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映画『新聞記者』~松坂桃李がすばらしすぎて、思わぬ形で夫への情を確認してしまうw

そうそう、わたし見たんですよ、『新聞記者』。うーん。これね~。非常に感想が書きにくくて…。
とりあえず、たくさんの人に見てほしい! 今後もまたこういう映画を製作するために。
フィクションがこういう世界を描き、メジャーの興行に乗せて届けるのはとても大切なことだと考えます。

で、フィクションとして見た場合、面白いんだけどなんかすごく惜しい。もやもや~~~。

基本的に、私はこの映画で描かれる事件の概要を知っている。
伊藤詩織さんのレイプ事件。森友や加計学園の件。自殺した大阪財務局の職員さん…。

知っている目で見ると、現実の事件をテンポよく、勇気をもって扱っているなと思う。
一方で、現在進行形で現実に起きている事件をスクリーンで見せられることへの違和感がある。東京新聞の望月記者や、元文科事務次官の前川喜平ら、当事者とも言える人々が「劇中番組」で登場することも。
フィクションを見に来たのに、現実そのものを見せられると、微妙に興が削がれるのだ。

現政権に対してモーレツに批判的な私ですらこうだから、現政権を(消極的にでも)支持している人は、なおさらだろうと思う。

つまり、事件を知っている人間が見ると、
結局、党派性に回収される作品になってしまってるように思う。
あらかじめ知っている人が見て確認して憤ってもね…。というか。
 
SNSを見ていても、事件を知っている人が見に行って、
「これが日本の現実だ!」
「ここに日本の暗部が描かれている」
と喧伝されている。

そのとおりなんだけど、大半の普通の人は
「ニュースなんか見てもつまんない、わかんない」
「政治なんてキモチワルイ、かかわりたくない…」
と思っているわけで、
そんな人たちが
「これが日本の現実だ!」と言われて
「知りたい!」「考えたい!」
と、思って見に行くだろうか???と思うのだ。
 
その点、松坂桃李のキャスティングは最高!!!!!
(はい、しばらく役者語りさせてもらいますよ~w)

現代日本、主演級のアラサー役者の中で、死んだ目をさせたら3本の指に入るのが彼なんじゃないでしょうか(褒めてます)。

倫理感と保身との間で葛藤する姿が、
ナイーブで線の細いお坊ちゃんふうにならないところがいい。
ちゃんと、花も実もあるエリート官僚に見えるのだ。

松坂桃李は、『日本の一番長い日』の畑中少佐役でも、血気にはやる大本営の若手将校を好演していた。
インテリジェンスある雰囲気をまとい、セリフを聞かせることができる役者だ。

(一方で、クドカン『ゆとりですが何か』で見せた三十路童貞の小学校教員役も最高でした)
(朝ドラと大河ではあまりに役に恵まれていないので再出演を強く希望します)
(あ、『いだてん』に出てるじゃないか!)

はっ、いかん、話が逸れる…。

ようは、
「おーい。
 みんな、とーりくんめあてに、
 『新聞記者』見てや~~~~!」
(せやろがいおじさんふうに)
ってことです。

ほか、
日本の巨悪を煮詰めて煎じたみたいな内調のボス田中哲司、
キレ者で胆力もある新聞編集長の北村有起哉(大好きです♡)
吉岡をそれとなく支援する同僚記者の岡山天音、
世の中の悪を何も知らない善良な妻、本田翼
『新聞記者』吉岡エリカは、日韓の両親を持つという設定で、シム・ウンギョンが演じています。

プロデューサーは、よくぞ彼らをキャスティングした!
彼らも、よくぞオファーを引き受けてくれた!

テレビドラマでもよく見る面々が
とーりくんのファンや、ふだんニュースなど見ない若い人を惹きつけてくれるだろうと思う。
現実の事件を知らなかった人の感想こそ、聞きたい映画です。
 
実際、私がこの映画でもっとも引きこまれたのは、
後半、松坂桃李が悩み苦しむ姿だった。

上に言われるがままに捏造した情報を流して個人を破滅させ、
慕っていた先輩官僚は自殺し、
別の先輩は平然と黒い仕事に身を投じて出世している。
自分の中にある正義を貫けば家族の人生も巻き添えにしかねない。

生まれたばかりの無垢な我が子を抱いたとたんに
ニッチもサッチもいかない現実や自分への情けなさが押し寄せ
とめどなく嗚咽するシーンでは、こちらも涙がこぼれた。

ちなみに、ここで「夫がこんな目に遭いませんように」と思ってしまった自分に驚いたw 思わぬ形で夫への情を確認してしまったw 夫、官僚でもエリートでもないのにw
まさか松坂桃李に夫を重ねてしまうなんて…とーりくんファンの方、ごめんなさいw
 
閑話休題、
フィクションは、こんなふうに
「世の中の構造」と「個人の物語」を普遍化し、同時に具象化して描けるのが強みなのだ。

権力の異常な集中、暴走が、世の中をどんなに歪めてしまうのか?
そうなると、個人の人生などどんなに簡単に吹き飛ぶか?
それを感じさせる映画になっていたと思う。
 
ただね~~~
それだけで終わっちゃったんだよな。というのがもやもやポイント。

これが現実だね。
日本、やばいね。
…で終始してまうのではなく、フィクションが持ちうる「ミラクル」が何か見たかった。

ハッピーエンドにしろと言うわけではない。
こういう題材の映画だからバッドエンドで然るべきだけど、
たとえば是枝の『万引き家族』や『誰も知らない』だって、救いようのない現実を描いているけれど
だからこそ、人間が持ちうる奇跡のカケラみたいなものが強く印象に残るんじゃないかな。
そして奇跡のカケラがあるからこそ、救いようのない現実に打ちのめされる。
希望と絶望とが互いを照射し合ってるというか…。

ま、カンヌの受賞作と比べてもね。
監督は30代の若い方だし、この映画がシネコンで1日4回も5回も上映されているのは本当にすばらしいことだと思う。
こういう創作がつぶされない日本であってほしいです。

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