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「カフェ・ソサエティ」ウディ・アレン監督

2016年のアメリカ映画。
ロマンティック・コメディであり、いつものウディ・アレン映画である。ただいつもと違うのは撮影監督があのヴィットリオ・ストラーロ(『地獄の黙示録』『暗殺の森』他)であること。このコンビが組むとどんなことになっちゃうの?とワクワクしていたが、映し出されていたのはウディ・アレンワールド、そしてストラーロ氏の映像美。…そのまんまやん。

※物語のあらすじを知りたい人はこちらをご参照ください。

『アニー・ホール』や『マッチポイント』(個人的には『妻たち夫たち』が群を抜いていると思う)など傑作と比較しなければ面白い。じゃあ比較するとどうか…60点くらいかな。(比較することに意味はない気もするが)

時代設定が1930年代で舞台はニューヨークとハリウッド。多くの他のウディ・アレン監督作品と同じく道ならぬ恋話があるが美術と映像が群を抜いている。…だからなんなんだ。というのが第一印象。

ウディ・アレンに恋の甘酸っぱさとか求めてねーし…でも美しいな。でもどうでも良いな…とシーソーのように気持ちが揺れたまま、ラストカットが素晴らしいので「ああよかった」と迂闊にも思ってしまった。

しかし60点の内実は、かなり濃い。
物語や映画としての面白さが40点の減点として(ちょっと厳しいか)、残りはウディ・アレンの凄さに捧げたい。物語と映画としての質を凌駕した凄さがこの映画にある。

ウディ・アレン監督作品をみると、どのカットにもウディの息遣いを感じる。監督を食ってしまうことで有名な(?)ストラーロ撮影監督をもってしても、ウディの息遣いの方が大きく聞こえていて良くも悪くも絶句した。

少し詳しく説明すると、個人的な経験や他者の話を聞くところによると、現場スタッフが監督のいうことを聞かないことが死ぬほどよくある。

今回のパートナー、ストラーロはかつてのベルトリッチを鬱に追い込むほどこだわりの強い人なはずなのだが、ウディは彼の撮ったものをガンガン短縮し、ロマンチックな照明演出を生かした役者の演出ない。さすがに驚いた。

つまり、それはどういうことかと言うと…

「サザエさん」の原画を荒木飛呂彦氏が担当するが、音楽も声もカット割りもすべていつもの「サザエさん」。せっかく荒木氏を起用しているのに
「ジョジョ立ちでもなんでもいい!荒木氏らしいサービスカットを一つくらい入れてもいいじゃん!」
と両方のファンとしては思ってしまうような。

「これ、ストラーロ氏が撮る必要があったの?」と困惑した。

当のストラーロ氏は実際現場で何を思っていたのか…

記事などを調べてみるとマジで何も語ってない!
出来上がったものに怒ってる様子もなく「ああ、ストラーロはジジイになったんだ」と切なくなった…と同時にウディ・アレンは監督として、本当にリスペクトされているんだな、と。

映画のルールより、あくまでも「俺」中心。その姿勢のくっきりさ具合に青ざめた。逆に監督たるもの、現場がどう言っても自分の想いを大事にすべし。と痛感もした。でないと、作品が監督から離れてしまう…それが良いのか悪いのかはわからん。各々の観客が判断すれば良い。

そして、もう一つの見所はやはり「会話」。
ウディ・アレン監督作品は会話がいつも素晴らしいが、今回は本当に素晴らしかった!涙が出そうになった。拍手して立ち上がりたくなった。

特に彼女とのシーン。
ジェシー・アイゼンバーグとブレイク・ライヴリーとの会話のテンポ、リアリティ、鳥肌が立った。これ、役者同士の相性もよかったのか。

このシーンだけでも観てよかった。最高の時間だった。

あ、あとお馴染みのウディ・アレンの御託も健在。

"Religion is the opium of the mind."
"Live your life as if it's your last. And someday you'll be right."

のセリフでは映画館で笑いが起きたくらい。私一人から。

さらに男子にモデルの女の子を紹介する際「体のサイズは完璧よ」という、そのセリフがなんとも80歳のウディ・アレンが考えそうでクスリとした。

この上記3項目で60点中59点。それだけ価値のある3項目。

ラブストーリーが好きな方は、この60点から加点する方向にしかいかないのでオススメ。下手したら85点くらいスコアするかもしれない。
どうでしょう。今週末にでも。

…この作品から個人的に学んだこと。
撮影が素晴らしいから何倍も面白くなるとは限らない、ということ。監督は何を持って作品が面白くなるかを考えなくてはならない。

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