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#91 日曜の夜、愛に怯える

日曜の夜に死にたくならない人は幸せな人だ。

『日曜の夜ぐらいは…』より

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 日曜の夜が怖い、と思うようになったのはいつからだろう。

 わたしが今働いている会社は、カレンダー通りの休みなので、よっぽどのことがない限りは土日祝日休みだ。すると、どうしても月曜日が祝日でないと日曜の次の日は自然と仕事である。たぶん、それだけが理由ではない。気がつくと日曜の夜は憂鬱な気分に襲われるようになっていた。

 決して今の仕事が嫌なわけではない。むしろ、昔営業として働いていた頃に比べると、随分と気が楽になったしやりがいも感じられるようになったのに。なぜなのだろう。以前であれば、とにかく体を動かしていないと気が済まなかったので、土曜日だろうと日曜だろうと予定を詰め込むことが多かった。

 でも最近はそれだと、だいぶ体にガタが来ると思うようになり始めてから、少なくとも夜はゆっくり過ごすようになった。noteの記事を書いたり、植物の面倒をせっせせっせと見たり、映画を観たり、本を読んだり。自分の好きなことに時間を費やすほど至福の時間はないのではと思う。

 でもどうしても心の襞の部分に、虚ろで、真っ黒な感情が潜んでいることを自覚してしまう。それはわたし自身の心の闇を見つめる作業だった。月曜日から土曜日まで、時にはテレワークの時もあるけれど最近は親しい人とご飯へ行くことも増えて、話をすることで楽しいと思うことも増えたけれど、それでも時折日曜日がくることで絶望する。わたしは自分自身の行動を振り返り、悔い、袋小路に迷い込んでいる。

 ふとテレビを点けると、母校が甲子園に出ていた。思わずわたしは手に汗握る。LINEの通知にピコンピコンと音が鳴り手に取ってみると、かつての高校の部活グループだった。暑い中、甲子園球児たちが必死に球を追っている。勝っても負けても、おそらく彼らの心の中には「青春」というふた文字がくっついて回る。それだけでも羨ましかった。

 転がる白い球、生徒たちの応援、バットの小気味よい音。筋書きもプロットも全くない中で、彼らは自分たちの人生におけるドラマをひたすら、追い求め続けている。

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 愛がなんなのか、再びわからなくなってしまっている、のだと思う。

 先日の金曜ロードショーでやっていたもののけ姫で、弱ったアシタカに対してサンが口で柔らかくした干し肉を食べさせるシーンを見て、どうしようもなく心がザワザワした。これが、もしかすると愛なのだろうか。何かを超越したような形が、そこにはあるのかもしれない。

 常に恋愛も、バランスが両者で釣り合うことはないだろう。片一方の感情が大きくなればなるほど、その帳尻を合わせるかのようにもう片方の感情は小さく、縮んでいく。もう相手の思っていることがわからない。「男の人って……」、「女の人って……」。みんな移ろう言葉を口にするけれど、それは単純に性で二分化できるものでもないですよね。

 つい先日までやっていた『日曜の夜ぐらいは…』は、毎週そうした虚ろさを補完しうるものだった。この作品で表現されていたのは、男女の壁を超えた友情で、孤独と絶望に吸い込まれそうになる心を繋ぎ合わせる役目を果たしていて、そこには少し大仰な希望という名の灯火がチラチラと揺れていた。ただただ、安心して見ていられたドラマで、日曜の夜にほんの少し安堵した。

 わたしは自他共に認める、愛をたくさんの人から与えられてきた側の人間であるはずなのに、肝心の愛の尽くし方についてわからないままだった。そういえば、昔GiverとTakerについて書かれた本を読んだことがある。そうだよね、愛は与えられるだけでは良くなくて、自分から愛を与えられるようにならないとダメだよね。ちくりチクチクと胸に突き刺さる。

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幸せであること、幸せであり続けることって、なんでしんどいんだろう。

『銀の月』角田光代 p.170

 夜、不安で眠れないことがあって、そんな時はみんなどうしているのだろう。大切な人に寄り添ってもらうのだろうか。どうしても堪らない日には、外に出て月を眺めるのだが、それも見えない。地に足を這わせるようにして、ゆっくりとベランダから身を乗り出す。風が心地よかった。幸せでありたいと願うのに、いざ幸せを掴みかけた途端、はらはらと手の指の隙間からこぼれ落ちていく。

 日曜の夜は、自分を肯定してあげることができない。今育てているトマトは、そばに一本支柱を立ててそれに紐で結びつけてあげることによって、上にするすると伸びる。人にも、支柱が必要なのかもしれない。その人が日曜の夜でも、さあ明日から頑張ろう! と感じられるような一本の柱が。

 とりあえず今は、未来のことを考える。明日と明明後日、気の置けない人たちとご飯を食べに行く。そうだ来週からは金沢だった。そしてその次の週からは、長年夢見た海外出張が叶う。帰ってきたらその足で、プライベートでまた違う国へ行く。異国に身を寄せる自分を考え、そしてわたしに愛を与えてくれる人たちのことを思い浮かべ、今日も寝苦しいであろう銀の夜を、優しく包んで眠ろうと心の中で強く決心する。


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