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「エッサール、ミタルへ売却」から

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三点に注目したい。
 1.モディノミクス
 2.インド市場攻略と長期戦
 3.ロジックの外側

関連代表記事 朝日新聞 2018年10月29日11時23分https://www.asahi.com/articles/ASLBV4DKPLBVULFA01P.html
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A 再編進む鉄鋼・製鉄業界において、注目されていた(印)エッサールの売却先が、(ル)アルセロール・ミタルに決まった。新日鉄住金はミタルと共同での買収を進めており、資金拠出額はほぼ対等とのこと。その目的は、中長期の需要が旺盛と考えられるインド市場への進出であり、積極投資により業績不振に直面したエッサールをお買い得品として判断したということ。買収額は4,200憶ルピー程度と言われており、決して、安い買い物ではない。

 

B 製鉄業界をグローバルにみると、中国の躍進が目立つ。粗鋼生産量のグローバルランク(2017年)トップ10*1は次のようになっている。

  1.アルセロール・ミタル(ルクセンブルク) 97Mt
  2.宝鋼(中国) 65Mt
  3.新日鉄住金(日本) 47Mt
  4.河北鋼鉄(中国) 46Mt   
  5.ボスコ(韓国) 42Mt
  6.江蘇炒鋼(中国) 38Mt
  7.鞍山(中国) 36Mt
  8.JFEスチール(日本) 30Mt
  9.首鋼(中国) 28Mt 
  10.タタスチール(インド) 25Mt

 なお、買収するエッサール(インド)は6Mtである。

 

A 粗鋼生産量を国別にみると、インドの国内粗鋼生産量は2017年に1億トンを超え、中国・日本に次ぐ3位になっている。18年には2位に浮上する見通し。これを支えているのは、旺盛なインフラ整備・住宅建設・自動車普及…等であり、これは中長期的な飛躍をすると期待されている。

 

B 業界トップ1位と3位がパートナ関係を結び、インド4位のミタルを買収し、再建し、魅力高いインド市場攻略に本格的に乗り出すという構図である。インドに限らず、今後鉄鋼需要が大きくなる地域を考えると、鉄鋼自国調達の流れも存在しており、この面からも、インド製鉄鋼を手中に納めるというのは理に適っているように思える。従来型の事業構造の転換ともいえるが、自国鉄鋼調達・加工という、なかばSPA的なモデルがASEAN・インドなどの地域で、今後繰り広げられる可能性は高いと考える。

 

A JFE配下にあるJSWスチール(インド)が絶好調であり、親であるJFEの時価総額をも支えている状況とみてとれるのも、インド市場の好調ぶりを示している。JSWスチールはロシア企業とタッグを組んで、エッサール買収に手を挙げていた。インド自体はその経済成長予測だけでなく、モディノミクスによる改革が走っており、この流れに乗れる産業はさらに期待度が高まることになる。例えば、make in indiaの主要25産業であれば、トップ1~3番に自動車、自動車部品、航空が、6,7番に建設・防衛が、17番に港湾が、18番に鉄道が、20番に道路鉄道が…ランクされている*2。このことから、これらの原料要素である鉄鋼に注目が集まるのは不自然ではない。


B 留意が必要なのは、計画生産量であって、各製鉄メーカが過剰投資をすることになると、業績は一気に落ちることになる。

 

A 新日鉄住金としては、過剰投資で業績落ち込んだエッサールを買収することで、新規投資で全て賄うより利がある、という判断のように報じられている。しかし、この買収は単なる投資以上の価値がある。インド市場攻略は15~30年程度のスパンで構える必用があり、そこの底に流れるはインド独特の風習・価値化、そして人依存の文化である。プロダクトだけでなく、4P全体がローカライズされ、地に根を張る必要があり、単に投資として捉えて工場を作ってもうまくはいかない。地場企業を買収する意味は、表面にはでない、価値を買うことに値する。

 

B 今回の買収で重要になるのはPMI。買収で目指すは、分子を大きく分母を小さくすること。エッサールは過剰投資をしており、再建フェーズにある。ここで、新日鉄住金の「色や臭い」を出し過ぎると、合理的な再建であっても、それは進まないどころかマイナスに作用しかねない。ミタルの方がこのノウハウは持っているだろう。しかし、それでも現地経営陣と幹部が基本的に主導すべきであり、ミタル・新日鉄住金から常駐幹部を送り込み再建へのアシストをするという役割が必用になる。ロジックが成立しない部分が重要になってくる。必ず、現地に赴き常駐する必要がある。新日鉄住金からも中堅のエースを駐在型で送り込むべきだ。

 

*1 World Steel Association    https://www.worldsteel.org/media-centre/press-releases/2017/world-steel-in-figures-2017.html

*2 JBIC 2017年8月 インドの投資環境  https://www.jbic.go.jp/ja/information/investment/inv-india201708.html

 

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