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『さがす』の中にある真実は、現代社会へのアンチテーゼか?

皆さんが好きな映画は、どんな映画ですか?

観たあとにスッキリさせてくれる映画でしょうか?
深い喜びや楽しい時間を得られる作品でしょうか?
はたまた映画から提起された様々な問題を悶々と考えさせられるような重い社会派な作品でしょうか?

今回の映画『さがす』は、あなたの期待を裏切り、そして見たかったものを見させてくれないかもしれません。

この物語は極上のサスペンスでありながら、真実を追い求める親子の愛の物語でもあります。

ただしその愛は、眼を背けたくなるほど残酷で、腹立たしいほど身勝手で、どうしようもない不条理の中から現れる、歪な形の愛です。

眼を背けたくなるような真実を突き付ける映画、それが『さがす』です。

残酷な真実を突き付け、愛を試す映画

今作は三人の人物の視点によって紡がれます。
懸賞金目当てに指名手配犯の跡を追って消息を絶った父、その父を追う娘、そしてなぜか父の名を名乗る指名手配の連続殺人犯。

この三者の運命が次第に折り重なり、互いに探していたもの、見失っていたもの、そして見たくなかった真実が顔を出す。

その真実に直面したとき、娘は、父は、どのような愛をもって互いに向き合うのか?

そしてその決断を僕らはどう受け止めるのだろうか?

この物語には、快楽の為に人を殺める者、金の為にそれに手を貸す者、そして全ての真実を知ってしまう者が登場し、彼らの行いと感情を僕らはただ傍観することになります(全ての映画がそうなんですが)。

彼らは性衝動でも、金でも、愛という測れない事象や失った幸福な時間でも、もがき苦しみながら心の中にある空洞をどうにか埋めようと必死です。

こんな彼らを傍観することになる観客である僕らも、彼らと一緒にいつの間にか自分の中にある、或いはかつてあったであろう大切な"何か"は、なんだっただろうか?と思わずそんなことを悶々と考えあぐねいてしまう。

そして真実を知ったとき、その真実に付随するおぞましくも許しがたい事実を、僕らは許せるのだろうか?

『さがす』は不条理から眼を逸らさず、"見つめる"ことを促す

見たくもない、眼を背けたい真実に目を向けさせるこの映画は、どんな情報でも手に入り、その取捨選択がどのようにでも可能な現代社会に対してのアンチテーゼのようです。

今を生きる僕らは、世間に溢れては瞬く間に賞味期限を失ってしまうかのような情報(それすらも実は幻想のようにも感じますが)の泡の中を、見たいように見、聞きたいように聞き、自分の都合の良いように解釈することができる。

それは個人が認識する世界を広めるどころか、あったはずの広大な世界を自身の中で都合よくリサイズして、おさまりの良いように内包することで、ひたすらに視野を狭めているのではないか?(実はこれ、社会学者キャス・サンスティーンが90年代にネットが一般普及する前に言ってたんですがね)

そんな現代の情報社会の中で映画という機能を使い、見たくないもの、眼を覆いたくなるような真実を描き切ったことが本当に素晴らしく、また同時に幸せの為に何かを"さがす"のではなく、すぐ近くにある大切なことを"見つめる"という大切さを教えてくれる。

卑劣な上に残酷で、それと同じぐらい熱く、カッコ悪いほど人間的な、最後は優しい作品でした。

印象的なのは多目的トイレの一幕。
互いに失ったものと、手にしたかった幸せに想いを馳せて泣き笑う2人、感情が放出される度に、人の生々しさが美しくスクリーンを傷付ける。

彼らが探していたものは、生の実感、明日への希望、過去への償い、そして束の間の家族らしい時間だった。

この物語の登場人物達のように人生の中で本気になって道を、希望を、幸せを、そして自分自身を"さがす"ことができる時間は、どれだけ残されているだろうか?

いや、今からでもできるはずである。
それは案外すぐ近くにあって気づきさえすれば、心は次第に動き出す。

もちろん、この映画のように人の道は外したくないですが……。

Youtubeでも『さがす』を語りました

今作『さがす』のレビューをYoutubeの生配信でも行いました。

この生配信では『さがす』『最強殺し屋伝説 国岡』『真夜中乙女戦争』の三作を、貧困、革命、サバイバルという3つのテーマで語りました。

『さがす』は、ある意味で障がい者介護とその貧困の中でもがく親子の葛藤と幸福を"さがす"旅を描き、『最強殺し屋伝説 国岡』は殺し屋という非現実的な世界から、僕らの住まう日常をお仕事サバイバルとして映し出し、その二作を踏まえて、『真夜中乙女戦争』が描いた地に足の着いていない夢想的で空虚な革命は、いかに的外れなのか?という内容です。

『真夜中乙女戦争』が大好きだった人達にはオススメしませんが、こちらもご覧いただけると、幸いでワイワイです!


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