉えれば古典に立ち返った、新古典主義の時代とも言えるでしょう。今日現代4コマとみなされる作品群が発生してから1年半以上経ちますが、この現代アートのなかにも先鋭化する「前衛」と4コマ漫画の流れを汲んだ初期の「伝統」という2つの傾向が共存しているのです。そして代弁主義的な現代4コマの伝統を意識している作品の方が、みんなに伝わりやすくてウケがいい。それが2024年3月31日に起きた『3分経った』の大バズによって明らかにされたのでした。

謎の置き土産「ブルーレットおくだけ」

 新古典主義の時代とか言っておきながら何ですが、『3分経った』が投稿されるすこし前にはぷらりね氏(@Puraline05, X)「ブルーレットおくだけ」(wiki)に端を発する急進的で短命な動向がありました。

『ブルーレットおくだけ』(ぷらりね)
↑元凶

複数人がnoteでこの作品の論評をしたことにより注目度が急上昇し、作家たちは4コマの上じゃないところにも「ブルーレット」を置きはじめます。最終的には「ブルーレット」を画面に配置するだけで、4コマに関係なく現代4コマ作品とみなされるようになりました。(「だけ」, wiki)
 「ブルーレットおくだけ」のようにほとんどミームと言っていい動きは過去に例があります。『マイケル・ジャクソンじゃなかった』(wiki)はマイケル・ジャクソンじゃなかったとしかいいようがない、2023年7月~8月頃に流行ったミームです。

『マイケル・ジャクソンじゃなかった』(いととと)
↑元凶

詳細は現代4コマwikiを参照ください。もはや内輪ノリであろうこういった動向が生まれることもありますが、また現代4コマ作家たちが何かやってんな~と静観していただければ幸いです。

Ⅳ「現代4コマ」アカウント

 冒頭でも少し触れた「現代4コマ」アカウント(@gendai4koma, X)とは、有志の現代4コマ作家人生氏(@unagi_mp4, X)最中猫氏(@m0nacat, X)によって運営されている投稿プラットフォームです。(いつもありがとうございます) 1日に4回、公募によって集まった作品がポストされます。
 現在は過去の傑作を再投稿する企画が行われています。「企画展」や「投稿祭」と呼ばれるイベントが開催されることもあり、なむさん氏の『心電図』は第1回「朝までそれ4コマ」(wiki)という企画で正解(優勝)した作品です。

 このアカウントのプロフィール欄にある投稿フォームから作品を送ると、後日同アカウントよりポストされます。発表は送ってから1から2ヶ月後くらいになるでしょう。題名と作家名、XのIDの記入は任意であるため、匿名での投稿も可能です。ぜひ作品を送ってみてください!

おわりに

 いかがでしたでしょうか。現代4コマの魅力を少しでもお伝えできていたら幸いです。これを読み終えたあなたは、世界のいろいろなものが「4コマ」に見えているのではないでしょうか?
 最後に、おすすめの記事を紹介します……が、紹介しきれなかった表現手法、作品、そして作家がたくさんいます。なのでまずは現代4コマに飛び込んできてください! そしてぜひご自身でも投稿してみてください。4コマっぽいものを写真に撮って、「#現代4コマ」をつけてSNSに上げるだけでもOKだし、第Ⅳ章で扱った「現代4コマ」アカウントに投稿してみるのもありです。
↓画像をタップするとXの検索結果、【現代4コマ】に繋がります。

『Entrance』(トウソクジン)

——ようこそ、現代4コマへ。
それではここまでご覧いただき誠にありがとうございました。

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外部記事

↓現代4コマwiki

↓ニコニコ大百科

↓「4コママンガのススメWeb」様による紹介

↓議論を呼んだ現代4コマのTogetterまとめ

note

↓「ブルーレットおくだけ」の解説

↓「マイケル・ジャクソンじゃなかった」の解説

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月刊詩誌「ココア共和国」のコーナー、「4コマ詩」へ「現代4コマ」がテーマの詩を投稿しています。
↓詩の掲載報告まとめ

↓トウソクジンが始めた、鑑賞者の主観に4コマの実存を問いかけ、自分で解説するシリーズ「4コマ印象派」(wiki)のまとめ

『《習作》印象・日の出と4コマ』(トウソクジン)
「4コマ印象派」初の作例

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