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『首』の演技は コントか?リアルか?

公開からちょっと時間がたってしまいましたが『首』、最高でした!
 
いつも思うんですが、北野映画に出てる時の俳優さんって皆いつもの3割り増しくらい魅力がアップして映ってますよね。嬉々として役を演じることを楽しんでいるというか、それを北野武が自由自在に引き出しているというか・・・監督 北野武の完全復活!
も~最初から最後までわくわくニヤニヤしながら見てしまいました。
(今回、ネタバレ満載ですw!)

たけし=織田信長?

面白かったのは、今まで『その男、凶暴につき』『ソナチネ』などの初期作品からずーっと一貫してビートたけしが演じてきた「死に向かって寡黙に暴走する男」を、今回は加瀬亮が演じているんですよね。信長です。

今までは『その男、凶暴につき』の我妻にしても『ソナチネ』の村川にしても『HANA-BI』の西にしても『アウトレイジ』の大友にしても、その主人公の内面にカメラが入り込んで、熱くしっとりとその「寡黙な暴走」を描いてきたのですが、今回は信長の内面には一切入り込まない。
カメラはつねに信長の外面だけ・行動だけを映していて、彼のまわりの武将たちと一緒に観客は「うわー困ったなあ」という気持ちにさせられる(笑)
 
では今回そのビートたけし自身は誰を演じているのかというと、その信長と周囲の武将たちを見て「わかんねえなあ。オレにはそんなもん全然大切に思えないんだけどなあ」とあきれている百姓出身の秀吉を演じている。
 
たけしがたけしを見てるんです。

たけし=羽柴秀吉?

予告編のビートたけしの秀吉の芝居を見て、正直「あれ?演技下手になった?」と思ったんですよ。コントの芝居じゃんとw。
で不安な気持ちで映画館に行ったんですが、本編を見て理解しました。

あ~ビートたけしが芝居が下手なんじゃなくて、秀吉が芝居が下手なんだ!と(笑)。

秀吉は侍みたいに、武将みたいにふるまいたいんですよ。計略とかやりたいんです。でも根が百姓なので、他の武将たちみたいに上手にウソがつけないんですよ。熱く忠義やサムライ魂について語ったりすることもできない。
心に思ってないことを話すと、ついどうしても棒読みになってしまって、コントみたいになっちゃうんですよ。「あなたこそ、跡取りなのに。なあ」w

だからウソをつかなきゃいけない場面では黒田官兵衛や弟の秀長が代わりに喋りまくって、秀吉はその横でモジモジしたりウンウン頷いたりしてるんです・・・いや~こんな秀吉見たことないw。
秀吉って割と弁が立つ人として描かれることが多いじゃないですか。でも『首』の秀吉は全然喋れないんですよw。でそれにイライラして弟や部下にあたりまくるという。

で、さらに信長が部下をいびるとカリスマ性が増すんですが、秀吉が部下をいびるとコントにしかならんのですよ。言葉に重みが無いから(笑)
いや~、これ一見コントにしか見えないけど、ひじょうにリアルな人間描写だと思います。笑った~。

侍になれない男、羽柴秀吉。

そう、この映画の秀吉には信長のような「侍としての人望」が無いんです。言葉の力や人間的な魅力でひとを引っぱることが出来ない。だからいつも金をバッシャーッとばらまく。「オレが天下を取ったらこんなもんじゃないぞ!」って。 お金とか、目先の利益のことしかわからないから、目先の利益でひとを引きつけるしかないんです。
 
また侍にとっての「切腹」の重要性がイマイチ飲み込めない秀吉は、「早く死ねよ!」と怒鳴るし(弟の秀長も「まだやってんの?」兄弟そろってわかってないw)。
でこの映画は、「首が無ければ死んだ事にならない」という侍たちの考え方がさっぱりわからない秀吉のイライラが頂点に達してキレて終わる。

「首なんかどうでもいいんだよ!」・・・爆笑。

ビートたけしはツービート時代から「おれはペンキ屋のせがれだからさ」とか言って世の中や時代の価値観に染まることを拒否してきた人だけど、それは映画監督としてもそうだったと思う。 邦画のお約束をことごとく無視して「そんなのどうでもいいんだよ!」と蹴散らして頂点に上り詰めた。
そんな彼だからの実感がこもった芝居で、だからあれはコントでおどけてるんじゃなくて、ものすごく正直な気持ちをまっすぐに語ってる最高のラストだと思うのです。

地方のヤンキー、織田信長。

てな感じで、たしかに百姓出身の羽柴秀吉って実際にはこうだったのかもな~と感じさせられたのですが、この映画『首』にはもうひとり、実際にはこうだったのかも!と強く感じさせられる人物がいます・・・織田信長です。
 
まるで地方のヤンキーみたいに描かれているじゃないですか!
喧嘩が強くて、ずる賢くて、暴力の一線をためらいなく軽々と踏み越えてしまう信長に、だれも反論できないし、むしろ魅了すらされてしまっている。

