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ジャン・リュック・ナンシー「思考の取引」岩波書店


表題に惹かれて手に取った一冊
これほど読書というもの、そして書店というものを哲学的にとらえて謳いあげている本は珍しいかもしれない。こういう位置付けで本が読めたら、どんなに幸せだろう。いつか本と関係のあるビジネスもしてみたい俺としては、原点を考えさせられる内容だった。本文からいくつか引用しておこう。

「書物とはなべてメビウスの帯なのだ。それ自体において有限にして無限で、いたるところ無限に有限で、ページごとにあらたな余白を開き、その余白がまたそれぞれに広がりを増し、新たな意味や秘密を擁していく、そんなメビウスの帯なのだ。」

「書物とは、完全無欠で手を加える余地のない所与の実在物をみずから任じ、それをその都度周りに認めさせながら、読解にいつもまでもどこまでも、書物をより広く、より深く開いては、千の意味、千の秘密を持たせ、ついには千の仕方で書き直してやまぬ読解に、惜しげなく自ら開いてゆくものであり、書物の神聖というものは、一体にここに成り立っているのである」

「書物という書物はことごとく未刊なのだ」

「書店主の顧客たちは、彼から購入した書物の読者であると同時に、彼の読者の読者なのだ」

「書店とは、香水屋であり、焼肉屋であり、パン屋であり、つまりは香りと味の調剤室なのだ」

「一冊の書物は流星だ。散り散りになって、幾千の隕石と化す流星だ」

「書物は常に、燃え盛る隕石に、彗星になりたいと夢見ている。赤く燃え上がるそのコマがイデアを焼き尽くし、それを栄光の塵へ、無限の体験へと化すであろう」

「思考の取引が、情に絆されやすいが抜け目のないこの取引が、絶えることはない。我々が書物と根づけるものの純粋な、そしていつまでも未刊であり続ける形式が、そこに尽くされ、あるいは焼き尽くされるところの、この思考の取引が・・」


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