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あたまの中の栞 - 睦月 -

 約1年ぶりに、先月で読んだ本の振り返りを行うシリーズ復活したいと思います。振り返ると、1月は何をしていたか思いのほか目まぐるしく過ぎていきました。年明けすぐには、病で臥せりこんな年の始まり方があるのだなと天井を見上げていた記憶しかありません。

 病でひ弱になると、なぜか楽をしたくなるのか、1日中将棋アプリを飽きもせずやっており、これは……やばいと思い始めたのが、月の中盤あたり。とは言いつつも、昇級を前にしてどうしても上に行けないのが悔しくてただただひたすらパチパチやっていたらあっという間に月末に差し掛かっておりました。

 最終的に本当に月が終わるタイミングで、将棋の級は1つ上り、それによっていったん熱も空気が抜けたようにプシュッと抜けました。面白いものですね。その間、本も時間がある時にせっせせっせと読んでおりました。

 それでは早速、振り返っていきたいと思います。

1. 夜空に泳ぐチョコレートグラミー:町田その子

 短編なんですけど、それぞれの登場人物たちの世界というのは少しずつ繋がっていて、各エピソードでどんでん返しがちょっと差し込まれています。短い物語って、長編を書く時とはまた異なる技量が必要だと思うんですよね。短距離走と長距離走と同じように、使う筋肉が違うような。

 私はきっと平凡な日常を生きているつもりなのですが、思いの外生きづらい世界に身を置いているんだなと思うことがあって、時々ハッとします。なんでこんなことが当たり前になっているんだろうなって。どうすればこれから息をすることが楽になるんだ、って考えるのですが、きっとその答えを教えてくれるものの一つが本なんじゃないかなって思ったりします。

 町田その子さんの本は、ある程度歳を重ねてから出ないとわからない、大人の苦さのようなものが散りばめられていました。

何も残らない、澱んでいないここで息を吐いて、大事なものの幻を見てちょっと幸せになる。それが一番生きやすいんじゃねえかなって。
p.250 『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田その子(新潮単行本)

2. 君といた日の続き:辻堂ゆめ

 確か前に「僕らの時代」というテレビ番組の中でお見かけして、気になったので今回本を手に取ってみました。内容的にはタイムスリップもので、小刻みに読者をミスリードするような要素がちらちらとあります。小さい時ほど、記憶ってあやふやになるもんだよなと思いながら読み進めていました。

 最後終盤は、まあなるほどこうなるよなぁという感じでしたが、タイムスリップものって割とみんなが挑戦しているテーマなので、改めてきちんと小説として書こうとするとかなり苦労してしまうのだろうな(最近は小説読むにしても、書く視点から読んでしまうのでこれはいかんいかん)。

3. 古都:川端康成

 ふらっと図書館に立ち寄った折に、そういえば最近日本の古典文学をまったく読んでいないなと思い、手に取った本です。内容をざっくり話すと、ある時主人公がふとした拍子に昔生き別れた双子の妹に会うという展開。

 二人が生きる環境はまったく異なります。その対面性の中に生じる互いの葛藤のようなものが、しとしとと内の側に染み込んでくる感じでした。ただ個人的には、登場人物たちの心情よりかは舞台となっている京都の街を言葉として感じる部分の方が大きかったです。

 こういう書き方もあるのか。まるで紀行文の中に、さらっと主人公をはじめとする登場人物たちが迷い込んだかのような、そんな文章の進み方。京都に行った時に読んでいたら、より臨場感を味わうことができただろうな。

生れるということは、神からこの世に捨てられたようなもんかな。
p.24 『古都』川端康成(新潮文庫)

4. 鹿の王:上橋菜穂子

 2015年本屋大賞受賞作品。前々からずっと読もう読もうと思って、本棚に仕舞われていました。よし、今年は絶対読もう!と思って意を決して手に取りました。結果、これまで私が読んだどの作品とも合致しない新鮮なファンタジー(これを一定のジャンルに当てはめて良いものかわからないが)作品でした。

 もう今や作品のジャンルって、一つに絞り込むことができないくらい多岐にわたっています。人の営み、政治的なしがらみ、将来を憂える人たちの考え方一つでこうも歪んだり、結びついたりする。答えは決して一つではないし、それぞれが異なる背景を持っているのです。

 登場人物たちのバランスが巧みでしたね。幼な子と、彼女の存在を必死に守ろうとする主人公。それぞれの出来事が起こる背景にはきちんと科学的根拠が存在している。本作品が、コロナ前に書かれたというのもまた驚きです。筆者はまるで今の状況を予言するかのような物語の運び。最後まで気高く、美しい言葉が連なっていました。 

 いつの間にか、続編も出ているそうなので、今から読むのが楽しみです。

害になるか、ならないか。──それは、何を害と考えるかで変わってくることですよね。生死に関わらないなら害ではないと見るか、身体に変化をもたらしたら害だと思うか。
p.274 『鹿の王』下 上橋菜穂子(角川単行本)

*

 2月に関しては、平日は「わぉ!」と叫んでいる間にひとっ飛びで過ぎ去ってしまいそうなくらい慌ただしくなりそうなのですが、反面休日はまったりゆらりとできそうなくらい時間がるので、これを機にこれまで積読の状態にしておいた本をゆっくり読んでみようと思います。

 将棋アプリからようやく解放されたからか、最近は穏やかな日々が続いています。何かから解き放たれるって大事ですよね。しがらみは、息をするたびに少しずつ目に見えない形で澱みのように積もり積もっていくけれど、今はそうしたものをちょっとずつ手放していこうという気持ちになっています。

■ 今回ご紹介した作品一覧


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