 
めっちゃボディータッチが多くて、その時の力の込め具合がシャレになってない・・・知ってるこういう人(笑)「地元では最強なんスけど」ってやつですよね。喋る時の相手との距離感が近くて、リアクションを強要する感じ(笑)。
 
あと今までどの作品を見ても、信長が西洋風のマントを羽織っていることがどうも違和感を感じてしかたが無かったんですが、『首』の信長のマントはしっくり飲み込めました。あ~こいつはマントみたいなものを見つけたら羽織るわ(笑)
そして信長の配下の武将たちも、信長に召集されて集まってるシーンで、なにやら襟の立った西洋風のハデハデの裃を甲冑の上に着こんでいて、それが全員まったく似合ってなくてw。でもようするに信長に気に入られたい一心で、信長が好みそうな服を各々一生懸命考えて着てるんだろうなーと。
 
で全員が存在をアピールしながらも悪目立ちしないように気配を消しているw・・・これってヤクザとかの会合の感じなんだろうけど、ある意味上昇志向の高いサラリーマンたちがボスに怒られるときの会議の雰囲気にも似ていて・・・いや~リアルな芝居だなと思いました。
信長に名指しで怒られた武将が思わず発してしまう言い訳の感じとかもリアルだし、それを見ている周囲の武将たちの感じもリアルでしたよねー。
 
信長という人物を加瀬亮さん一人が演じてるんじゃないんですよ。「信長という存在」を全員がロシアの演劇みたいに群集劇として演じているのです。加瀬亮さん一人が暴走してるわけではないんです。いや素晴しい。

「しっとり」と描くか、描かないか!

『首』を見たあとに『ナポレオン』も観たんですが、あっちもメチャクチャ面白かったですね。そしてこの2作品はすごく似た視点で撮られた映画だなとも思いました。
 
「歴史上のヒーローとして描かれてきた人物の、人間としての実像を描く」という点も共通しているのですが、ボクがそれよりも気になった共通点は「しっとりとしたシーンが無い」ということです。
 
『首』は男同士のキスシーンがあまりにガサツで、しっとりとしたタメも無くいきなりブチューッとキスしてしまうから全然楽しめなかった!と語っていた方もいましたが・・・そうなんですw。しっとりとしたシーンの描き方を一切してないんですよ。
だって本能寺での「人生五十年~」だって無かったじゃないですか。信長や光秀が遠くの空を見つめながらしみじみ喋るようなウェットなシーンも無かった。

そういうのは『ナポレオン』にも無かったんですよね。とにかく衝動的でドタバタしてるんです。

キスシーン!

件のキスシーン。
信長が小刀に刺した饅頭を食えと村重に言う。「よろこんで!」と村重。信長が小刀に刺したままの饅頭を村重の口にねじ込んで、小刀をぐりッと回す。口からあふれる血液。信長が言う「どうだ?うまいか?」村重「う・・・うまいです」
そこで信長が感極まって「お前ってやつぁ!どんだけ可愛ええ男じゃ~!」でブッチュー!!!血液がどばー!w・・・2人の心の中では嵐が吹き荒れていて、芝居のディテールの量がすごいんですよ。
 
映画やドラマのキスシーンに関して、ボクは昔から納得いかない点があって、それはキスシーンの前後になると芝居のディテール量が激減することなんですよね。
それはシーンをしっとりさせようとして、ためて芝居するので、まず見つめ合って、唇がゆっくりと近づいていって・・・みたいにすべてがゆっくり進行しはじめるんですよねー・・・それってオカシイと思うんですよ。

だってキスするってかなり衝動的な行為じゃないですか!

でもお互いに相手の気持ちも確認しようとしたり、空気も気にしたりするのでその衝動を抑えながら、でその衝動は抑えれば抑えるほど増加してゆくわけですよね。
多くの映画・ドラマのしっとりとしたキスシーンの多くは衝動を失っているんですよ。リアリティもディテールの量も失っている・・・それでいうと『首』のキスシーンは100点だと思うんですよね(笑)。
しっとりしてないのが正解なんですよ、キスは。
 
といったように『首』も『ナポレオン』も、全編通じて人間の衝動をリアルに表現して演じていったら、シーンがしっとりする暇が無かったんだと思います。
しっとりしない・・・これって最近の映画・ドラマの傾向のひとつだと思うんですよね。

2020年代の歴史映画。

『首』って、生前の黒澤明監督がそのプロットを絶賛したらしいですが、さもありなんと思います。だって『首』は時代劇映画のお約束事をぶっこわして新しい映画を作ろうとしてますから。
そして黒澤明監督自身もかつて『七人の侍』『用心棒』『羅生門』などの作品で当時の時代劇映画のお約束事をぶっこわして、世界中の人間を熱狂させる新しい映画を作り出した人・・・同じことをしているんですよ。
 
てなわけで『首』はじつはかなり人物造形が緻密に演じられている映画だと思いました。いや~しかし正直、北野武監督があの年齢でここまで元気だとは・・・うわさの次回作も楽しみになりますね。。
『首』、合戦のシーンとかも凄いので、映画館で見るのが超おススメです。
 
小林でび <でびノート☆彡>


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