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アジアのUX:その4〜人があつまる空間

アジア旅行レポートの4回目は、人があつまる建築や空間についてです。

今回はたまたま建築に関わっている人と会う機会が多かったこともあり、4都市それぞれの空間とビジネスのつながりに目を向けるようになりました。

ざっくり4都市の感想をまとめると、上海は資本を生み出す装置としての建築、バンコクは共空間に対する関心の高まり、シンガポールは都市の環境との共生、ダナンは設備よりも居心地がより重要となる空間、といったことのヒントをそれぞれ見ることができました。

全体を通して考えたことは、人があつまる空間には何がキーとなり、そこでデザインとビジネスの接点がどのように作用しているか、ということです。では、3つほど事例をベースにその内容を紹介します。

中国のショッピングモール事情

上海では、8年前に上海に乗り込んで建築家として活躍している日本人の友達に会って、忙しいにも関わらず半日近く、上海の中心部を案内してもらいました。本当にありがとう!夜にはこんな素敵なところに(男2人で)連れてってもらいました。

その中で印象的だったのがショッピングモールです。上海では次から次へと新しい建物ができてきますが、商業施設の多くはショッピングモールの形体を持ち、ほとんどが中心に5〜6階くらい分の大きな吹き抜けがあり、その周辺を資本力のある店舗が並ぶといった構成になっています。

パッと見ではどれも同じように思えるけど、よく見ると人気のところとそうでないところの違いがあります。上手いところは開放的でにぎわっている雰囲気があり、空間の構成も適度に有機的で洗練さと楽しさが含まれています。いまいちなところはカッチリしすぎて楽しくなさそうな感じで、日本資本の商業施設に感じたことです。

これは上手い建物の一例。日本のワンダーウォールが手がけたとのこと。

で、ここまでは空間構成の話ですが、上海の建築を語るうえで大切になるのが、『建物をビジネスの起点やメディアに見立てる』という視点です。

聞いたことを自分なりに解釈しただけなので間違った認識かもしれませんが、感覚としてはそんな印象を受けました。ネットサービスに例えるなら、ショッピングモールの中に入る店舗1つ1つがコンテンツで、それを統括するのがプラットフォームとしての建築。プラットフォームは親しみやすく利便性があり、コンテンツが持つパワーによってより人や新しいサービスが集まり、全体のビジネスが活性化していく。そんな感じです。

例えばコンテンツの1つとして、これはVRのゲームセンター?ネットカフェに併設しています。

中国の写真は、見た目がなぜかシュールになりがち...。

日本では建築家を芸術的な側面から捉える傾向が強いですが、ビジネス的としての成功につなげるためには、人が集まる仕組みを建築の視点から考える必要があります。上海のショッピングモールにはその仕組みが見え隠れしていて、それを理解することが、クリエイティブ側の人たちにも求められている、ということを感じさせられました。

環境と社会性を持つ高級ホテル

シンガポールは自然を大切にしている印象があります。前に紹介した空港の商業施設JEWELもそんな感じでしたが、有名ところではガーデンズ・バイ・ザ・シーや植物園などの施設があります。街中を歩いていても高層建築と緑がいいバランスで共存しています。

それを象徴する建物がホテルにあります。緑と一体化したような建物になっています。もっさもさ。

泊まってはいませんが、可能なエリアまで入ってみました。ビルの真ん中(6階くらい)にプールがあったりします。

もう1つのホテルです。ラピュタの世界かほとんど廃墟。

でも中は気持ちいいです。

高級ホテルというと、完全に閉じた空間の中でラグジュアリーな施設が整っていて街と切り離されたような印象が強いですが、このどちらも開放的な印象です。シンガポールの気候が年を通して温かいこともあるので、半屋外の空間が多くあり、そこに緑が程よい割合で植生されています。

こういったコンセプトに共感してこのホテルを選ぶ人は多いのではないかと思います。特に先進国や所得の高い層は環境への関心が高く、ただ質の高さや高級感といったことだけでは、ハイブランドのビジネスは今後通用しなくなってくる、そんなことを感じさせるホテルです。

ホテルとは違いますがバンコクにあるthe COMMONSという商業施設は、ライフスタイルをテーマにした店舗がいろいろと入っています。ここを訪れて感じたことは、エアコンを最小限に抑えてなるべく屋外の風通しをよくする配慮がされている、ということでした。こういったこともきっと共感を得るための空間設計になっているかと思います。

コワーキングスペース

バンコクにコワーキングスペースが多くあるという情報を雑誌やネットで知ったので、なかでも一番大きい、AIS DESIGN CENTREに行ってきました。電車の駅から直結の商業施設の6階にあるので、アクセスがよい場所です。

アプリを事前にダウンロードして登録しておくと、カウンターでその情報をもとに受付してくれるので楽です。1日利用が日本円で450円くらいなのでかなりおトクですが、中はご覧の通り、すごく気持ちいい空間です。

噂が広まっているためか、外国人や日本人の割合も結構多くいて、勉強目的のついでにゲームをしている子どももいました。これだけ広いのに席はほぼ一杯で、ほとんどが個人作業のために使っていて、会話は少なかったと思います。

僕は東京で、いくつかコワーキングスペースを利用したことがありますが、こういった天井の高い大空間の場所は見たことがありません。デジタルノマドとしてタイで滞在しているプログラマーなどが多いらしく、国内需要だけに閉じないコワーキングスペースで、会員登録も簡単という位置付けに新しさを感じました。(この施設がはじめからそれを狙っていたかはわかりませんが)

ちなみに、今回の旅行の滞在先はすべてホステルを利用しましたが、僕の狙いは下の写真のような共有スペースを使うこと。日中も出かけないでエントランス(カフェやバーの役割も兼ねている)や共有スペースでの作業もなかなかはかどります。前に京都に行った時にもこのようなタイプのホステルを多く見かけて、このスタイルは今後より増えてくると確信しています。

まとめ

人があつまる空間についての考察をまとめます。

あくまで所感ですが、欧米の建築はシェアの概念が浸透しつつもクラス感を意識させるものが多い印象に対して、アジアの建築は目指す考え方やビジネスを理解してくれる層に対しては広く開かれているように感じました。

それは空間をハードウェアとして単に便利な場と捉えるのではなく、コミュニティや新しいビジネスの機会を生み出すソフトウェアとしての機能を重視しているように思えます。

リテールテイメントのまとめでも紹介しましたが、デジタルが進化するほど、フィジカルな空間の場にはユーザーとの強い結びつきが求められるようになります。そうしたときに、どうすればユーザーが集まってくれて、ユーザーが自発的な行動を起こすようになるか、そういったことを空間で実現するためのデザインに、もっと目を向ける必要がありそうです。

さて、最後はこれまで紹介したリテールテイメント・モビリティと情報・人が集まる空間、の3つを包括する『共感』を、テーマに取り上げたいと思います。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。